卓話


取締役会の実効性とは

2019年5月29日(水)

(株)プロネッド
代表取締役社長 酒井 功君


 昨今、コーポレートガバナンスについての意識が高まる中で、取締役会の実効性という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。では、取締役会の実効性とは何を意味するのでしょうか。コーポレートガバナンス・コードは、その定義を定めていません。その結果、取締役会の実効性について様々な疑問や誤解が生じています。まずは、そのような事例をいくつか紹介させていただきます。

 まず初めに、「立派な人物を社外取締役に迎えている」ことイコール取締役会の実効性と言えるのでしょうか。或いは、「活発な議論が行われている」ことイコール取締役会の実効性があると言えるのでしょうか。これらの要素は、重要ではあるものの、実効性そのものと言うよりは、実効性の前提条件と言うべきでしょう。

 次に、「業績が良い」ことイコール取締役会の実効性と言えるのでしょうか。会社の業績には取締役会の活動以外の様々な要素が影響しています。取締役会だけを切り出して業績に対する貢献度を測ることは実務上困難です。

 また、「経営判断の原則に則って審議している」ことイコール取締役会の実効性と言えるのでしょうか。「経営判断の原則に則っている」ということは、法律上求められる水準を満たしているということに過ぎません。「取締役会の適法性」とは言えても、「取締役会の実効性」とは言い難いでしょう。

 最後に、「コーポレートガバナンス・コードの原則全てにコンプライしている」ことイコール取締役会の実効性と言えるのでしょうか。コーポレートガバナンス・コードに含まれるガバナンスのベストプラクティスは、実効性を確保するためのツールであり、これらをすべて実施しただけでは、実効性を確保したとは言えないでしょう。

 それでは、取締役会の実効性をどのように考えるべきでしょうか。
 取締役会の実効性について考えるということは、取締役会のあるべき姿、或いは果たすべき役割を明確化することであると考えます。ここからは、取締役会の歴史的な変遷を見ながら、取締役会のあるべき姿について考えてみたいと思います。

 かつての取締役会は、経営会議で決まった案件を追認することが主な役割である「経営会議追認型」でした。

 その後、見識の高い社外取締役が選任されるにつれ、取締役会での議論も活発になったものの、取締役会は、次から次へと様々な案件が付議される「個別案件処理型」でありました。社内の事情を知らない社外取締役は、膨大な資料を手渡され、長時間の説明をうけて、やっとのこと概要を理解して、取締役会で“有益なご意見”を披露することができるようになるわけです。

 その結果、社外取締役からは、“経営に貢献しているといった実感がない”、“会社のお役に立っているのだろうか”という声が聞かれ、社内取締役からも、“経営会議との重複感がある”、“意味のない議論が多い”という声が聞かれます。

 では、経営会議との重複感がなく、意味のある議論が交わされる取締役会とはどのようなものでしょうか。それは、会社の直面する重要な経営課題に直結した「経営課題中心型」の取締役会ではないでしょうか。重要な経営課題の中でも、経営陣中心で決めることが必ずしも妥当でないような事項、また、社外の“目”を活用することにより一層高度な意思決定が期待できる事項については、取締役会こそが重要な役割を果たすことができるのです。それは、成長戦略であるかもしれないし、構造改革であるかもしれません。経営の承継であるかもしれないし、リスク管理体制の強化であるかもしれません。

 このような取締役会を実現するためには、まず、会社の直面する経営課題を明確化して、次にその課題を克服するために取締役会の果たすべき役割を明確化し、更にその役割が果たされているかについて検証をするというプロセスが重要です。このようなプロセスを経た取締役会こそが実効性のある取締役会であると考えます。