卓話


イニシエイションスピーチ

2011年1月26日(水)の例会の卓話です。

内田 満君
海老沢 勝二君

容貌と形成外科

            東京慈恵会医科大学形成外科
            主任教授  内田 満 君

 私は形成外科医でありますが,形成外科は一般の方々には正しく理解していただけない場合が多いようです。「形成外科と整形外科はどう違うのですか」という質問はこれまで何度されたかわかりません。とりあえず形成外科はQuality of life,生活の質を改善する科とご理解下さい。

 日本と違って欧米では形成と整形の違いを説明する必要はありません。形成外科,plastic surgeryは特別な響きがあるようで,私がplastic surgeonであると名乗ると,多くのご婦人方は好奇の眼差しでみて下さいます。ただ私は一刻も早くこの誤解を解きたいと思い,plastic surgeonといってもpediatric plastic surgeon,つまり小児形成外科医ですと付け加えることにしています。するとご婦人方は皆さんがっかりして,突然興味を失くしたような表情をなさいます。欧米の人達にとっては,形成外科医は美容外科医と同義語,ほとんど同じ存在であるようです。

 人間が自分の顔にこだわるのは大昔からのことですが,容貌を扱う形成外科はごく新しく誕生した科です。第一次世界大戦中に多くの兵士が負傷し,特にその顔のけががヨーロッパで,あるグループの外科医によって治療される中で,形成外科という専門性が独立しました。アメリカ合衆国は第一次世界大戦に参戦して,はじめて形成外科という専門性の存在を認識したと言ってもよいでしょう。戦争で傷つき破壊された顔貌を,いかにして修復し再建するかということに多くのエネルギーが費やされました。その結果,手術的に容貌を変える技術がこの時期に飛躍的に進歩しました。第一次大戦後の束の間の平和な時代に,ヨーロッパで美容外科が誕生し,それはまたたく間にアメリカを経て全世界へ拡がりました。

 容貌は人が自分自身に対して抱く自己イメージとイコールではありませんが深く関わっています。人が容貌がもたらす自分のイメージをどのように認識するかには大きな個人差があります。またある一人の人の人生の中でも,時期によって大きな違いがあります。

 医学が進歩したといっても,普通とは異なった顔かたちで生まれてくる赤ん坊の数は昔も今も変わっていません。このような赤ちゃんは通常生まれて数カ月で,最初の手術を受けます。しかしまだ治さなければならないところが残ってしまうことがしばしばあります。子供は自分の顔のことを小学校入学まではほとんど気にしません。保育園や幼稚園で周囲の子がそのことを指摘したとしても,それはたわいのないものであり,理解して本気で言っているわけではありません。言われた本人もほとんど気にしません。しかし小学校1年生はそうはいきません。それは人格ができ上っていくうえでの重要なcritical pointです。

 形成外科医は,子供達が人格の形成にとって最も大切な小学校1年生を何とか乗り切れるように,小学校入学時をできる限り良い状態で迎えられるように,治療の計画を立てます。小学校以降も自己イメージがクローズアップされる時期がときどき訪れますが,その時期は容貌を扱う形成外科医の出番であると言ってもよいでしょう。それはその人にとって大きな環境の変化と同時に起こる場合が多いと言えます。

 形成外科には美容外科のように容貌を美しくする華やかな側面もありますが,全く地味な修復と再建という面もあります。この二面性が形成外科の魅力のひとつです。そして実際は,華麗な美容外科と地味な再建外科の間に厳密に境界を引くことはできないということを最後に述べておきたいと思います。

世界で活躍できる人材の育成

            学校法人大隈記念早稲田佐賀学園
            副理事長 海老沢 勝 二 君

 教育は今,どこの国でも「国家百年の計」と位置づけ,人材の育成に力を入れている。特に,これまで長い間欧米の先進国に支配された植民地,後進国,開発途上国,そして新興国といわれる国々が,国際化・グローバル化が進む中で,今こそ世界で活躍できる人材を育て,早く先進国並みになろうと懸命である。

 日本も江戸時代の寺子屋や私塾・藩校を土台に明治維新から富国強兵,殖産興業のスローガンをかかげて,欧米先進国に追いつけ追い越せと近代化に向けて試行錯誤しながら努力してきた。

 戦後,GHQの占領政策等で日本の教育制度は大きく変わった。教育のシステムが6・3・3・4制になり,中でもエリート教育をめざし,全国に32校あった旧制の高等学校や各県に設立された教員養成のための師範学校等が廃止された。さらに歴史や文化,道徳教育が軽視され,日本の教育水準の低下を招くと共に,日本人の精神文化を劣化させるような教育課程・カリキュラムが幅をきかせている。この教育のあり方については関係機関等で議論,検討されているが,これまで若干の手直し,見直しがあったものの大きな改革は進んでいない。こうした中で国も国民も高度経済成長のおかげで物質的に生活が豊かになり,高校も希望者全員が入学できるようになった。更に大学の数も年々増えて,現在,国立・公立・私立合わせて全国756校,学生も在校生282万人を数える。

 ところがここ数年来日本は少子高齢化時代に入り,大学の数が増えたのに対して18才人口の減少と共に受験生が減り,定員割れの大学が出て,経営に苦しむ学校も出ている状況である。また,日本の学生のアメリカなど外国への留学が年々減りつつあり,逆に中国や韓国等が大幅に伸びている。

 このような状況の中でさらに問題なのは,私もNHKで職員の採用にかかわってきたが,今の多くの大学生は私共の時代と違って,授業はさぼらず熱心に勉強しているが,個性豊かで面白みのある人材が少なくなったこと,どこの大学の出身かその特色・カラーがほとんどなく東大か慶応か早稲田出なのか一見してわからない,つまり金太郎飴のようにどこを切っても同じ顔のように見える。大学の関係者に聞いてみると凡そ70%が首都圏,東京,神奈川,埼玉,千葉の一部の出身者で,しかもほとんどの学生が塾か予備校に通い,地方出身者にとっては狭き門になっているという。

 このように日本の教育現場は多くの課題をかかえて危機感が募っている。一部,改革に具体的にのり出したところもあるが,もっと日本独特の多様な教育が出来るよう知恵を出し合い,スピード感をもって実行することだと思う。

 私もNHKを退職した後,志を同じくする早稲田大学の奥島元総長をはじめ仲間と一緒になって,大隈重信候の出身県である佐賀県の唐津市に早稲田大学の付属校として学校法人大隈記念早稲田佐賀学園を立ち上げた。この学校は昨年春に開校し,文武両道,質実剛健をかかげ,中・高一貫教育で男女共栄,旧制高校やイギリスのパブリック・スクール等を参考にした全寮制,さらに来年度からアジア各国から2割程度の留学生を受け入れるなど世界に門戸を開いた国際的な学校にするつもりである。またこの学校は,近くの国立の九州大学と佐賀大学と協力連携関係を結び,両大学の副学長に理事に就任していただくなど,人材の育成に協力しあう体制を整えているのも特色の一つである。

 そして少子高齢化,核家族化,地域コミュニティーの崩壊が進んでいる中で,若い中学生ごろから寮生活で人間の生き方,人とのつき合い方など人間学を学び,世界で活躍できる忍耐強さ,したたかでしぶとい責任感の強い人材,また異文化を理解し尊重できる度量と寛容の精神のある人材,それに助け合いと思いやりのある人間性豊かな人材を一人でも多く輩出するように努めたい。