卓話


働き方革命〜100人100通りの働き方〜

2017年4月19日(水)

サイボウズ(株)
代表取締役社長 青野慶久氏


 私は働き方改革の専門家ではありません。一ソフトウエア企業の社長です。その会社がどうやって働き方改革をやってきたのかをお話します。

 ソフトウエア企業ですから基本的にはブラックな会社でした。1997年の創業後しばらくの離職率は、15パーセントから20パーセント。IT業界では普通の数字で私も気にしていなかったのですが、2005年に28パーセントまで上がってしまいました。こうなると、採用が大変です。辞める人に「辞めるんだったら、給料上げようか」と言ってみましたが、結局どんどん辞めていきます。そのとき、働くモチベーションは人それぞれ違うということを、初めて理解しました。私のようにガツガツ働いてお金をたくさんもらえれば満足な人間もいるし、仕事と家庭のバランスをみたい人、仕事の内容をみている人もいる。

 そこで方針を転換することにしました。それまで人事制度は一律だったのですが、人それぞれの人事制度があってもいいのではないか。「これからはみんなのわがままを聞いていくからどんどん言ってくれ」。こんな宣言をしたところ、みんなわがままをいっぱい言ってくれました。まず時間です。残業したくない。短時間勤務したい。週3日しか働きたくない。こんなことをしながらいろいろな制度を作ってきました。

 方針を転換したら離職率が下がってきました。28パーセントだったものが、この5年は5パーセントを下回る水準になっています。これはIT業界的には、相当低い水準になります。業績のグラフと重ねてみると、2005年以降離職率は下がっていき、リーマンショックなどでかなり厳しい時期があったのですが、クラウドサービスのほうに事業をうまく転換でき、今は急成長しています。離職率が下がって売り上げが伸びているという構図になっています。

 今は、時間だけではなく、働く場所も選べるようになっています。9通りのモデルから自分の働き方を選択し、それを宣言し、お互い働き方を理解した上で働いています。そうすると、女性でもとても働ける人が出てきました。執行役員の中根弓佳は、まだ30代で、二人の子育てをしながら働くワーキングマザーです。去年の3月まで子どもが保育園に行っていたので短時間勤務をしていました。彼女は今、日本の働くお母さんのロールモデルになりつつあります。

 また、育児休暇が短いと言われて、6年にしました。すると、出産で辞める社員がゼロになりました。男性、女性問わず取れるようになっており、最長4年8か月で戻ってくれた人がいます。

 在宅勤務にもチャレンジしたところ、営業だろうが、経理だろうが、ほとんどの仕事が家でできるようになりました。東日本大震災が起きたときには、全員在宅勤務体制を敷いたのですが、問題なく業務を続けられ、ほかの会社が決算発表を遅らせる中、サイボウズだけは予定通り決算発表することができました。それまで、在宅勤務というのは、働くお母さんのための制度だとどこかで思っていたのですが、実は、非常時にオフィスがつぶれようともお客様にサービスを提供し続けられる、そのための制度なのだということをここで教えてもらいました。

 ここで、子どもではなく、自分を育てる「育自分休暇」をご紹介します。社外で新しいノウハウを獲得して戻ってきてほしいと、1回辞めても6年間は戻ってくることができる制度を作りました。もう8人くらい戻ってきています。長山悦子は、入社4年目に青年海外協力隊に応募して合格し、どうしても行きたかったので、1回サイボウズを辞めて、3年間アフリカのボツワナで起業に取り組み、この3月、サイボウズに戻ってきました。アフリカで事業をやったことがある人は、なかなか採用できない。しかもグループウエアがわかっていて、サイボウズが好きな人はあり得ない。これからグローバル展開していく中で、大変ありがたいことだと思っています。

 また、副業を自由化しました。中村龍太は、週4日サイボウズで働きながら農業をしています。クラウドサービスを使ってなんとかしたいと、農業は今、どんどんIT化が進んでいます。ところが、農業がわかる人はクラウドがわからない。クラウドがわかる人は農業を知らない。しかし、彼は両方がわかります。彼の農場はどんどんIT化されて、その先行事例をもって、今、日本の農業法人に横展開が進んでいます。私たちのソフトが、農業分野に売れるようになってきたのです。

 こうした多様な人たちをどう評価していくかは、長年課題だったのですが、今は「市場性に任せる」というところに落ち着いています。この人が転職したとしたら、転職市場はいくらつけるのだろうか。もしくはそういう人がサイボウズに応募してきたら、私たちはいくらオファーするだろうか。つまり、社員同士を比較せず、一人一人が市場においていくらのバリューがあるのかを基に給与を決めることにしました。社員が多様すぎて比較できず、ある意味こうするしかなかったのです。

 社内の制度をいろいろ紹介しましたが、この人手不足の中、中途の社員の応募が大変多くなっています。また、「働きがいのある会社」の女性ランキングで、中堅企業では1位をいただいています。

 ただ、これまでお話ししたのは「制度」の部分なのです。実際には、「ツール」と「風土」が変わらない限り働き方改革は進まない、というのが実感です。例えば、「ツール」。在宅勤務の「制度」を作ったとしても、家にパソコンがなく、セキュリティも確保できていないとなると、仕事はできません。それから「風土」。在宅勤務をやるようなやつは出世をあきらめたやつだというような風土であれば、だれもやりません。

 ツールについては、スマートフォンからログインすれば簡単に出勤できて、みんなの仕事のこともわかり、コミュニケーションもでき、データベースにもアクセスできる。そういうバーチャルオフィスが必要です。風土を変えるには率先垂範しないといけないだろうと、私は、長男、次男、長女が生まれるたびに育児休暇を取っています。一昨年は長女が生まれたので、上の二人の保育園の送り迎えのために半年間4時に退社していました。こうなると5時に退社するお母さんは余裕です。あれでいいんだという安心感が出てきたのではないかと思います。

 育児をしてみると驚くことがあります。この大変さを女性一人に押しつけるというのはあり得ない、普通の仕事のほうがはるかに楽だということとともに、育児の大切さもわかりました。育てている子どもが20年後には大人になって働いてくれたり、物を買ってくれたりする。育児というのは経済活動であって、これがあって初めて私たちは商売できる、そんなことにも気づかされました。

 この40年間に日本の赤ちゃんの数は半減しており、非常に危ない状況にあると思います。解決法の一つに、夫の家事・育児参加があります。夫が家事・育児に参加する家庭は、第二子が生まれる確率が7割くらいまで上がり、夫が参加しない家庭は1割を切るというデータがあります。こんなわかりやすいデータがあるのに、男性にとって「不都合な真実」であるために、それほど出回りません。私もいろいろな経営者や政治家の人たちと話をするのですが、なかなかわかってくれません。あるとき、この人たちは家庭を顧みずに働いてきたからこそ、今その地位にいたりする、この人たちに言っても無理だなと気づきました。ただ、次の世代に同じことをさせてはいけないので、彼らを「育ボス」化していくということが重要課題になろうかと思います。

 今、フローレンスの駒崎弘樹さん、ワークライフバランスの小室淑恵さんといった人たちががんばって活動してくれていますので、私も情報発信していこうと、積極的にメディアの取材を受けるようにしています。総務省、内閣府、厚生労働省など、国のほうからも、いろいろなプロジェクトに呼ばれるようになりました。そうしているうちに1年ほど前に「保育園落ちた、日本死ね」というブログが国会で取り上げられたことをきっかけに、安倍総理も「最大のチャレンジは働き方改革であります」と述べるようになりました。そこに電通の事件があり、上場企業の社長は、やらなければならないという焦りをもってこの問題を迎えています。今、ようやく社会が動き始めたと実感しています。

 働き方改革は、啓蒙するフェーズは終わったように思います。あとはやるかやらないかです。難しいものではありません。一人一人の働き方に合わせて働こう、残業しないで帰ろう、それだけなのです。今日ここで話をお聞きくださった皆様には、帰る覚悟を、そして自分も変わる覚悟をもっていただいて、共に日本を変えていければと思います。


       ※2017年4月19日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。