卓話


環境保全月間例会
炭素繊維による水質浄化
(炭と自然力による水環境整備)

2009年5月20日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

群馬工業高等専門学校 特命教授
工学博士 小島 昭氏 

 炭素繊維を使って水質を浄化する,つまり炭と水という自然の力を使って水環境を整備する技術についてお話をいたします。

 地球は水の星です。ところが,その水が段々なくなってきました。今の環境問題は二酸化炭素ですが,やがては水が問題になるといわれています。

 今日お話しする,カーボンファイバー(炭素繊維)は「強い・軽い・燃えない」という性質を持っていますが,私は,この物質が生き物に対して極めて優しいという不思議な性質を見つけました。

 私たちが実際に使っている炭素繊維は,人間の髪の毛の10分の1の太さにしたものを,1万2千本集めたものです。電子顕微鏡で見ると,真っすぐな糸です。木炭と同じような穴があることを予想しましたが,穴は全くありません。

 15年前のことです。たまたま,この炭素繊維をどぶに落としました。あわてて引き上げると葉っぱが2枚ほど付いていました。触ってみると,ぬるぬるしています。このぬるぬるしたものは何だろうと思いました。
 実は,その「ぬるぬる」は生物膜だったのです。一瞬にして微生物が付着して,できたものでした。

炭素繊維は「強い(鉄と同じ)・剛い(曲がりにくい)・軽い(鉄の5分の1)・燃えない・細い(髪の毛の10分の1)」という性質の他に,水をきれいにする力が強いという性質をもっています。

その性質を利用して,現在,北海道から九州までの各地,約250カ所で,「水質を浄化して,魚類の生息を促進する」環境整備を進めています。

炭素繊維を群馬の桐生織りで織って「むかで形」にしたり,京都の西陣で織って布状にした素材を使って実験すると次のような結果が得られました。

日本のワースト2である宮城県伊豆沼の水を採取して,その器に5メートル程の炭素繊維を入れて,かき回して3時間置いておきますと明らかに透明になっていました。水の汚れが炭素繊維に集まって付着したためです。

 浜松市の,ある池のヘドロ除去にも効果を発揮しました。この池には1メートルぐらいの深さにヘドロが埋まっていました。メタンガスの匂いも鼻を突きます。この池に炭素繊維を設置して4カ月経つと状況が変わりました。何もしないで置いておくだけです。自然の中の微生物が炭素繊維に集まり,その微生物たちが水を浄化したのです。池はすっかり透明度を増しました。

 水中カメラで観察すると,炭素繊維に微生物が付着して水が透明になり,魚たちが元気よく泳いでいる様子が観察できました。

 群馬県榛名湖では,冬のワカサギ釣りが有名です。ところが,今から12〜3年前。全く釣れなくなった年がありました。

 地元からの要請を受けて,水の浄化実験をしました。周囲4キロある湖のわずか0.5%の広さの箇所に炭素繊維を設置して,水深5メートルの所に人工の藻を造りました。

 モニターカメラで観察しますと,プランクトンが集まってくる様子が鮮明に捉らえられました。自然に集まってきます。それが魚たちの餌になりますから,やがて,鯉や鮒が呼び寄せられるように集まります。

 ワカサギは炭素繊維の細いところに卵を産み付けていました。卵を産み付けるのは炭素繊維だけです。ナイロンやポリエステルには変化がありませんでした。

 水草に産卵するのが普通です。ところがワカサギは水草より炭素繊維を選びました。卵は無事に稚魚になって元気に湖の中を泳ぎ回るようになりました。

 炭素繊維を仕掛けた箇所に定置網を入れてワカサギの存在を確かめました。30メートル離れた箇所には全くワカサギがいないことも確認できました。榛名湖は炭素繊維で藻場を造ってから,ワカサギは入れ食い状態です。10年間,なんのメンテナンスもせずに,この状態が続いています。このように自然の力を呼び戻すのが炭素繊維です。

 駿河湾でも試しました。水深10メートルの所に炭素繊維の森を造りました。まさに人工の海洋牧場の様子を呈しています。

池,沼,湖には,よく「アオコ」が発生します。アオコの発生原因はリンです。そのリンを取り除く実験もしました。炭素繊維と金属鉄板を接着して合わせたものを水中に投じますと,鉄イオンとリン酸が化学結合して,水に溶けないリン酸鉄が形成されます。この実験では金属の金網を使いました。実験を始めて数時間で金網は真っ赤に錆びてしまいました。水中のリンはゼロとなりました。これによって,アオコはでにくくなるでしょう。

 一般的に,炭素繊維を使った水質浄化は,その土地にいる生物体を使った,地産地消を活用した技術です。東京では東京にいる微生物を使います。微生物は水の汚れた物を食べてガスに変えます。これは自然の力を100%発揮する技術です。エネルギーはいりません。生き物を活用したローテク技術です。

 魚類を増やす技術も,その土地にいるプランクトンを集め,そこに魚を集め,自然の力で卵を産ませるという自然の力の応用です。

 水中の炭素繊維は,そこにいる微生物をたくさん集め,その微生物たちが活躍する場所になります。ヘドロは水質汚濁の最大の原因ですが,そのヘドロも微生物の力で分解してガス化します。「炭と微生物」の力を利用すれば水質の浄化はさらに向上するものと確信しています。