卓話


米山月間例会
日本での留学生活

2020年10月7日(水)

東京医科歯科大学大学院博士課程
米山奨学生 王 馨爽さん


 私は中国の大連市で生まれ、2016年6月に大連医科大学を卒業後、同年10月に来日しました。現在、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科医歯学系専攻博士課程の4年目に在籍しています。細胞薬理学分野の研究室で、脳内に存在している免疫系細胞ミクログリアの電位依存性カルシウムチャネルの神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病)における機能の研究をしています。少し忙しいですが、楽しく充実した生活を送っています。

 私は今年度のロータリー米山奨学会の新規奨学生になり、7月から1年間、東京ロータリークラブの例会に参加することになりました。私のカウンセラーは油井直次さんです。とても優しい方で、私の話をよく聞いて下さって、私の面倒を見て下さいます。

 日本への留学を決めたのは大学2年生の時でした。当時から、将来は研究者になりたいとの気持ちを強く持っていました。大学卒業後、留学して、外の研究の世界を見たい、そして、自分の好きな研究分野で活躍できる研究者になりたいと思いました。

 留学先に日本を選んだ理由は二つあります。一つは日本語と日本文化にとても惹かれたことです。私は日本のアニメが好きで以前からよく見ています。声優さん達の声を聴いて、日本語はすごく不思議で綺麗な言葉だなと感じました。日本語の勉強も当時から始めました。私の日本語の先生は日本に長く住んだことがあり、日本文化についてよく分かる方でした。

 最初にこの先生と出会った時、日本語を話せる中国人なのか、中国語を話せる日本人なのかがわかりませんでした。中国のお年寄りと少し雰囲気が違い、より謙虚な感じがします。そして、少し古い日本語を使う方です。

 日本語の小説を読みたいと先生に推薦をお願いした時、先生は夏目漱石さんの『吾輩は猫である』、と『こころ』を勧めて下さいました。当時はとても読みづらいと思いました。先生からは日本語だけではなく、日本の昔の物語も教えていただきました。そして、私も日本へ留学して、どのような国なのかを経験したいと思い始めました。

 第二の理由は、日本の医療のレベルが世界でも上位にあることです。基礎医学の研究も世界トップレベルです。私はそこで研究に携わり、研究者になるための知識や技術を身に付けたいと思いました。

 その夢を叶えるために、2016年10月に来日しました。最初、半年くらい大学院研究生として研究生活に慣れた後、博士課程に入りました。所属している研究室の先生方はとても優しいです。私がわからないことがあればいつでも、私のことを優先して丁寧に教えてくださいます。大学院生は最初の頃は自分の研究テーマがなく先輩のお手伝いのみしているケースが多いのですが、私は恵まれており、研究生の頃に既に自分の研究テーマがあって研究を始めることができました。

 私は今、ミクログリアのカルシウムチャネルのアルツハイマー病における役割についての研究をしています。カルシウムチャネルは細胞膜に存在するタンパク質です。状況に応じて細胞外から細胞内にカルシウムイオンを選択的に透過させることができます。カルシウムチャネルは現在10種類が知られており、私が注目しているのはその中の一つ、Cav1.2カルシウムチャネルです。

 アルツハイマー病は脳が萎縮していく病気で、有名な症状は記憶障害です。この病気は時間の経過とともにだんだんと悪くなっていきます。病気が悪くなると認知障害もだんだん現れます。最後に寝たきりになって一人では何もできなくなる可能性が高い、大変な病気です。

 病因はいまだに詳しく知られていませんが、脳内の異常タンパク質の凝集(amyloidβ)が関与している他、脳内炎症も関与していると示唆されました。脳内炎症に関わる主要な細胞がミクログリアです。

 ミクログリアは中枢神経系グリア細胞の一つで、中枢の免疫担当細胞として知られています。正常状態では脳や脊髄に存在し、細胞同士がお互いに重ならず分布しています。ミクログリアは細長い突起を持ち、それをダイナミックに動かして神経細胞(シナプスや軸索等)に接触させ、その機能を監視・調節しています。

 病気になった時には、ミクログリアは活性化状態となります。活性化状態は大きく分けて、炎症促進性のM1型と炎症抑制性のM2型の2種類があります。M1型ミクログリは細胞障害性の分子を産生し、M2型ミクログリアは栄養因子を産生して細胞を保護します。このM1、M2の活性化は脳内炎症に大きく関与していると示唆されています。

 そして、ミクログリアは貪食作用を持っています。貪食作用は、脳内の異物、異常たんぱく質の凝集体、死んだ細胞の残骸を食べるスカベンジャーの働きです。貪食作用により脳内の悪いものを排除できます。

 私の研究の目的は、ミクログリアのCav1.2を抑制した後、ミクログリアのM1、M2型への活性化パターンにどのような影響があるかを調べることです。そして、ミクログリアの貪食作用についてもCav1.2が抑制された後、食べる能力にどのような影響があるのか、それにより、アルツハイマー病の時、ミクログリアのCav1.2を抑制した後、病気はどうなるのかを調べたいと思っています。

 私は医学部検査学科で医学関連領域を学びましたが、医師ではないため、直接患者さんの命を救うことはできません。けれども、将来、研究者としてこのような神経科学に関する研究に従事し、難治性神経疾患の病態解明や新たな治療方法の開発に貢献したいと思っています。

 そして、将来の夢はもう一つあります。大学に就職して、研究を続けたいと思います。大学の研究者は研究の外、教育にも従事しますから、自分の研究を遂行するだけではなく、教育者として多くの人に神経科学の事を紹介し、神経科学の面白さを伝えることもできます。そして、神経科学に興味を持つ人の中から優れた研究者を育てたいと思います。この夢を叶えるため、今はできるだけたくさんの物事を学び、自分の視野を広げたいと思います。

 私はいつも恵まれていると思います。私は今年度ロータリー米山奨学会の新規奨学生になり、1年間奨学金を頂けることになりました。今年度は、新型コロナウイルスの影響で、アルバイトでお金を稼ぐことが難しくなり、学校生活を続けられなくなる学生が沢山出たと聞きました。私は米山奨学金のお陰で、沢山の時間を勉強と研究に費やすことができました。そして、研究成果を論文にまとめ、今年9月に共著者としてFEBS Lettersという科学雑誌に発表することができました。

 今年7月からは東京ロータリークラブの例会に参加できるようになり、色々な分野のトップにいる方々と出会うことができました。皆様とお話したことで、自分が将来どのような人になりたいのか、より明確になって来た気がします。私は今までずっと学校で勉強をしてきたため、両親に負担をかけています。そのため、少し前は、卒業後は安定した仕事を見つけて、自分の給料で自分の生活を維持できたらいいなと考えていました。しかし、皆様と色々お話しをした後、私は何かから逃げているということに気がつきました。

 中国には「学如逆水行舟,不进则退」という諺があります。人は常に物を習い自分を充実して進歩しないと流されてしまうという意味です。これからも知識、経験などをどんどん身に付けないと、いずれ研究の世界に残れなくなる。頑張ると必ず上に行けるわけではありませんが、勇気を出さずそのままにしてはいけないことに気がつきました。ロータリー米山奨学会の奨学生になって、自分の気持ちが以前より前向きになったと感じます。

 私はロータリー米山奨学生になって最初のオリエンテーションで油井さんと出会いました。油井さんは私が大連出身と知ると、東京ロータリークラブの皆さんの中には昔大連に行かれたことのある方が多く、私が大連から来たと聞きくと懐かしいと思う方が結構いらっしゃると私におっしゃいました。そして、私より大連のことに詳しい方が沢山いて、皆さんから私がよく知らない昔の大連の話も色々聞かせてくださいました。皆様とのお話はとても楽しいです。

 ロータリー米山奨学生になって、最初のオリエンテーションの時、米山学友会の理事長、梁一強さんと出会いました。米山奨学生は、本来なら学友会で沢山の交流機会がありますが、今年は新型コロナウイルスの影響で色々な交流機会が失われました。梁さんもこのことを心配し、色々考えて下さいました。

 その結果、7月4日に食事会ができました。梁さん、先輩の劉さんと同じ東京ロータリークラブのイクラムアリフさん及び私を含めて新規奨学生7人、合計10人で楽しい時間を過ごしました。ラオスのキャットさんとミャンマーのカインさんも参加し、仲良しになりました。

 そして、つい最近、前橋ロータリークラブの曽我隆一様、私のカウンセラーの油井様のお陰で、前橋ロータリークラブの元米山奨学生・姜霞先輩との繋がりができました。姜さんは私と同じ大連出身で、日本で医師として長く働いています。姜さんはご自分の仕事での色々な楽しいことを私と共有して下さいました。私が日本で仕事を探したいとわかると、沢山のアドバイスを下さって励まして下さいました。姜さんとの出会いはとても貴重で、心強く感じています。

 ロータリー米山奨学生の最初のオリエンテーションで、奨学生の先輩、安さんのスピーチを聞いた時、安さんは、「ロータリー米山奨学生が頂けるものはお金だけではありません。私たちが予想もしなかった色々な良いことに出会える可能性があります」と話しました。今になってそれがよく理解できます。

 9月に私の博士号の学位審査試験がありました。無事に合格し、来年3月の卒業が確定しました。日本で研究者として就職できればと思っています。一人前の研究者になり、自分の力で人々の幸せに少しでも貢献できればと思っています。これからも精一杯頑張りたいと思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。


   ※2020年10月7日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。