卓話


資生堂のCSRの取り組み 

2月2日の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

蟷饑呼押
取締役CSR部長
 岩田 喜美枝氏

第4041回例会 

 Corporate Social Responsibility(CSR)については,さまざまな定義があろうかと存じますが,私が,一番にぴったりとくると思いましたのは,経済同友会・第15回白書に示された「CSR経営とは,さまざまなステークホルダー(Stakeholder)を視野にいれながら,企業と社会の利益を高い次元で調和させ,企業と社会の相乗発展を図る経営のあり方である」というものでございます。

 私どもは明治5年に創業し,133年を経た化粧品を中心とするメーカーでございますから,まず,如何にお客様に支持される商品を提供できるかということが第一義ではありますけれども,昨今では,商品の価値だけではなくて,企業そのものが,ステークホルダーの皆さま方に支持され,信頼されるものであるかどうかということが,企業経営にとって重要になってきていると思います。

 CSRとは何かという問いかけには,さまざまなご意見があります。企業の社会的責任と言うと,利益を上げて配当をお支払いしたり,税金を収めたりすることである。またなによりも,社員を雇用するのが企業の社会的責任と言う方もいらっしゃいます。

 昨今,残念なことですけれども企業の不祥事が続いておりますので,Compliance(法令順守)こそが企業のCSRの核であると言う方もおられます。また企業の社会的責任は,社会貢献活動と同様の意味で使われたりする場合もあります。

 いずれも当たっていないわけではありませんが,全体ではなく,CSRの一部を指していると思います。私はCSRというのは,ビジネスのすべてのプロセスの質を如何に高めるのか,ステークホルダーの満足度,信頼性を如何に高めるのか、という経営理念に基づいた,企業の根本となる活動であるといえると思います。

 私どもは,CSRの概念を基本的CSR,戦略的CSRの二つの領域に分けて考えております。基本的CSRというのは,ビジネスを行う限りにおいては,取組まなければ市場から撤退を迫られても致し方がないという領域,例えば,高品質な商品やサービスを適切な価格で提供すること,お取引先や従業員とのパートナーシップ,利益と配当,納税,雇用機会の提供などをしっかりと行うなどのことが挙げられます。戦略的CSRというのは,企業価値を高めることにつながる領域,例えば,環境保全,情報開示,人権擁護,個人情報保護,法令順守などの領域。そして,メセナ・フィランソロピーといった社会貢献活動,さらに,新しい価値の提示,市場創造などが考えられます。

 別の視点から見ますと、基本的CSRは企業価値をいかに守るかということを中心にした経済的役割のもの、戦略的CSRは企業価値をいかに高めるかという社会,環境的役割のものであります。

 当社の社長がCSRを人に譬えるのですが,「人の価値というのは外形的な体格と内面的な人格の二つで決まる。企業の価値も,売上や利益や株価といった財務的な諸表で計れる価値=体格で,人格に当たる面とがあって,後者の方がCSRだ」と言っています。

 私は,企業の創業理念を発展させた現在の経営理念を,企業をとり巻くステークホルダーとの関係のなかで,もう一度しっかり見直すことがCSRではないかと思っています。どの会社も本業を通じて社会のお役に立つことを経営理念となさっています。その情報をステークホルダーに発信する,ステークホルダーから情報を受信するということを従来以上に意識的に行うことがCSRかなと理解しております。

 私がCSR担当という仕事をいただいた時に,まず勉強いたしましたことは,当社の創業者はどういう気持ちでこの会社を興こしたのだろうか,また,これまでの経営者そして社員たちがどういう思いでこの会社を経営してきたかを歴史的に考えることでした。当社の歴代経営者の理念が形になって整理されたのが,1921年に制定された「資生堂5大主義」です。共存共栄主義,品質本位主義,消費者主義,堅実主義,そして徳義尊重主義の5つです。このように創業後の早い段階から,CSRを企業経営の理念として,社内外に発信していたのだと思うわけでございます。

 現在,私たちの拠り所になっているのが,1997年に作成しました「企業行動宣言<THE
SHISEIDO WAY>」です。これは資生堂の企業理念「美しい生活文化を創造する」のうえにたって,企業としてどう行動するかを定めたものでございます。「お客さまとともに,取引先とともに,株主とともに,社員とともに,社会とともに」というコンパクトな文章ですが,各々のステークホルダーと会社のより良い関係性を構築したいという,会社の決意を表明したものでございます。

 例えば「お客さまとともに」では,「美しくありたい,健やかでありたい,幸せでありたい。このお客さまの願いを,お客さまとともに育み,優れた品質と価値の創造を通じて,豊かに,かたちにしていきます。」というお約束をしております。

 この企業行動宣言を実践するために日々の行動を具体的に示したものが,1997年に定めた企業倫理・行動基準である「THE SHISEIDO CODE」です。2003年に大幅に見直し、改定しました。このコードの特徴は「…してはいけません。…を順守します」といった狭い意味でのコンプライアンスだけではなく,より高い次元の目標,戦略的CSRのレベルにまで入って,社員一人ひとりが日々の活動のなかで目指すことも掲げているわけでございます。

 また,この「THE SHISEIDO CODE」を日々の行動のなかで徹底するために,本社全部門・各事業所にコードリーダーを配置しております。職制のラインとは別に全国で600人ほど任命しておりまして,管理職もいれば一般社員の方もおります。このコードリーダーは企業倫理委員会のもとに動き,コードの内容を徹底する役目をもち,また逆に職場内の意見を吸い上げることもしております。

 基本的なCSRの領域は優先度の高い活動ですので,この領域は各社も取り込んでおられます。一方,戦略的CSRは各社各様で,その会社らしさを出して自由に活動できる領域です。そこで,戦略的CSRについて,いくつかの具体例をご紹介したいと思います。私は本業を通じたCSRが最も中心になるべきだと思っておりますが,化粧品メーカーであるからこそ,お客様やステークホルダーから期待されている部分があると思います。その一つが,セラピーメーキャップの領域で「パーフェクトカバー」というファンデーションで、これはお顔に怪我の跡や痣などがある方のためのものです。化粧は単に外見を装うだけのものではなく,自分を肯定する。自分に自信をつけることを助けるものと理解しておりますが,このような商品を通して,お客さまが社会に参加する参画することのお手伝いをするということになると思っております。

 CSRを社員との関係で申しますと,その7割が女性です。お客さまもほとんどが女性です。社内外の女性を支援するということを通じて企業が支持されるという関係性をさらに強くしたいと思っております。

 当社は,女性が活躍することへの支援を伝統的に早い時期から手掛けておりますが,女性の価値観,人生観からみて,会社が本当に共感してもらえるようなビジネスができているかどうかという観点で考えることが,会社がこれからも存続し続けることができるかどうかのポイントだと思っております。その為にも,もっと社内の女性が活躍すべきだと思います。男女雇用機会均等法の第1期生が,ちょうど40歳になっているのですが,それより若い世代は男女まったく同じ方針で採用され,育成されておりますので,優秀な人たちがたくさんおります。そのうち,女性の上級管理職,役員にどんどん出てくると思いますけれども,そのような優秀な女性の人たちに対して、いま何を応援しないといけないかというと,最大の問題は育児期です。育児期に会社を辞めず無理をせず仕事を続けられるか。単に続けるだけではなくて,育児期にも能力を高めキャリアをアップできるかという応援も行っています。

 東京近辺は保育所になかなか入れないという問題があります。いつ出産しても,いつ会社に復帰してもいいように,昨年9月に汐留に,カンガルームという企業内の託児所を設けました。近隣の他社にも共同利用していただきまして,社会貢献的な位置づけでもございます。

 THE SHISEIDO WAYの「社会とともに」という分野では,一企業だけで全てのことを解決できるわけではございません。その企業がもっている資源を使いながら,社会問題の解決の一助になるということが大事だと思っております。その一例ですが、「身だしなみ講座」という、戦後まもない昭和24年から50年近く続けている講座があります。私どもの社員が高齢者の施設をおたずねして,高齢者に化粧をしてさしあげます。ここでも化粧の力はすばらしいと思うのですが,それまで無表情だったお年寄りが化粧をしてさしあげると,ほんとうに生き生きした表情になり,お元気になるということを経験いたしました。お年寄りに化粧をさせていただいている社員が,またそこから力をいただいて,化粧品ビジネスはこんなにすばらしいことだったのだと気づくという,社員の自信にもつながっているということがございます。

 昨年の4月に,社長が直轄するCSR部ができました。コンプライアンスを中心とする基本的CSRは目立ちませんがコツコツとやる以外はありません。その上にある,戦略的CSRは,如何に資生堂らしさを出して,その活動によって,企業の価値を高めることができるかが重要だと考えております。そのために、資生堂らしいCSRとして,化粧品メーカーの強みを活かした美(アート)をキーワードに、これまで蓄積したノウハウや文化資産を活用した領域の活動を、より深めていきたいと思っております。

 第二は社内外のコミュニケーションです。ステークホルダーが当社に何を期待しているのかという視点を持ち,会社は今どんなことに取組んでいるのかということをステークホルダーに伝えるという双方向のコミュニケーションを強化したいと思っております。

 第三は,PDCA(Plan Do Check Action)のサイクルに合った活動を行うことです。これはどんな事業にも当てはまることですが、具体的な数値目標を掲げて,全社員が参画するCSR活動を目指してがんばっておりますが,なかなか思ったとおりにはいきません。

 引き続き微力ではございますが,他社さんのすばらしい取り組みなども勉強させていただきながら,少しずつ前に進んでいきたいと思っております。