卓話


全国穴ボコだらけ!今こそ必要な道路陥没予防対策

2017年5月17日(水)

ジオ・サーチ(株)
代表取締役社長 冨田 洋氏


 1989年、35歳のときにジオ・サーチ株式会社を創業し、翌年、世界初の路面下空洞探査システムを実用化しました。1992年には初代国連地雷除去責任者から要請を受けて対人地雷探知技術の開発に取り組み、現在は世界遺産に登録されているタイ・カンボジア国境のクメール遺跡周辺で10年以上にわたって地雷除去活動を行ってきました。そして2008年、地雷探知技術を進化させたスケルカ技術を世界で初めて実用化しました。これは、高速・高解像度で地中・構造物内部を透視し、地中の空洞を正確にスピーディーに調査する技術です。2011年の東日本大震災では、発生3日目から現地に入って調査を行い多数の空洞を発見しました。

 昨年11月8日に発生したJR博多駅前の陥没事故では、当日の夜に福岡市から要請を受けて、陥没地域周辺の安全確認のための緊急調査を実施しました。事故発生からわずか1週間で復旧したことは、世界の関心と称賛を集めましたが、福岡市の対応は非常に迅速で、私も驚嘆させられました。今年1月31日には今後について話し合うため、高島宗一郎市長と面談する機会も得ました。ここで、陥没予防対策の必要性を説明したところ、2週間後に市から空洞調査の強化、東京大学との共同研究、陥没等に関する知見の発信などを行うとの記者発表があり、具体化に向けてすぐに動き始めたのです。4月9日には九州の全自治体が大規模災害時に提携する覚書も締結しました。自治体が防災・減災のために協力するというのは、日本で初めての画期的な試みです。

 国内では地下の空洞による道路の陥没が年間5,000件以上発生しています。海外でも、ロシア、アメリカ、台湾、中国、韓国などで日常的に発生しています。そして陥没が発生しているのは、ほとんどが大都市です。では、どうして陥没が起きるのでしょうか。陥没は地中に発生した空洞の芽が拡大して起きるのですが、素因としては地中埋設物の輻輳、流出しやすい土質、地質や地形、掘削工事の履歴などが考えられます。また、空洞を拡大させる誘因としては、地中に埋設したインフラの老朽化・破損のほか、大雨、地震などの自然的な要素が関わっています。

 東日本大震災直後の緊急調査では、道路下に平常時の10倍以上の空洞を発見しました。地震発生直後、仙台の目抜き通りの1車線が延長約100mにわたって陥没が発生したため、調査のために出動したのですが、目抜き通りは穴だらけ。地下鉄周辺も大規模な陥没が発生していました。陥没は、地震の揺れにより地中の砂が沈下し空洞が生じたために発生したものです。震度5以上の余震が1年間で52回も発生したこともあり、修理をしても余震によって再び土砂が沈下するということの繰り返しで、復旧までには1年7カ月もかかってしまいました。最終的にはコンクリート版を敷設し、隙間にモルタルを注入するという補修を行いました。

 東京大学と当社の共同研究では、道路の下に空洞があると、地震によって一気に陥没が起きることがわかりました。古い下水道管が敷設されている道路では、下水道管の破損によって土砂が流出して空洞が発生するため陥没が多発しています。また、東日本大震災では臨海部にある物流拠点で陥没が多発しました。これは、岸壁の亀裂から護岸の裏埋土が吸い出されることによって発生した空洞が、津波の引き波によって拡大し引き起こされたものです。

 1995年に発生した阪神・淡路大震災では、地震によって生じた道路の段差によって交通渋滞ができ、消防隊が動けなくなりました。救急部隊が5時間遅れたことで、500人以上の命が失われました。段差によって発生した交通渋滞が、助かる命を奪ったのです。

 昨年の熊本地震でも、道路の陥没が多発しました。このときは古い下水管路が破損して汚水が地下水系に入ってきたので「一刻も早く調べてほしい」という宇城市の要請を受け、最新の「スケルカー」5台を投入しました。調査結果を全国の5つの拠点で即時解析することで、通常の10倍のスピードで調査を完了し、2ヵ月で約700個の空洞を発見・補修することができました。

 日本でいちばん空洞が多いのは東京都内です。13もの地下鉄の路線のほか、水道や下水道、電気、ガス、電話など、地下の埋設物・構造物は、世界でも一、二を争うほど複雑です。ちなみに、私どもの路面下調査の5ヵ年のデータによると、500mあたり1カ所の空洞がありますから、都内の道路ネットワークは穴ボコだらけといえます。特に、丸の内は200mあたり1カ所と空洞の数が最も多く、空洞の規模も大きいことがわかっています。

 東京都の地域防災計画は、建物の倒壊と火災を想定していますが、東京大学、茅ケ崎市と当社の共同研究の結果、災害時には建物の倒壊・火災よりも道路陥没による道路閉塞の影響がはるかに大きいことが明らかになっています。2012年に地域防災計画で空洞調査の実施が決定しましたが、維持管理の視点の調査にとどまっているのが現実です。一方、茅ケ崎市では路面下総点検3ヵ年計画が具体化し、道路陥没を考慮した地域防災計画の見直しが始まっています。

 当社では東日本大震災の教訓を生かすため、従来の調査手法を改善したスケルカ総点検手法を確立しました。これにより、路面下空洞調査の費用を2分の1に抑え、調査から危険箇所補修までの期間を10分の1に短縮することができました。熊本地震の調査で投入した最新の「スケルカー」は最高時速80kmで走行しながらマイクロ波を照射し、路面下や護岸の空洞を発見するだけでなく、橋梁床版の劣化箇所の発見や埋設物の形状・位置の確認なども可能となっています。危険箇所を見つけたら迅速に補修・補強するための注入工法も編み出しました。

 私はこの手法を使い、2020年の東京オリンピックまでに都内の道路の陥没予防対策を行うことを提案しています。23区内には幅5.5m以上の国道・都道・区道が計5,000kmあります。想定される発生空洞数は1万カ所ですが、そのうち約15%、1,500カ所の空洞は、震度5の地震が発生すると陥没すると推測されています。しかし、スケルカ技術を使って年2,000km程度を調査すれば、2020年までに23区内の道路の調査・補修を行うことが可能です。スケルカ技術は、調査・補修費の55%を国が補助する防災安全交付金対象にも選ばれていますので、すぐにでも始めるべきだと思います。

 これまで調査を実施してきてわかったのは、道路管理者は道路を守ろうとしているのに対して、私たちは人の命や暮らしを守ろうとしているということ。空洞調査はあくまで手段であり、目的は平時の事故防止と災害時の交通ネットワークを確保するための陥没予防対策の実現です。本社がある大田区ではスケルカ総点検手法による陥没予防対策を実施していますが、実は空洞が最も多発していたのは救急車が出入りする狭い道路でした。災害時にこの道路が陥没したら救急車は出動できません。ただちに補修することができましたが、今後も、災害時に必要な施設の周辺を調査・補強し、災害時の被害を最小限に抑えるように努めていきたいと考えています。

 海外からの調査要請もあります。ソウルではマイナス15℃の極寒の中、国会議事堂の周辺を調査し、3日間で約40カ所の空洞を見つけました。その後は、50℃という炎天下のバンコクへ移動し調査をしてきました。調査の現場では気合が必要ですから、知り合いのギタリストMASKROID氏にテーマ曲をつくってもらい、心が折れないようにテーマ曲を聞きながら頑張っています。

 これまでの路面下調査で発見した空洞の数は約5万カ所、調査した道路の総延長は地球4周分以上の17万1,474kmになります。現在は30台の「スケルカー」を全国に配備し、自然災害発生時には12時間以内に緊急調査が行えるような体制を構築しています。 防災・減災関連の調査・点検に携わる技術者には「質」と「倫理」が求められます。当社では、空洞を「見つける」のではなく「見逃さない」という品質の確保を最優先し、陥没予防調査をした箇所で見逃しによる被害が生じた場合には、その損害を賠償する品質保証も行っています。

 私は60歳の還暦の記念に、2015年秋から3年間、母校である慶応義塾大学理工学部で、寄附講座「貢献工学・減災学」を開講しました。災害に強くしなやかな社会をつくるためには、それを担う人財の育成が重要だからです。最近は、国内外で企業や技術者のモラルの欠如による不祥事が続出しています。特に日本の場合、自らが所属する企業・役所への帰属意識が強いため、公衆に対する義務よりも雇用主に対する義務が優先されがちですが、それではいけません。講座では工学者倫理についても教えながら、将来、この分野で活躍できる学生を育てていこうと考えています。


    ※2017年5月17日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。