卓話


イニシエイションスピーチ

2009年1月21日(水)の例会の卓話です。

杉田亮毅君
林康夫君 

激動するメディア業界と日経新聞の対応

蠧本経済新聞社
代表取締役会長 
杉田 亮毅君

 米国のサブプライム問題から始まった世界的な金融危機の影響は,日本のメディア界も直撃しています。私ども日本経済新聞社も例外ではありません。

 とりわけ大きな打撃を受けているのが広告です。2008年の日本の新聞広告費は前の年より約13%減り,8000億円台前半にとどまった見通しです。
  
 減少の主因は,企業が広告・宣伝費を削り込んでいることです。広告市場の構造変化も減少に拍車をかけています。

 第1の変化はデジタル化の加速で,特にインターネット広告の台頭が既存メディアのシェアを奪っています。もう1つはグローバル化に伴う広告の海外流出で,日本企業の海外売り上げ比率が高まるにつれ,国内の広告費を抑えてアジアなどに回す動きが目立っています。これらの変化は今の不況が終わっても続くのは確実です。新聞各社が今の営業のやり方のままでいれば,売上高などを元の水準に戻すのは難しいと考えています。日本の新聞界には,これから5年〜10年の間に,再編・淘汰の大波が押し寄せる恐れがあるとみています。

 私ども日本経済新聞社は2009年が会社の将来を左右する重要な1年になるとみています。今年,何にどのように取り組むのかが,5年後,10年後の日経グループのあり方を決めると考えています。最重要戦略の一つとして電子新聞の事業化に取り組んでいます。読者にパソコンやデジタルテレビなどのデジタル媒体で新聞を届ける有料のサービスで,紙の新聞を読まない若い人などに読者を拡大できる可能性を持っています。2010年春以降の事業化を視野に,準備を進める考えです。

 サービスの柱は,…夕刊の最終版の記事を紙の新聞よりも早く読めるようにする⊇斗廛縫紂璽垢24時間,随時詳しく報じるF匹澆燭ぅ董璽泙覆匹鰺修畫んでおけば,関連記事などをシステムが自動的に選び,読者オリジナルの新聞を作ってくれる「マイ日経」の3つです。紙の新聞と同等以上の収益性を持たせたいと考えています。電子新聞には確立した事業モデルはなく,挑戦する価値は十分にあるとみています。

 電子新聞を目指すと言っても,今後も紙の新聞が経営の軸であることは変わりません。私は紙の新聞について,主要メディアとしての地位は揺るがないと自信を持っています。
 
 日本の新聞の大きな特徴は,戸別配達システムが世界に類をみないほど整っている点です。新聞各社に安定収益をもたらし,国民生活に不可欠な知的インフラとしても寄与しています。

 新聞の将来に自信を持っているもう一つの理由は,新聞情報への読者の信頼度が依然高いことです。ある民間調査会社の世論調査では,「新聞の情報は信頼できる」と回答した人の割合が8割を超え,テレビや企業のホームページなどを引き離しました。高い専門性や見識を持つ記者の分析・解説記事などへの読者の信頼は,簡単に揺らぐものではありません。

 新聞が主要メディアの地位を保つには,戸別配達網の維持に新聞界として取り組むことが重要になってくると思います。過疎地の配達網を複数の新聞社が共同で維持するといったことです。紙面の中身で競争しながら,配達や製作などの分野では出来るだけ協力していくという姿勢が大切だとみています。

 もう一つ,新聞界の問題として考えるべきだと思うのが,新聞とデジタルとの関係です。新聞の広告収入減の背景には新聞からネットへの広告シフトがあると申し上げましたが,新聞社が自らの首を絞めているという面もあるのです。ヤフーなどネット大手のサイトに訪れる人の多くは,ニュースを読むのを目的にしていますが,記事の大半は新聞社や通信社などからネット大手が購入したものです。
 
 これらの記事配信元はあまり高くない対価を得る代わりに,新聞広告のネットへのシフトを促しているというのが広告代理店などの見方です。私はネット大手に記事を提供している社の経営者に見直しを呼びかけていますが,なかなか各社の理解を得られていないのが実情です。日経は今後もネット大手に記事を提供する考えはありません。読者向けのデジタル戦略は有料の電子新聞を軸にし,紙か電子かの二者択一ではなく,紙の新聞を電子で補完する戦略を進めていきたいと考えています。

 ネットの台頭は新聞界にとって挑戦ではありますが,うまく生かすことができれば,読者に新聞の新たな魅力を示すことができます。激変する経営環境やメディアの新潮流に対応しながら,国民生活を支える知的インフラとしての役割を果たしていかねばならない。これが今,我々新聞界に課せられた使命だと考えています。

日本経済活性化のためのジェトロの取り組み

日本貿易振興機構
理事長 林 康夫君

 本日は,ジェトロの活動の中で「対日投資促進」と「知的財産権保護」についてご紹介させていただきます。

 まず,対日投資の現状についてですが,07年の日本への対内直接投資は,大型のM&A
案件が多数登場したことで,ネット(流入から引き上げを差し引いた額)で過去最高を記録しました。この結果,対内直接投資残高は,GDP比で前年の2.5%から2.9%に上昇しました。しかし,08年に入り11月までの対内直接投資の額は,ネットで前年同期比27%減となっております。これは,昨今の経済情勢を受け,進出企業が投資を引き揚げる傾向が出始めているからです。

 日本の対内直接投資残高は,GDP比でみると世界200カ国中195位で,先進国の中では極端に低く,イラン,イラクなどの国と同じ水準です。対日投資の阻害要因の主なものとして,言語,次に税金,特に40%と世界で最も高いといわれる法人税があげられています。

 それでは,日本は外国企業にとっては魅力のない国なのかという点についてですが,米国の商務省が海外に投資している米国企業を調査したレポートによると,日本への投資の収益率は多くの分野で最も高く,外国企業にとっての魅力は決して小さくありません。世界各国は外資誘致にしのぎを削っています。良い外資を引っ張ってくることがその国の国際競争力を強化し,経済力を高めると認識しているからです。

 ジェトロは,対日投資促進のワンストップセンターの機能を持つわが国唯一の機関です。毎年,1万社もの外国企業のドアをノックし,対日投資への関心喚起に努めています。過去5年間で,500社以上の外国企業の日本拠点設立を支援してきました。今後,新たな取り組みとして,中東などの投資ファンドの日本への誘致も開始します。また,地域活性化へ向けた取り組みとして,後継者難の中小・中堅企業に対し,外資を活用したスムーズな事業承継やM&Aを支援し,そして地域間の広域連携を進めつつ外資誘致への支援に取り組んで参ります。

 次に知的財産の侵害問題を取り上げてみたいと思います。特に中国でこの問題が多く,被害は機械類から,日用品,食品,農薬など一般消費財にまで及んでいます。

 ジェトロが事務局を務める日本最大の知財保護グループ「国際知的財産保護フォーラム」では,官民合同で過去数年に亘り,「協力と要請」を基本スタンスとして,中国政府と改善に向けた協議をしてきております。来月も,官民合同ハイレベル・ミッションを北京に派遣する予定です。

 中国に対する協力の事例としては,実際に取り締りを行う税関職員や裁判官・検察官を日本に招いて研修を行う等の人材育成があります。このような研修に対しては内外の関係者から高い評価を受けています。

 しかし,中国には,「地方保護主義」があり,中央だけでなく地方政府にも働きかけを行っていく必要があります。長い道のりです。

 また,昨今は,模倣品の流通経路も拡大しています。このため,インドにも官民合同ミッションを派遣した他,今月,初めて中東にも派遣し,中東,アフリカの物流拠点になっているドバイで,先方の当局に取り締まり強化を依頼します。この他にも,ジェトロは,海外では模倣品・海賊版被害相談窓口を設け,企業からの相談に対応している他,進出企業とともに各国,各地域で知財保護グループを形成し,問題の把握,各国政府への提言などを行っています。

 また,国内においても知財保護に対する知識普及啓発のセミナーを開催している他,個別企業レベルでは,侵害を受けている日本企業に対して,模倣品の製造元や流通経路を特定し,摘発に繋げるための調査費用の助成等も行っています。

 ジェトロは,こうした各種事業を通じて,わが国企業の活動を支援し,日本経済の活性化に貢献して参りたいと思います。