卓話


アンチエイジング医療の観念と必要性について

2005年7月27日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

東京警察病院
形成外科部長 大森喜太郎氏

 第4064回例会
 
 昔は人生50年でした。そのころは何の問題もなかったのですが、それが60年になって、今や人生90年。定年が60歳か65歳と考えますと、大変な時間がここに生まれてしまったのかというのが実感だと思います。

 老人が病気になれば医療経済が破綻するとよく言われます。我々もすき好んで90歳百歳まで生きていくわけではないのですが、日本人が長命であるというのは間違いないということを考えると単に年齢的な抗加齢というテーマは既に日本は達成されていて、今後はAnti-aging的QOLの向上でしょう。そして医療経済の破綻の方が目下の命題になってきていると思います。

 「老人=病気」のパターンの「病気」を「元気」に置き換えれば「老人=元気」となって、みんな仕事を続けられる、元気でハッピーでいるなら医療経済も破綻しない。こういうことがAnti-agingということのひとつの表看板的にとらえられているのだろうと思います。

実はアメリカでも高齢化が進行しています。現在進行中のこの問題の特徴のひとつに日本で言えば、ちょうどこれから60歳になる、アメリカでいえば65歳になる団塊の世代の人々がありとあらゆる可能性を人生のなかで追及するという教育を受け、そしてそれを現実のものにしてきた、人類史上最も高学歴な人々の集団だという特徴を持っているとされています。ですからこの人々はいろんな意味において自分のやれることは何でもおやりになるわけです。

Anti-agingのことを考えてみれば、この世代の人々が恐らくものすごく巨大な Anti-agingの市場を形成していくのだろうと思います。Anti-agingに関わる学会をやりますと、何万という人々がいろんな業種から集まってきて、Anti-agingを語ったり商売にしたりするという状況が生まれています。

Anti-aging医療という言葉は、1990年代初頭に、とある有名な生命保険会社がいろんな専門家のなかから10名のジュニアスを集め、概念として構築されたものが始まりとされています。いろいろ論じられましたが、方法論的には食事療法、サプリメント、エクササイズ、ホルモン補充療法の四つの柱をもって今まで知られている医学的証左を基に、如何にして加齢を止めて元気で生きられる時間をどれ位延ばすことができるかという研究をしようということでした。

古くからよく言われているAnti-aging治療法のひとつのに、成長ホルモン補充療法があります。成長ホルモンは子どもが大きくなるときに必要であるということは誰にでも分かることですが、それが年齢と共に少なくなって90歳になるとゼロになります。成長ホルモンは脳下垂体から分泌されるものですが、何か病気で脳下垂体をとってしまうということが20代に起こった場合、その人は手術によって放置すれば20代から死亡するまで成長ホルモン分泌されないことによって何も起こらないのかというとそんなことはありません。成長ホルモンは成長期に体を大きくするために必要なホルモンではあるのですが、このホルモンは色々なホルモンをコントロールしているホルモンであることに間違いはないわけです。

 だとすると、これを子どものレベルといわないまでも、ある一定レベルに保存することによって何か体にすごいことが起こるのではないかといった話は以前からずっと語られている話です。

この治療法には期待するような効果があるか否かに関し、医学的、科学的証左が完全にあるとは言えないのですが、意外と広範に語られているというのがAnti-aging医療のひとつの陰でもある訳ですが、今後研究の進展によっては意外な展開を見るかもしれません。

 本来的に申しますと、Anti-aging医療というのは体全身の若返り、あるいは老化を止めるという極めて内科的な治療内容ですが、この他に美容外科的な対応というのがあって、目に見える老化を修正していく施術が古くから存在し、我々形成美容外科医は長年に渡ってこれらの手法の開発に携わってきました。

Anti-aging的な外来にお見えになる年配の女性のお肌を診ると、色々な問題が明瞭になります。この症例はいわゆる肝斑という“しみ”のひとつで性ホルモンと関係します。そして多くの人々に老人斑が診られます。要するに不必要な程お肌は年を感じるのです。

 誰でも年をとってくると、皮膚には色むら、張りの消失、小じわ、たるみという状態が起こります。こういう肌になる理由として、一つは環境の悪化、一つは老化、もう一つは化粧品の問題です。日本の化粧品は皮膚の保護が主役で、肌質の改善に役立つ薬剤の調合は法律で基本的に禁止されています。

皮膚は、新陳代謝である一定の期間で剥けていくことで健康が保たれるのですが、それが遅れると、くすみなどが生じます。新陳代謝が遅れると肌のトラブルが起こりますが、決して病気ではありません。そこで皮膚の新陳代謝を管理・正常化しようというのが、いわゆるスキンケアです。スキンケアには洗顔、刺激、薬剤投与、保護の四つの段階があります。

 例えば世界的に有名なObagi Nu-Derm Systemについて見てみましょう。このシリアの人で、アメリカで臨床医として働いているObagi先生の方法でスキンケアした場合、トラブルだらけの肌も49日位でとても綺麗になります。このようなメディカルなスキンケアの手法の有効性は外国では常識のようになっているのですが、日本ではなかなか伝わりません。

もちろんこの他にも色々なレーザーを用いて、顔のしみをとるのは簡単です。しかしこれでは肌質の改善は達成されません。レーザーでとるだけではなく、顔全体の皮膚の状態を調べて適切なスキンケア法と組み合わせて肌をきれいに、健康にしていくことが正しい道のような気がします。
肌トラブルの中でもたるみの修正には、瞼の手術や顔の皮膚のたるみを治すフェイスリフト手術もあります。さらにアメリカで最近大きなテーマになっているのがmassive weight loss後の体型を整える手術で、胴回りの余った皮膚を切り取って、まるでズボンを履くように縫ってつなぐという大手術があります。まあ、ここまでやるの?というのが日本人の実直な思いですが、アメリカではここ数年の間に年間1万5千件程のこの様な手術が施行される可能性を生じています。
 このような手術的な治療法の他に、非手術的療法としてFillerやBOTOXを注入するという方法があります。Fillerというのは、皺の底に何らかの物質を注入して皺の底上げを行う方法で、BOTOXというのはボツリヌスA型の毒素を使って筋肉を動かなくして皺を消そうという方法です。

こういった、いわゆる非手術的美容外科的手法に関する市場規模は、BOTOXのMedical Feeが1000億円、Fillerも同様に1000億円程度とされています。手術的なものとそうでないものに分けた調査では、手術的なもの8000億円、非外科的なもの5000億円という数字になっています。

この数字からみても、Anti-agingに対する要望は非常に高いものがあるということが分かります。アメリカでの美容外科と称されるものの総売上げは、恐らく5兆円ほどでしょう。そのうちの70%はいわゆるAnti-agingが占めています。日本でもアメリカの人口の半分として、2兆5千万円ほどのお金がこれから使われるのではないかと思います。

アメリカでは年間300万回の施行回数があるというBOTOXですが、日本ではまだ正式に使用することはできません。今、治験の最中で、来年のうちには厚生省もLavelして皺の治療に使えるようにしてほしいと思っています。というのは、BOTOXはボツリヌス毒素をアルブミンという血液の一部の成分にまぶして製剤としているものですから、血液製剤ということができます。厚生省の認可がないために、インターネットの取引だけでみなさまに届いているのは問題です。さらにこの製剤は摂氏4℃程度とかなり低温で運ぶことが必要なのですが、正式ルートでないとなかなかそれが出来ないという問題もあるからです。

Fillerではコラーゲン、ヒアルロン酸といったものが代表的ですが、他にも色々なものがあります。

雑誌などで、これを注射すればその効果は一生涯保証されるかの如く話が溢れています。しかし、永久に体内に残る異物で安全性が証明されている物質があるとは聞いていません。ここには厳重な警告が必要です。

色々な問題を含みながら、Anti-agingに対するいろんな治療は、より一般化していっています。ただし、どんな場合でも正しい理解と運用が欠かせないと思います。場合によると非常におかしな充填物が埋入されたり、わけの分からない出所不明の物質が使われたりすると、アスベストのような大きな社会問題が20年後、30年後に生じる可能性も否定できません。

Anti-agingは人間の一種の欲だと思います。病気に対応しているものではありません。用いられる手法の内容や金額のことは、皆さまにご理解頂きながら、どの位だったら日本で許されるものなのか、どんなことはやってはいけないのかなど、色々な論議をすることで理解を深めて頂ければ、大変有り難いと思います。