卓話


イニシエイションスピーチ

2012年9月5日(水)の例会の卓話です。

菅田博文 君(掲載していません)
安東泰志 君 

年金の分散投資が日本を救う

ニューホライズンキャピタル蝓
取締役会長兼社長 安東 泰志 君

 私は投資ファンドの運営を生業としております。投資ファンドは、「投資家のために資金を運用して、なるべく高い利回りを提供するよう努力する」という点では共通していますが、様々な種類があります。

 代表的なのは、主に公開株式や債券などに投資する投資信託ですが、その他に、「代替的投資」と言われるヘッジファンド、アクティビストファンド、プライベートエクイティ(PE)ファンドがあります。

 このうち、PEファンドは、投資前の段階で、投資先企業の経営者やメインバンクなど関係者と十分に話し合い、その合意の上で必要な資金や人材を提供する役割を果たします。PEファンドの中にも、成熟期の企業に投資をしてその再生や再編を助けていく企業再生ファンドと、革新的な技術やノウハウを有する揺籃期の企業に投資するベンチャーキャピタルがあります。

 各種投資ファンドは、それぞれに役割が違いますが、東京市場が世界に冠たる金融市場になるためには、投資家の保護に万全を期すると共に、多種多様な市場参加者が集まることが必要であり、どの種類のファンドも内外無差別で育成していく必要があると私は考えています。

 ところで、過去15年、米国の名目GDPが約2倍になっているのに対し、日本は寧ろ減少しています。日本の家計部門の金融資産もほとんど増えていません。それどころか、負債を差し引いたネットの家計部門の金融資産は、ほとんど国が吸い上げているのが現状です。結局のところ、お金が資本性の資金を必要とする企業にうまく回っていないことが、日本の低迷を生んだ一因であると私は考えています。資本性の資金調達は、証券会社を通した市場からの増資か、PEファンドとの協調で可能になります。

 PEファンドの特徴は、極めて円満に、しかも迅速に、必要な資金ばかりでなく、人材やノウハウの供給も行なえることです。日本以外の各国では非常に大きな額がPEファンドに投資され、巨額の資本性の資金が企業のために用意されている状況です。日本でPEファンドが十分に育たない最大の理由は、国内投資家が少ないこと、特に年金がPEファンドへの投資に消極的なことです。欧米のPEファンドは、その資金の大半を年金か大学の基金から得ています。年金の側から見ますと、米国では企業年金の運用資産の7%程度がPEファンドに投資され、公的年金の多くはもっと高い比率をPEファンドに投資しています。

 これに対し、日本の企業年金のPE投資はゼロに近く、公的年金に至っては、PEファンドへの投資自体が認められていません。もし米国並みに年金がPEファンドに投資し、それが資本性の資金として企業の傍にあれば、企業の構造改革など、民間の力だけで十分出来るはずです。そして、それは、公的年金の運用規制の緩和や、企業年金の分散投資の義務付けだけで達成できるものなのです。

 「国民の大事な年金をリスクのある運用に晒すのは怪しからん」という反論もありますが、資産運用というものは、分散投資によってリスクを低減するのが基本です。

 米国では、既に1974年に制定されたエリサ法で、年金の分散投資を義務付け、しかも、PEファンドへの投資を政策的に推進してきました。これが米国での産業再編や新産業の育成に果たした役割は計り知れません。しかも米国では議決権行使も年金の受託者責任に含まれると明示されており、これがコーポレートガバナンスの向上に大きく寄与しました。その背景にある考え方は、「大規模な年金は、アメリカ経済そのもの、すなわちアメリカの生産と成長の能力に投資しなければならない」というピーター・ドラッカーの半世紀前の思想に基づくものです。

 年金運用は国家戦略の「要」と言っても過言ではありません。日本経済を成長軌道に戻すためにも、年金の運用を安定させるためにも、年金の分散投資を進める枠組みを整備することこそ、わが国の喫緊の課題であると私は考えています。