卓話


日米女性事情

6月8日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

昭和女子大学
副学長 坂東 眞理子氏

 第4057回例会
  
 これからの女性は良妻賢母というだけではなく,日本のソフトパワーとしていろいろな分野で活躍しなければならないと思います。

 私は25年ぶりに昨年の9月から,ケネディースクールのフェローとして,アメリカのハーバードに行ってまいりました。

25年前もハーバードにいましたが,ちょうど1980年から81年でしたので,Japan as No1の時代でした。日本の経営はすごいらしいね,年功序列や終身雇用はすばらしい。日本の車はどうしてあんなに品質がいいんだろうと驚きといささかの警戒をもって語られていた時代でした。

ところが,それから25年経って行きますとJapan passing,Japan nothingという世界になっていました。とても残念でした。

あまりにも残念なので,日本はハードパワーの,経済力とか軍事力の面ではそんなにすごくないかもしれないけれども,ソフトパワーの面では随分力をつけてきている,いわば,Japan as Soft Powerということで,「女性とNGOとPOP Culture」という題でシンポジウムをしてきました。

アメリカの人たちは,日本がこの25年の間にどう変わったのか,変わろうとしているのかについて,とても興味をもっています。日本の国内が,ちゃんといい社会になっているか,民主主義の国かどうか,魅力的な文化をもっているかどうか,またそれを外交政策に活用しているかどうか,というようなことに強い関心をもっています。

日本の魅力的な文化,NGOやNPOの活動ができる日本の社会,言論の自由があり女性も能力を発揮するチャンスがあるということが,日本のSoft Powerのだいじな要素の一つとして評価されていることに,たいへん心強く感じて帰ってまいりました。 そこで,今の日本の女性がどのような状況になっているのかを申し上げます。

 戦後,最初のころはGHQからプレゼントされたといわれている,婦人参政権,男女共学,法の下の平等,家制度の改正と急速に変わりました。しかし,法制度は変わりましたが暮らしや意識はそんなに変わりませんでした。多くの女性は地方では大家族の中での家族従業者として一生懸命働いていました。

 高度経済成長の時期になって,人口移動による核家族化,女性の専業主婦化が進み,女性はこれまでのようには働かなくなりました。サラリーマンの妻という人たちが,高度経済成長時代に大量に誕生した結果,女性の労働力率が45%に下がりました。

この間,「妻」の地位はたいへん向上しました。民法では,配偶者の遺産相続は3分の1から2分の1になりました。配偶者控除、遺族年金も手厚くなったこの時期は,離婚も少なく専業主婦,妻の地位を守ろうという政策が進んだ時期でありました。

いわゆる経済大国期,1975年〜80年代あたりになりますと,高度経済政策まっしぐらを少し微調整して,国際的な基準でもちゃんと認められたいと,例えば,雇用機会均等法を作るとか,国籍法を改正するとか,92年には育児休業法ができて,女性の法的地位は,もう一段充実したという時期になりました。

一方,アメリカでは,1964年に市民権法ができ,その第7章で雇用機会の均等を強調しました。日本より20年ほど早くできているのですけれど,その後,育児休業や産休とか,公立保育所などに対しては,全く力をいれていません。ヨーロッパの方は,北欧でもフランスでもドイツでも,もう少し女性に優しい,いろいろな制度を作っています。

やはり,アメリカはたいへんな国です。アメリカンスタンダードはグローバルスタンダードではないな,と感じます。

その後の日本で,経済が失われた10年−15年といわれて,構造改革に苦労していた時期は,実は,女性について言えば,獲得と進歩と繁栄の10年−15年でした。男女共同参画社会基本法が99年にできました。NPO法は97年。介護保険法は2000年にできました。これらの法律は,児童買春防止法,配偶者暴力禁止法なども含めて,市民社会のプッシュにより成立したという点で,世の中がたいへん進んできたと言えます。

かつては,公務員の側が情報を多く持っていて,いろいろな政策を導入していたのですが,この10年−15年の時期には,市民社会が国際社会の情報をダイレクトにもってきて,日本の政策決定に働きかける活動が見られたということから,やはり,日本も変わったと感じるところであります。

現在の日本の女性たちは,教育水準も世界で有数のレベルに達しております。世界一の長寿ということは世界中でいちばん健康だということです。せっかくの,この資源,活力をもっともっと世の中に活かさないともったいないというのが,今の状況ではないかと思います。

アメリカでは,制度的には,女性の就労を支えるとか,仕事と子育てを両立しょうというようなことは,ほとんどやっていません。この国は,機会は与えるから自力で自己責任でがんばるだけがんばれという世界です。そのなかで,女性たちは,制度的には産休はなくても,優秀な人ならば会社は言うことを聞く。その点では非常に格差があります。政府のバックアップもないにもかかわらず,何故アメリカで女性たちが進出しているのだろうと不思議にも思います。しかも、出身民族の差はありますが、出生率は2.1です。

 その理由の一つは,差別されたとなるとすぐに訴訟にもちこむという慣習です。会社側は訴訟に敗れると莫大な賠償金を取られます。それが大きなモチベーションになっていると思います。

もう一つは離婚率が高いということです。自分で食べていかなければならない,しっかりと食い扶持を稼がなくてはならない人たちがとても多い。ひいては,差別に対してとても敏感であるということだと思います。また,中間層が分極して,共働きでないと水準が維持できません。

アメリカという国は,格差があり,多様です。今のアメリカの職場では男女平等というのは,あまりはやりません。強調されているのはdiversityという考えです。男女の多様性だけではなく,ユダヤ人,アジア系,アフリカ系,ヒスパニックの人たちのような,マイノリティの人たちの個性の多様性を認めていこうという考えです。マーケットが多様化しているのだから,対応する生産者側も,多様化しなければならないだろうという判断です。

能力のある人は,どこにでもたくさんいるわけではありませんから,男性だろうが女性だろうが,どういう人種の人であろうが,才能のある人は活用しなければ足りません。

企業は,人材を確保するため,差別による損害を予防するために,企業ブランドを上げるといったことを理由にして,diversityを推進する。そのなかで,女性も活用するというふうになっているわけです。

先日,会社四季報に発表されていましたが,日本の上場企業2783社で,取締役になっている女性は246名,割合は0.7%です。それに対して,フォーチューン500社の女性取締役は779名,女性の割合は13.6%です。

日本の企業での,0.7%の女性取締役の内訳は,3分の1が社外取締役です。それから3分の1がファミリーです。仕事をしてきて取締役になられた人は残りの3分の1。まだまだ少ないというのが現実です。

取締役の裾野にいる中間管理職でも,日米では格差があります。アメリカでの,女性管理職は労働力の46.5%〜50%です。日本は昨年の数字で9.7%,もう少しで1割です。さらに裾野の方を見ますと,アメリカの労働力の47%が女性で,53%が男性です。対して日本は約40%が女性で,60%が男性です。

日米男女の労働力比率を見てみますと,日本は子育て期の30歳〜34歳の時期に,一度,仕事を辞めます。労働力比率が61%にまで下がります。40歳代になりますと73%にまで回復します。アメリカでは,子育て期であるはずの30歳代でも70%の労働力比率を維持します。日米女性の,働き方の違いが見えます。

ところが,日本の出生率は1.29と低迷しています。そこで日本でも,仕事と子育ての両立を図って,次世代育成支援推進法といった法律を作って応援をしようとしているわけです。

アメリカも貧富格差の社会になり始めていると感じられます。日本は,みんなが働いて,みんなが豊かになる方向を目指そうとしているのですが,今後どうなりますか…。

日本の政府は2020年までに「あらゆる分野で,女性を30%に」という目標を掲げています。後15年ありますから,今から採用して養成すれば十分に間に合うと思います。

 皆さんの職場で,diversityのためでもいいし,Soft Powerのためでもいいし,会社の得になるからでもいいですから,是非,女性の登用にご尽力いただければと思います。