卓話


米山月間例会
日本に留学して
−起業を目指している元米山奨学生の留学経験−

2015年10月7日(水)

第2610地区(石川・富山)米山学友会 副会長
2012-14年度米山奨学生 董 又碩 氏

 私は米山奨学生として石川県にある北陸先端技術大学院大学で勉強し、昨年12月に博士号を取得しました。そして、今年10月1日に石川県金沢市でドリームファロス株式会社の設立登記をしました。在留資格の取得などまだ問題はありますが、始まりの第一歩を踏み出し、これから頑張っていきたいと思っているところです。本日、米山奨学制度の原点である東京ロータリークラブで米山学友として卓話をさせていただけることは私にとって光栄の至りです。

 私は、韓国で大学を卒業し、2009年4月、北陸先端科学技術大学院大学の修士課程に入学しました。修士課程ではソフトウエア工学で教育支援システムの設計に関する研究をしましたが、2011年4月からの博士課程では専門を変え、知識科学研究科のサービスサイエンス、人間の知識を科学化するという新しい学問に挑戦し、情報技術を活かした教育サービスのイノベーションモデルに関する研究を行いました。ベンチャービジネスを目指し、在学中には全国のベンチャービジネスプランコンテストに挑戦し「ゆめちょう」サービスのプランで受賞することができました。

 私が日本に留学することを決めたきっかけの一つは、大学3年時に受けたメンターからのアドバイスでした。当時、私は日本について知識も興味も全くありませんでした。起業という夢のため、大学のベンチャービジネス研究会で活動したり、経営学と心理学の授業やセミナーを受けたりしました。そのセミナーで出会ったメンターの先生が「起業したいのであれば、日本で勉強すべきだ」と話してくれました。それは韓国の企業文化と中身を知るためです。

 ご存知の通り、韓国はサムスン、LG等の大手企業が中心になって経済が動いていて中小企業やベンチャー層が薄いと言われています。そして、いろいろな意味でアメリカに憧れています。高くても、大きくて早くてかっこよくていいものを好むのでアメリカ発のモノは儲かりやすく、企業においても設備・機器等のハードウエアはアメリカンスタイルが多いのです。しかし、面白いことに、組織構造、人事システム、接客のやり方等、ソフトウエア的な部分は日本式が多いのです。1960年代から80年代に日本の経済が急成長したため、日本企業に学び、ソフトウエア、プロセスなどを真似て発展してきたので韓国企業の中身はかなり日本企業と似ているとその先生は話しました。アメリカのハードと日本のソフトに韓国人の特徴が融合したのが現在の韓国企業です。

 「빨리빨리(パリパリ)」という言葉を聞いたことはありますか。私も日本でよく聞く韓国語で「早く、早く」という意味です。韓国人はせっかちであり、早く結果が目に見えないと我慢できません。そのスピード感と結果中心のプロセスが現在の韓国の経済成長を支えて来た力でもあり、問題点でもある、と教えてくれました。

 ハードウエアはお金を払えば買えますが、ソフトウエア、精神、経験は自分で身につけないと得ることができないため日本で勉強すべきだと言われたのです。そのアドバイスをもらったのが2007年でした。

 その時、韓国はサムスンをはじめ大手企業が「知識経営」というキーワードを掲げ、経営革新に力を注いでいました。その影響で大学にも知識経営の授業ができました。私は兵役を終えて大学に戻った際にその授業を受けました。そこで1人の先生に出会ったことも日本留学のモチベーションになりました。それは、世界的に有名な経営学者の野中郁次郎先生で「知識経営論」の授業が私の人生を変えました。

 それまで学んだ経営は「人、材料等のリソースをInputし、プロセスを最適化することで収益というOutputをいかに多く作れるか」が大事でした。しかし、野中先生は「それだけではなく、いかに人間とその知識を活用するかによってイノベーション等の新しい価値が生まれる」という経営哲学を述べており、それが私の心に響きました。

 その授業で「自分の経営スタイルは誰と似ているのか?」という面白いテストがありました。他の学生はSteve Jobsスタイル、Bill Gatesスタイルなど有名な経営者に似ているという結果でしたが、50人のクラスの中で私一人だけが「松下幸之助スタイル」でした。最初は「誰?」と思いました。本当に無知で恥ずかしいことですが、その時ネットで探してみたら「Panasonicの創業者」と書いてあったので、「Sonyをぱくった中国会社っぽい」と思うほどでした。その後、レポートを書くために読んだ韓国語版の『道をひらく』がとても素晴らしく、すっかりはまりました。日本の経営哲学とサービス精神を学びたいと思い、日本語を勉強し、野中先生が立ち上げた北陸先端大の知識科学研究科に留学しました。

 起業家を目指す私にとって、米山奨学生になったことは神様が与えてくれたプレゼントのようです。ロータリアンに経営に関するお話を聞いたり、困った時に相談したりできることは他の奨学金を受けている学生には絶対に与えられない特権であると思います。

 私には持病があり、毎月4万円以上の治療費を払わなければなりません。修士までは貯金とアルバイト代でなんとかなりましたが、資金がなくなり、博士に行くのは無理かな、韓国に帰ろうかと思っていた時、米山奨学生になることができたので飛び上がって喜びました。経済的に困ることなく研究することができ、起業を目指せるようになったのは、本当に米山奨学金のお陰です。いろいろな国から来ている優秀な米山奨学生達との交流もとても刺激的です。私が所属した研究室もとてもインターナショナルで、いろいろな国の学生と友達になり、楽しい雰囲気で研究し、国際学会に発表するなどの実績も出せました。アメリカへの短期留学、ビジネスプランコンテストでの受賞などの貴重な経験のすべてが米山奨学生になったからできたことで、いつも感謝しています。

 私は子供が大好きで、子供は「これからの未来、我らの夢」だと思っています。子供達のために何かしたいと思って現場の調査をした時に、幼稚園や保育園では手作業がとても多いことがわかりました。ある園では320人の園児がおり、現場の先生は毎日120〜150枚の連絡カードを保護者からもらい、それらを一つひとつ確認して記入し、さらに保護者への連絡帳も手書きで行います。重複する手作業が多いので、これらを効率的に行うシステムを開発してほしいという声をもらいました。

 それがきっかけになり、現在開発中の「ゆめちょう」サービスについて紹介します。幼稚園と保育園向けの電子連絡帳で、ICTを用いて園と保護者間のコミュニケーションに関する業務に特化したクラウド型のサービスです。

 シンプルなインターフェイスで、セキュリティを守った上で、パソコン・スマートフォン・タブレットで利用できるクラウド型の情報サービスです。我らの「ゆめ」である子供の成長記録と思い出が残る電子連絡「帳」という意味を込めて、「ゆめちょう」と名づけました。

 これまで手作業で反復して行っていた業務の中で、連絡帳・園だより・バス搭乗など、園と保護者間の連絡とコミュニケーションに関する業務に特化します。保護者は自分の子供のみの写真を管理したり、食事やお昼寝などの様子をリアルタイムで見たりすることができます。子供の情報をリアルタイムで共有できるので、保護者は安心でき、先生と相互コミュニケーションができます。紙、コピー、印刷などもなくなるので、園のコスト節約にもつながります。園から「ゆめちょう」に蓄積されるビックデータを活用し、地元の自治体や子育て団体との業務連携も支援します。また、子育てに関する業者と連携し、園と保護者に有益な付加サービスも一緒に提供していきたいと思っています。現在、金沢市の済美幼稚園から導入契約をいただいているほか、複数の園や自治体から導入希望をいただいています。

 私が難病と付き合いながら留学し、壁があっても乗り越えて起業を目指すことができたのは、ロータリアンの皆様、そしてたくさんの方々からいただいた温情と支援のお陰です。まだまだ未熟ですが、夢を目指して、そして子供達のために自分ができることを精一杯やっていきたいと思っておりますので、これからもご支援をお願い申し上げます。


       ※2015年10月7日(水)の例会卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。