卓話


奔れ Eliica!
−電気自動車が地球と人類の生活を守る−

6月1日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

慶應義塾大学
政策・メディア研究科
教授 吉田 博一氏

第4056回例会

現在、私は慶応義塾大学の政策・メディア研究科の教授として「リチウムイオン電池を動力とした電気自動車」を開発し、それを実用化するプロジェクトを推進しております。このプロジェクトは、長年、電気自動車を開発してこられた慶応義塾大学の清水浩教授をはじめとして、教員スタッフ、学生たち、環境改善の夢をもつ者たちの努力で既に2台の電気自動車を開発するまでに歩を進めております。

 「Electric Li-ion Battery Car」の頭文字をとってEliica(エリーカ)と名付けた車が「リチウムイオン電池を動力とした電気自動車」です。

 2004年10月2日(土)の午後9時に、NHK総合TVで「NHKスベシャル:世界最速への挑戦」という番組が放映されました。この番組で「Eliicaは、モーターと電池だけで走る電気自動車。タイヤの数は8輪、パワーは600馬力を越える流線形のモンスターカー」と紹介されました。今まで、電気自動車はパワー、スピードが出ないといわれてきました。しかし、この車は時速400キロを目指しています。排気ガスを出さない高性能車でもあります。Eliicaが誇るのはパワーだけではありません。燃費もいいのです。消費電力を石油に換算すると1リットルあたり24キロ走ります。このクラスのガソリンエンジン車の2倍以上の効率です。

番組は、ポルシェと併走した時の様子も放映しました。スタート直後、ポルシェがリードしましたが、3.08秒後にポルシェの速度に追いつき、時速100キロに達してからは、今度はEliicaがポルシェを引き離し、7.04秒で時速160キロに到達しました。この時のポルシェの時速は138キロ。Eliicaと同じ時速160キロに達するには9.02秒かかったとデータが示されていました。

番組は「一つの大学の研究室の執念とそれを支える日本の製造業の底力。二つが出会って生まれたスーパー電気自動車でした。電気自動車は普及するのか。挑戦は続きます」と結んでいました。

Eliicaは、エレクトリックリチウムイオンバッテリーカーの略称です。将来、この電気自動車を世界に通じるものにしたいという願いをこめています。

この車は最高時速370キロ、加速度は0.68G。1充電走行距離320キロ、急速充電時間7分で70%の充電ができるというスペックです。

Eliicaのコンセプトは、床にリチウムイオン電池を敷き詰め、車輪の中にモーターを入れて、モーターが8輪駆動するというものです。安全性も高くパーツが少ないのが特徴です。

エネルギー効率をみますと、仮に化石燃料で全部発電したとして、電気自動車は効率27%、ガソリンエンジン車は機械損がありますから7%、燃料電池車15%で、明らかに電気自動車の効率がよいことを示しています。

今後の、車社会に求められる課題は、環境・性能ですが、Eliicaは既にこれをクリアーできています。後は、安全性と適正価格です。今、リチウムイオン電池は高価です。我々の使う電極は二酸化マンガンで、いくらでもあるものなのですが、大量生産しないために安くなりません。

電池メーカーも自動車メーカーも大量生産に興味を示しません。そこで、我々は、一計を案じて、L2(エルスクエア)プロジェクトという自動車以外の大型リチウムイオン電池の用途を開発して標準化し、電池を安くしようというプロジェクトを大学内に立ちあげたわけです。

 L2(エルスクエア)プロジェクトは環境エネルギー問題研究会から始まり、環境問題に理解のある企業が資金を提供してくださいました。

今、L2プロジェクトを重点的に行っておりますが、電池が安くなればEliicaは実用化に近づきます。本プロジェクトは、十数社の企業のご協力を得て進めておりますが、この度国からの資金のご支援もいただけることになりました。

 なぜ私が、この仕事に加わったかと申しますと、私の携わったリース会社は1兆6千億円ほどの資産を持っておりました。それをリースアップした際の処分が大変でした。将来、企業が多くなればなるほど、その産廃物の処理をどうするかというのが大きな問題です。そういう環境問題を強く意識した時に、清水教授の電気自動車と出会いました。私は、これを実用化することで世の中の役に立とうと思いました。

今、地球のために必要なことは何かというと…。昨今の異常気象は、CO2増加による地球温暖化に起因しているということは疑う余地がありません。京都議定書が結ばれましたが、最大排出国のアメリカは入っていない、中国も入っていない。これでは実効はないだろうと思います。

日本は1990年から2010年までに、年間CO2排出量を6%減らすことが目標となっておりますが、2004年までに8%増加しています。これをやるには、本当に生活に便利な、環境にいいものを作る以外に地球を救う方法はないと思います。文明が進めばCO2は増えます。人口が増加すればCO2は増えます。私はEliicaの早期実用化こそがその対策であると確信しております。

中国の現在のCO2排出量は日本の5分の1です。中国の車は2010年には倍増します。もし中国が日本なみに産業発展した場合のCO2排出量は、中国だけで110億トンの排出量増加と計算されます。現在の全世界のCO2発生量は230億トンとみなされていますから、その半分を中国が排出するようになるという現実に気づかないといけないと思います。

NHKで番組が放映されたことによって、Eliicaプロジェクトに対する激励や応援もずいぶん変わってまいりました。5月19日の朝日新聞は「見えてきた環境新技術:電気自動車 電池が進歩、遠く速くへ」という見出しで大きく取り上げてくれました。私どもはいま第1次プロトタイプをベースに第2次プロトタイプのコンセプト作りをやっているところでございます。

先般、シュワルツネッガーが日本に来た時に、カリフォルニア州の環境局長が自分でEliicaに乗りまして、この車を是非カリフォルニアにもって来てほしいと懇請されました。中国、韓国も非常に熱心であります。

私どもは大学であります。このプロジェクトを通して若者を教育したいという願いがあります。学生たちも大いに勉強してくれています。このプロジェクトを通して、企業との係わり方、あるいは組織の運営の仕方、プロジエクトを進める際の決定の仕方なども学んでほしいと思っております。

東京モーターショーに初めて、自動社会社以外である我々が、Eliicaのスケールモデルをカロッツェリア部門に出品いたしました。今年も出展する予定ですが、その企画については、学生たちに予算を与え、ブースのコンセプト作りや運営、会場での説明まで全部を学生に任せます。  
予算を与えるということは、使い切る予算ではなく、なるべく安くを心がけさせ、オーバーしたら学生でも始末書を書かせ責任を取らせるということです。年度予算というものが身についている限り、経費の効率的な支出はできません。これからの若者にこの考え方がないと、日本の財政の将来もよくならないと思っております。 

リチウムイオン電池車の性能は完成の域に達しております。もうほとんど修正する必要のないところまできています。パーツも少なくて安全であり、構造も簡単です。

 燃料電池も確かに大切な技術です。しかし自動車に燃料電池が乗るのは30年後といわれています。燃料電池は発電装置ですから、電気を蓄えればさらに走行距離も伸びるし、すばらしい車ができるということで、私は燃料電池を否定するものではありません。

三菱自動車が、リチウムイオン電池の自動車を2010年に発売すると発表されました。ということは私どものコンセプトの自動車をプロが認めたということで、私どもはたいへん心強く思っております。

電池の価格を下げようという目的の、L2プロジェクトについて、もう少しお話いたします。このプロジェクトは、自動車会社がやらないのなら、自動車以外の電池の需要を私たちが探り出して、それらの企業での需要の数を固めて、メーカーに大量生産させようというプロジェクトであります。ユーザーが決まりメーカーの生産体勢を整えていただくところまできています。材料メーカーもほぼ決まっています。

マイケル.E.ポーターの「ファイブフォース」を学校のキャンパスの中で人工的に起こそうというのが、私どものプロジェクトでございます。

私どもの小さな活動を大きな炎に変えて、Eliicaを普及させて人類のために役立てたいと思います。また、リチウムイオン電池は日本の技術であります。日本の産業に育てたいと思いますので、ご声援をお願いいたします。