卓話


高齢化社会と高齢者の犯罪

2023年1月25日(水)

中央大学名誉教授・弁護士
(公財)矯正協会 会長 藤本哲也氏


 我が国は2007年に総人口に占める65歳以上の比率が21%を超える超高齢社会となりました。2021年の高齢化率は28.9%です。

 我が国で発生した犯罪で、警察により検挙された刑法犯認知件数はバブル経済の崩壊から4年後の1996年に戦後最多を更新し、2002年には285万件を超えて以降、減少中です。政府が本格的に犯罪に取り組んだ成果で、2021年は56万8000件と、80%減になりました。

 しかし、高齢者の犯罪者や刑務所入所者に占める比率は上昇しています。犯罪検挙人員に占める高齢者率は、2021年に13.8%と、 2002年と比べ10.2ポイント上昇しました。

 最近の犯罪白書は65〜69歳と、70歳以上を分けて分析しています。我が国は高齢者の場合にはできるだけ起訴しない方針をとっており、65〜69歳と70歳以上の起訴猶予率は他の年齢層よりも高く、特に70歳以上は高くなっています。また、女性の起訴猶予率も、70歳以上は他の年齢層よりも高くなっています。

 2016年に約2500人の高齢者が刑務所に入っており、2002年の約2倍です。現行刑法は1907年に制定され、当時の平均寿命が40歳だったため70歳の人が刑務所に入ることを想定していませんでした。刑事訴訟法482条で年齢が70歳以上であるときには刑務所に入れるのを停止することができる規定がありますが、70歳以上の入所受刑者人員は、2002年の約3.6倍と、増加が顕著です。

 高齢者の犯罪の6割が窃盗、その半分が万引きです。女性の場合は9割が窃盗、半分以上が万引きです。

 また、我が国は社会内処遇として仮釈放制度を持っています。有期刑の場合には刑期の3分の1、無期刑の場合には10年を超えれば仮釈放が可能ですが、有期刑の場合80%以上の刑期が刑務所で執行されます。懲役3年の刑で1年を超えて仮釈放された場合、残りの2年は社会内で処遇されますが、全国に4万7000人いる保護司さんたちが面倒を見ています。

 裁判の段階でもできるだけ刑務所に入れない方針で、保護観察付きの執行猶予制度を運用しています。仮釈放者の比率は高齢者もその他の年齢層も上がり、その数が多いため、できるだけ福祉で面倒を見る施策が2008年以降展開されるようになりました。これを「司法と福祉の連携」と言います。

 保護観察付全部・一部執行猶予者数は増減を繰り返しており、高齢者率については、2014年と2016年に9.2%に達した後は低下傾向にあり、2021年は7.1%でした。2021年の高齢者の保護観察開始人員は2002年の約1.5倍に増加しました。70歳以上の保護観察開始人員は、約2.6倍に増加し、2011年以降、65〜69歳の人員を上回っています。

 高齢者の犯罪で特徴的な万引きについて、東京都商店街振興組合連合会の「高齢者の万引き対応調査報告書」から、特徴を見てみます。

 高齢者による万引きの被害品は、60%が食料品で、14%が雑貨・衣料品とその74%が生活に必要な品物です。

 万引きをして捕まったときの言い訳は、「お金はある。ちょっと外に出ただけだ。お金を払うつもりはあるんだから、払えばいいんでしょう」「お店のカゴに入れたはずなのになんで手提げ袋に入ってるのかしら」などです。

 実際に買う商品とは別に少しだけ持ち帰るケースが多いため、お店側はなかなか気が付かない。また、個人商店を狙って万引きをする場合が多く、常連客の場合には万引きされたと思っても声をかけにくく、そのまま諦めてしまうところがあります。

 高齢者の万引きの半数以上は1人暮らしのため、本人にやってはいけないという意識が植え付けられないところがあります。また、困ったことに、罪の意識が薄いのです。「捕まるとは思っていない」が40%以上、「悪いことだと思ってない」が35%以上います。「弁償すれば済む」11.5%、「少額は処罰されないと思っていた」4.2%、「高齢者だから許されると思った」1.0%とあります。

 悪質・巧妙なのは、認知症のふりをして名前や住所を言わない、「もうこの店では買わない」と言って開き直る、わざと捕まえられて「なんで俺を捕まえる。賠償金をよこせ」と店から金をゆするようなことが最近起きています。

 警視庁生活安全部のデータに、「万引きをするのを決めた時」があります。「店舗に入る前に」が22.8%で、5人のうち1人の高齢者は店に入る前から万引きを決意していたことがわかります。「万引きする店を思い立った理由」については、「店員の少ない店」27.5%、「死角が多い店」12.5%、「警備員が少ない店」11.5%、「店員が無関心」10.2%、「盗みやすい陳列方法」7.4%、最後に「防犯カメラがない」3.8%です。

 「万引きをあきらめた理由」の第一位は「店員の声かけ」87%です。しかし、「何があっても諦めない」が5%います。

 万引きは窃盗罪で、10年以下の懲役、50万円以下の罰金に該当します。高齢者の万引きが多いため、2006年に罰金刑が導入されました。

 弁護士が高齢者の万引き犯を弁護する際、「クレプトマニアだ」と言い、「病的な窃盗である。やるつもりはないが、品物を見たら取らざるを得ない病気だ」と減刑を主張することがあります。医学的には前頭側頭型認知症に罹ると万引きなどの反社会的行動をとることがあると言われています。2012年で約460万人の認知症のうち前頭側頭型認知症が約4万6000人いると言われていますが、あまりにも病的窃盗を取り上げるのは問題です。

 万引きを防ぐためには、地域住民のネットワーク作りや家族との連携を強める、あるいはお年寄りに優しい町作りをする、外出の機会を設けて生きがいを見つけてもらうといったことが主張されています。

 刑務所では、高齢受刑者の置かれた状況に応じた処遇環境の整備をしています。

 まず、日常生活に支障はないが一般受刑者の生活行動についていけない人たちは、一般受刑者とは分離して集団編成をして作業をさせています。

 日常生活は可能だが手すりや杖が必要である場合は、刑務所をバリアフリー化しています。移動に車椅子が必要な場合、しかも知能は正常である場合は軽微な作業、洗濯バサミを作る、あるいはショッピングセンターの袋を貼るといった作業をさせ、旭川刑務所では収容棟の近くに作業場を設けてすぐ作業できる体制にしています。高齢者の場合は、食事も柔らかい食事あるいは刻み食を用意し、刑務所は暖房が効いておらず寒いため毛布を余分に与えるといったことをしています。

 また、認知機能に障害があるなど日常生活に介助が必要であり、作業もできない者は病棟や医療刑務所に収容します。

 このように刑務所が安心して暮らせる場所であるということで、「もう一度入りたいから罪を犯した」という高齢者がたくさんいます。「劣等処遇の原則」といい、刑務所の水準を社会福祉の水準よりも上げてしまうと刑務所に入ってくるという理論で、刑務所のレベルを社会福祉以上にはしてはいけないということなのでしょう。

 刑務所だけでは再犯防止が不可能なため、最近は社会復帰支援指導プログラムを実施しているほか、出所後に社会福祉と連携できるように対応しています。

 刑務所には若い受刑者がおり、出所後の就職のために介護福祉科を設け、介護職員初任者研修修了証を取得できるようにしています。2018年度は270名が修了証を取得し、2019年からは受刑者による受刑者の介護がスタートしています。

 高齢受刑者の処遇の問題は、介護が必要な者が増えて刑務所が介護施設化してしまっていることと、がんや脳疾患などに罹患し、休養処遇となる者の半分にもなっていることです。

 2019年に病院や病棟に収容された65歳以上の者は2401人です。60歳以上の受刑者のうち認知症の疑いがある者は推計値で14%の約1300人。65歳以上では16.7%の約1100人で、一般社会における65歳以上の認知症有病率と同じです。

 2019年度の受刑者の医療費は約50億円で、税金で賄っています。平成時代は年間60億円超で、刑務所の人口が16年間減少したため減りましたが、刑務所が無料の福祉施設になっている現状です。

 高齢受刑者をどうすればよいのか。高齢者を社会的責任から解除することが高齢者をして犯罪に至らしめるという「解除理論」からすれば、高齢者を阻害せず、一定の役割をもたせることが高齢犯罪対策としては重要となります。高齢者をボランティアとして受け入れ、高齢者の持つ知識と経験の再活用を図ることが求められます。

 2021年4月に改正された高年齢者雇用安定法により、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となりました。皆さま方には、ぜひ70歳まで雇用していただければと思います。

 また、高齢化が進むと、高齢者の単独家庭や高齢者世帯が増加するのが当然ですから、高齢者の家庭環境の整備や社会環境の改善、あるいは医療対策、社会福祉対策が必要であるということは言うまでもありません。犯罪の被害者になりやすいこともありますので、高齢者世帯の実態調査や地域警察による高齢者家庭の定期的訪問等を考えてみてはどうでしょうか。

 これからは自助自立を前提としつつも、社会連帯の精神で国民が相互に支え合っていく社会の構築が求められています。高齢者を社会的に包摂する「ソーシャルインクルージョン」を目指す社会であってほしいと思います。

 2021年に京都で第14回国連犯罪防止刑事司法会議が開かれ、私も政府のアドバイザーを務めました。その京都コングレスの提言にあるように、SDGsの「誰1人取り残さない包括的で安心安全な社会の実現」が重要です。この「誰1人取り残さない」という意味では、東京ロータリークラブの信念とも合致すると思います。


    ※2023年1月25日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。