卓話


アベノミクスの現状と課題〜鍵握る第三の矢〜

2014年2月12日(水)

蠡莪貔弧新从儻Φ羹蝓〃从冂敢塞
主席エコノミスト 永濱利廣氏

 日本では、2012年末の政権交代から安倍首相の強力なリーダーシップの下、政府と日銀が一体となってアベノミクスを推進しています。具体的には、1本目の矢である「大胆な金融緩和」、2本目の矢である「機動的な財政政策」、3本目の矢である「民間投資を喚起する成長戦略」を矢継ぎ早に打ち出し、株価の水準が示す通り、一定の評価を受けています。

 本日は、現時点でアベノミクスの評価をし、今後一層推進していかなければならない政策は何かを提言します。

 まず「大胆な金融緩和」は大いに評価できます。一時期前に比べて、異常な円高・株安が是正されました。2012年11月、当時の野田首相が衆議院の解散発言をした瞬間にマーケットが激変したのは大胆な金融緩和の期待が生じたからです。それまでの異常な円高・株安が是正されたことは大いに評価できます。

 金融政策について日銀は、今年の年末までにマネタリーベース(日銀が銀行などの金融機関に供給しているお金の残高)を270兆円まで増やし、2年でインフレ率を2%まで持っていくと打ち出しています。この大胆な金融緩和はリーマン・ショック後の米国で先行して行われ、5年たって金融緩和の出口に向かい始めていることからすると、日本でも2015年以降もこの大胆な金融緩和は本格的なデフレ脱却をする上で続けていく必要があると見ています。

 続いて、2本目の矢である「機動的な財政政策」も一定の評価ができます。去年7月〜9月期までの経済成長率は4四半期連続でプラス成長です。貢献度の大きいのが民間需要と公的需要で、民間需要は金融緩和による円安・株高効果、公的需要は機動的な財政政策、具体的には真水10兆円の大型の補正予算に伴う公共事業が増え、景気の浮揚効果をもたらしています。個人的には、この経済対策のために国債5兆円以上を増発したのは若干減点です。今回、消費増税を控えて組まれた5.5兆円の補正予算は追加の国債増発無しですので、消費増税後の景気腰折れ回避という意味で評価していいでしょう。

 3本目の矢「成長戦略」については、明らかに踏み込み不足と判断せざるをえません。成長戦略で、経済的に一番重要なのはプロビジネスな政策です。「世界で最もビジネスのしやすい国にする」という目的が成長戦略の最も評価すべきところです。その意味で、日本経済の問題として指摘されてきた産業の六重苦をいかに解消できるかが成長戦略を評価する上で非常に重要です。

 六重苦の1つ目は、異常な円高です。これについては、アベノミクスの一本目の矢でほぼ解消に向かっています。

 2つ目は法人税率の高さ。主要国の法人実効税率を比べると日本はかなり高い水準にあります。4月からの復興増税の1年前倒し廃止で若干下がるものの、それでも35.6%です。アベノミクス前から、自民党は法人税率の国際水準までの低下を政権公約に掲げてきました。国際水準は20%台半ばです。そこまで一気に下げるのは難しくとも、段階的に早期に20%台半ばまで下げることが大きな鍵で、そのためには税収減を一部補うために課税ベースの拡大などが必要になってきます。ここは外国人投資家が日本の成長戦略を評価する際に大きなポイントにしているところです。

 3つ目は経済連携協定の遅れです。主要国における経済連携の進捗度合いを発効署名済みと交渉中に分けて見ると、日本は発効署名済みでは一番遅れています。ただ、安倍政権がTPP交渉参加に踏み切ったことが大きく、日本は交渉中のものが最近になって増えています。日中韓のFTA、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)、EUとのEPAなど同時並行的に経済連携協定の議論が進んでいますので、早期に交渉中から発効署名済みにしていくことが求められます。

 4つ目は厳しい労働規制です。特に外国人投資家が注目しているのは、正社員の解雇ルールの明確化です。彼らは「労働規制の緩和は日本の構造改革の象徴で、日本経済の最大の要因は少子高齢化だ」と言います。出生率が上がらない理由の一つは、正社員を雇用すると解雇しにくい状況下で企業が若年層の雇用に厳しい対応をせざるを得なくなっており、若年層の雇用・所得環境の劣悪な状況が続けば、ひいては出生率が上がりにくくなる。さらに日本の経済構造の問題点の一つとして、労働市場が硬直的であると指摘されています。実際に直近の主要先進国の経済パフォーマンスを比較すると、相対的に労働市場が流動化している国のほうが、流動化していない国に対し、明らかにパフォーマンスがいい。具体的には米国、イギリスで、日本、イタリアは悪い。経済がグローバル化し成長分野がめまぐるしく変わる経済の中では成長分野へ優秀な人材が迅速にシフトすることが重要ですので、労働市場の流動化は大きなポイントです。

 では、なぜ日本ではここに踏み込めないのか。労働市場が流動化している解雇規制が緩い国を見ると、確かに正社員の解雇はしやすいのですが、解雇された人が新たな職に就きやすいという環境が充実しているようです。主要国の労働関連政策における政府支出を対GDP比で見ると、積極的労働市場政策、具体的には職業訓練の充実や失業保険受給に伴う職業訓練の義務づけなどにお金が振り向けられています。デンマークやオランダなどのように、早期に積極的な労働市場政策の下地をつくることで、労働市場の流動化を進めていく必要性があるのではないでしょうか。

 労働規制に関して言えば、個人的には外国人労働者受入の規制緩和が必要になると考えています。6年後に東京オリンピックを控え、インフラ整備が大きな鍵になります。被災地の復興、地方の老朽化したインフラの整備も喫緊の課題です。日本では建設業の就労者は10年前に比べて120万人減っており、これを国内でまかなうのは厳しい状況です。現在、高度人材に限られている外国人労働者の受入れの方針を緩め、多様な労働者の受入れをするべきでしょう。

 日本経済の2020年以降を考えると、社会保障財政を考えても、移民を受入れを真剣に議論する時期にきていると思います。日本は島国で、移民に対して免疫ができていませんが、外国人労働者の枠を増やすことやオリンピックに向けて外国人観光客をたくさん誘致するというところを突破口に、移民に対する議論が盛り上がることが求められていくと考えています。

 5つ目は、環境規制の厳しさです。
 6つ目はエネルギーコストの高さ、特に電気料金です。去年6月の成長戦略第一弾で打ち出された方針を、いかにしっかり進められるかです。ここで打ち出されたエネルギー政策には、電源別の発電コストの一番安い原子力発電を活用することが盛り込まれており、安全の確認された原発を順次稼働させていくことが重要なポイントです。

 電気料金に関しての課題は、東日本大震災後、原発の代替として最大になっているLNG(天然ガス)の価格の問題です。これは「ジャパンプレミアム」と呼ばれるように日本は他国よりも割高な価格で輸入せざるを得ない状況になっており、この早期解消が重要です。現時点では、2017年から米国のシェールガスの輸入が実現する予定になっているほか、カナダでも日本企業がシェールガスの採掘プロジェクトを進めており2019年から輸入予定です。これらを前倒しするためには交渉力を高めることだと思います。

 エネルギーコストについて規制緩和の面から考えると、発送電分離、電力自由化が重要です。2016年頃から動き始める予定ですが、いかに新規参入による競争を促し、電気料金値下げにつなげられるかが大きな鍵を握ってきます。

 さらにその先を考えると、石炭火力発電所です。石炭は一昔前までは環境規制によって石炭火力発電所の新設が認められませんでしたが、いまでは緩和され、新設プロジェクトが動き始めています。これもいまの計画では2019年からの稼働予定で、いかにエネルギーコストの低下を促す政策を迅速に進めるかが重要になります。

 こうしたエネルギー政策について、日本のお手本になるのはドイツです。ドイツも脱原発を打ち出し原発を徐々に止めていく一方で、価格が低下している石炭火力発電の比率を上げています。日本は、石炭火力発電について世界で最も高い技術を持っていますので、インフラ輸出といった面でも成長戦略への貢献が大いに期待できるでしょう。

 以上申し上げたとおり、アベノミクスの進捗は第三の矢を中心にいまだ道半ばです。ただ、現時点で最も国の政治が安定しているのは、日本です。今後はこうした追い風をテコにアベノミクスの進捗、成長戦略の進捗がいかに加速するかが将来の日本経済の鍵を握り、日本経済の将来を左右すると考えていいと思います。


     ※2014年2月12日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。