卓話


人口減少高齢化にどう向き合うか

2011年6月1日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

政策研究大学院大学 名誉教授
国際都市研究学院 理事長
松谷 明彦氏

 私たちは,人口は増加するのが当たり前,経済の成長率もプラスになるのが当たり前と思っていました。

 2004年を境に,日本の人口は2005年から減り始めています。この状態が少なくとも百年〜2百年にわたって続くという時代に突入しています。加えて,猛烈な勢いで,高齢者の割合が増えています。その高齢化現象は他の国に比べて,圧倒的なスピードです。高齢化は,日本だけに限ったことではなく先進国共通の傾向ですが,人口の減少は日本だけの現象です。

 こうした人口減少と高齢化の時代に,この先,何が起こるか。我々はそれにどう対応すべきか。現在の最大の関心事であり焦眉の急でもある,東北の復興再建に焦点を絞ってお話ししたいと思います。

 1755年にリスボンで大地震がありました。それまで日の出の勢いだったポルトガルは,この地震を境に国勢が傾きました。また,アルゼンチンの大震災でも,当時どこの国より豊かであったアルゼンチンが,震災を境に国力を落としました。このように,大きな災害があると,それをきっかけに国が衰えていく例はたくさんあります。

 そういうことはあってはなりませんが,東北に出されている復興の処方箋が,非常に大風呂敷であることに不安を感じています。

 これからの日本を考える場合,当然ながら経済はどうなっていくかを考えることが基本的な条件の一つになります。

 日本の経済成長率の実績を10年単位の平均成長率で見ると,1980年代は約4%プラス,90年代は約1%プラス,2000年代は1.3%プラスでしたが,2010年代にはプラス・マイナス0%になると考えられます。

 1980年代の日本は圧倒的な成長率を誇っていましたが,90年代になるとバブルの後遺症などがあって少し落ち込みました。

 2000年から2010年にあっては,かつての勢いを見ることができません。経済成長率の低迷は,必ずしも人口減少が直接の原因ではなく,大きな構造的な問題がありました。日本の技術開発力,特に製品開発力が欧米に比べて低下していたことが原因です。それを反映して,21世紀の最初の10年はかなり低い経済成長率でした。

 これから先どうなるか。自然成長率を予測すると,2010年から2019年の10年間は成長0%,2020年代でマイナス0.3%,2030年代はマイナス0.8%です。これまで拡大に次ぐ拡大を続けてきた日本経済が,マイナスになる可能性があります。その理由は言うまでもなく,働く人が減るからです。

 日本の15歳から64歳までの生産年齢人口は,1996年にはマイナスに転じていました。その後も減る一方です。しかも,減り方が毎年大きくなっていくと予測されます。

 このような加速度的減少に対して,外国人労働力を活用したらどうかという議論がなされています。

 2050年までの経済成長率を0%に底上げするために,どれ程の外国人労働力が必要か計算してみました。2050年までの40年間に1,650万人もの外国人労働力を必要とします。その場合,2050年の外国人労働者の割合は,日本国民の18.2%に達します。これは異常な数字です。

 過去に,外国人労働者を活用したのはドイツでした。トルコやチェコ等から大量の労働力を入れたことにより,高度成長を実現しましたが,国内では,ドイツ人労働者の失業問題が起こり,社会不安が増大しました。また,低賃金労働者という低所得者の急増によって社会保障費が膨張し,結局,財政が破綻しました。

 今度は逆に,外国人を追い出しにかかりました。その時の外国人労働者の数は,ドイツ国民に対して僅かに8.5%の比率でした。

 このように見ると,18.02%はあり得ない数値です。ということは,日本経済は,2010年代のいずれかの時点で,マイナスの方向に向かうことは避けがたいと考えねばならないということです。

 このような状態の時に,東北に対する対応策はどうすればいいのかという問題です。

 復興に全力をあげることは当然ですが,かつての,1970〜80年代のような経済状態であれば,東北の復興は数年で成し遂げることができるかもしれません。

 しかし,いまその力はありません。もう少し長い時間軸で考えることが必要だと思います。日本全体のバランスを考えれば,長い時間軸で地道に復興再建を考えるべきだと思います。

 もう一つは,東北に対して,一方的に全面的援助を提供するだけではなく,東北自身の経済力の向上を図り,自律回復力で復興する方向に努力を払うべきと考えます。

 勿論,いま困っている人には何がなんでも助けが必要です。私が話しているのは,中長期的な東北地方の復興という視点での話です。

 今,東北の震災をきっかけに、増税が取り沙汰されています。しかし日本の将来を考えると、それは誤った政策方向と言わざるを得ません。

 国民一人当たりの財政支出は,これまでの50年の間に10倍くらいに拡大されてきました。今もそのスピードは変わりません。しかしこれからは人口の減少と高齢化によって,働く人の数も,その全国民に対する比率も低下していきます。

 問題は,税を負担する能力があるのは働く人達だということです。そうした担税力のある人は、これまでは,年を追って,数の上でも比率の上でも増えていました。だから増税をしなくても租税収入は伸びていったのです。これからは,担税力のある人が数の上でも比率の上でもどんどん減少していきます。だから増加する財政支出に対する租税収入の不足分を増税でカバーしようとすると,毎年毎年大幅な増税が必要になります。つまり際限なく税率を上げていかない限り、支出に見合う税収は確保できません。

 高度成長時代,人口増加時代の財政であれば,収支の不均衡は増税で解決できたし,それが妥当な政策でした。しかし時代は変わったのです。高度成長時代の考え方で財政再建を進めれば、際限のない増税となって、財政そのものの崩壊を招くことになりかねません。

 今後は国民一人当たりの所得は横ばいになると考えられます。そうした時には、財政支出も横ばいにしなくてはなりません。人口の減少に比例して,財政支出の規模も減少させることしか,解決法があり得ないのです。

 「構造的な財政赤字は増税でしか解決できない。高齢者は増える。国債のつけもある。だから増税だ」という議論があります。

 国民所得に対する,財政収入の比率と租税収入(国と地方の合計)の比率を調べてみました。そうすると,2007年度には,それまでにあった大幅な単年度赤字は,ほぼ解消に近い形になっていることが分かりました。国と地方の財政支出を合わせて,いろんな特別会計も整理して,一本の予算にすると,ほぼ均衡状態に近いのが日本の財政です。決して構造的な赤字でないことが分かります。

 しかし今は赤字です。ここ2〜3年で一挙に赤字になったのです。ですからばらまきと批判の高い最近の2〜3年の支出を元に戻せば,日本の財政は均衡します。

 ところで,東北の震災対策の財源をどうするかです。2007年段階の財政支出は約100兆円でした。私の見るところその2割,20兆円くらいは無駄な予算と言ってよいでしょう。だから震災復興や当面の対応策は,規定経費の中から支出することで処理できます。

 日本の国力もそう強くない,増税も難しいとなると,東北をいつまで放っておくのかという議論になります。

 私は,日本人のお金だけでなく,外国のお金の活用を提案します。韓国の済州島が経済特区として,外国からの企業進出や技術者を受け入れ,相当な経済発展をしています。このような例を日本でも考えてみてはどうかと思っています。

 どちらかというと,日本は海外に対して閉鎖傾向に向かっています。日本国内で活躍している外国企業もどんどん減っています。欧米企業は特に減っています。欧米企業としては,科学技術の水準も,消費者の水準も高い日本で活躍したいのですが…。

 例えば,東北地方を経済特区として,外国企業が自由に立地できるようにしたらどうでしょうか。減免するとか,助成するとか,手続きを簡素化するとか優遇策を図ったらどうでしょうか。いま上海に向かっている欧米企業も,日本にそういう地域があるとすれば,喜んで積極的に日本に向かうと思います。

 東北地方は,科学技術の水準が非常に高い地方であると同時に,昔から培った高級品を造る職人的技術も蓄積されています。欧米にはたいへん魅力的な技術です。

 まずはそうした外資も活用しつつ東北の自律回復力を上げていく。それを前提に日本全体としての援助を進めれば,無理のない形で東北の復興が成し遂げられるのではないかと考えています。

 人口減少高齢化は、明治維新や終戦にも匹敵する環境変化です。これまでとは違った考え方、やり方で将来を考えなければならない時代になっていると思います。