卓話


日本の水産業その現状と展望

2022年8月17日(水

(一社)大日本水産会
会長 白須敏朗氏


 大日本水産会は明治15年に発足し、今年で創立140周年を迎える大変長い歴史を有する団体です。明治初年当時は行政が未分化で、水産庁もできておらず、私どもは行政の代行機関という機能を果たしていました。

 現在、約600の企業・団体が会員で、水産の大手3社であるニッスイ、マルハニチロ、ニチ レイ、沿岸漁業代表の全国漁業協同組合連合会、遠洋・沖合漁業代表の日本かつお・まぐろ漁業協同組合(日かつ漁協)、卸売市場の卸会社の代表の全国水産卸協会、この6社が副会長を務めています。

 水産関係の企業や沿岸から沖合・遠洋に至るまでの漁業生産団体、市場の卸など、水産の生産から加工、流通に至るまでのオール水産で成り立つ団体で、水産の経団連と自称しています。水産業の振興発展のため、政治や行政に水産業界の要望を伝え、業界をサポートするとともに、今後進むべき方向に業界をリードすることが私どもの役割です。

 日本はかつて「世界に冠たる水産大国日本」として、漁業生産で世界一の地位を誇り、1984年の1282万トンをピークに1000万トンを超えていた時代がありました。しかし、生産量はどんどん下がり、2020年で423万トンと3分の1に減少しています。現在は中国が世界一で、日本は世界で10位ぐらいです。

 理由の一つは、1977年、米ソが200海里水域を設定したことで、海外漁場から撤退し遠洋漁業が縮小したことです。遠洋漁業は73年頃のピーク時の約400万トンから、最近ではわずか30万トンと10分の1に落ちてしまっています。もう一つは、沖合漁業で400万トン以上獲れていたマイワシの漁獲量が激減したことです。

 次に水産物需要の現状です。かつて日本は世界一の魚食民族として、1人当たり年間消費量は70キロを超えていましたが、現在は46キロと大きくダウンし、韓国、ノルウェーに抜かれました。この30年間に、インドネシア、中国、米国、EUは、魚の消費量が増加し、世界平均も13.3キロから20.3キロへと1.5倍になっています。

 日本では魚離れが進み、2010年には1人当たり年間消費量で肉が魚を上回り、以降、その差は拡大傾向にあります。魚は2001年がピークの40キロで、2018年には23.9キロと4割減になってしまいました。理由としては単価として肉より魚のほうが割高であること、骨があり調理が面倒くさいこと、生ゴミの問題で嫌われることが挙げられます。

 他国の増加の背景には、健康志向によって肉より魚のほうがヘルシーだという考え方や、中国などは経済発展で富裕層は肉より高価格の魚、特に輸入したマグロやサーモンを食べるほうがステータスに繋がるという考えがあります。

 また、2013年に和食が世界無形文化遺産に登録されました。これにより世界では寿司をはじめ魚食・和食がブームになり、世界の和食レストランの数も大変増えています。

 こうした中で、私どもは「水産日本の復活」を目指しています。水産業界の使命は、「国民・消費者の皆さんに対する水産物の安定供給」です。しかし、供給能力が大きくダウンする一方で、需要も大きく減少しています。需要拡大をしなければ安定供給に結びつきません。

 まず供給面の課題です。供給を担う要素は3つ「人・船・資源」です。

 「人(漁業就業者)」については、減少と高齢化が続いています。1993年から2020年の間で6割減少し、新規就業者は横ばいです。特に問題なのは若い人が漁業の世界に入ってきてくれないことです。

 全国に水産高校・海洋高校が46校あり、卒業生は毎年3000人です。そのうち船に乗るのは1割の300人で、商船が200人、漁船は100人と、将来の日本の水産業・漁船漁業を担っていくにはとても足りません。

 若い人に漁船に乗ってもらおうと、2017年に「漁船乗組員確保養成プロジェクト」をスタートしました。水産の企業・団体が直接、高校に出かけていき、学生に漁業の現状と魅力についてガイダンスを行った結果、「漁業もそんなに昔のような古い船に乗ってはいないのだな」「漁業はやっぱりやりがいのある職業なのだな」と徐々に就業者が増えてきました。最近は新型コロナの影響で直接学校に出向いてのガイダンスが難しくなるなか、日かつ漁協が若者に影響の大きいYouTubeで『遠洋漁師になるって夢を叶える動画っ!』を配信し、人気になっています。

 もう一つは、「漁業就業支援フェア」を年に3、4回、東京、大阪、福岡といった大都市で開催し、漁協や漁業会社が相談に応じています。ダイビングやサーフィン、釣りといった趣味から漁業に興味を持ち、就業する方が増えています。

 次に「船」です。漁船の最大の問題は老朽化です。海面漁業生産量の約7割、230万トンを担う遠洋・沖合の中大型漁船1300隻の6割が船齢20年を超えています。漁船は30年経つと生産性が低下し操業の危険度も高まるため、一刻も早く代船を建造するために、その計画を今一生懸命立てようとしています。

 漁船漁業の労働は「きつい、汚い、危険」な3Kの職場と言われ、狭い蚕棚のような船室がそれを象徴しています。これでは若い人が入ってきてくれません。石巻の若手の漁業集団「フィッシャーマンジャパン」が「かっこいい、稼げる、革新的」という新3Kのフレーズを作ってくれました。そうした労働環境で仕事ができる、居住環境にも配慮した漁船をどんどん作っていこうとしています。

 続いて、「資源」です。このところ、サンマ、イカ、サケが獲れません。2000年以降でサンマはピーク時の9割以上減、サケも8割減、イカも9割減という壊滅的な漁獲量になっています。

 最大の理由の1つは地球温暖化です。海水温の上昇によって、サンマがオホーツク海から日本のほうに下りてこれず、群れが集まりにくい状況です。また中国、韓国、台湾の漁船による公海での乱獲も、日本の漁船が獲れない理由の1つです。

 資源を安定的に漁獲し、水産物の安定供給につなげていくためには、資源の持続的利用等を進めることが必要です。特に、生産面では資源管理を進めることが肝要になります。一方、消費者サイドでは、エコラベルの付いた水産物を購入することが持続的な漁業の応援につながります。

 私どもが2007年にスタートした日本型エコラベル「マリン・エコラベル・ジャパン(MEL)」は、2019年には国際的な認証も取得しました。例えば、カツオをまき網で一網打尽に獲るのは持続的な漁業ではないため、1本釣りで獲る。そうした漁業にエコラベルを付けることが出来、その商品を消費者が買うことによって、漁業が発展していく。まさにSDGsの精神に則ったものです。

 最近では、イトーヨーカドーや日本生協連など大手小売グループもMELを取得し、店頭にMELの付いた水産物をたくさん並べています。もし目にされたらぜひお買い求めいただきたいと思います。

 次は需要の話です。消費者が魚を食べなくなった、あるいはコロナ禍で魚が売れないなど減少した需要を拡大しなくてはいけません。

 解決の一つが販路の開拓です。ボストン、ブリュッセル、青島が世界三大シーフードショーとされ、日本で最大のシーフードショーが私ども主催の「ジャパン・インターナショナル・シーフードショー」で、これも負けておりません。1999年、三大シーフードショーより若干遅れてスタートし、今年で24回目になります。

 コロナ禍前の2019年の来場者が3万3572名でした。ボストンで2万2000人、ブリュッセルで2万9000人、青島は4万人で、三大シーフードショーの域に達しています。

 問題は出展者数です。私どもはコロナ前で840社、三大シーフードショーは1000社以上、特にブリュッセルは2000社ですから、海外からの出展者やバイヤー含めもっと誘致に頑張らないといけません。

 コロナ禍によって、世界三大シーフードショーをはじめ世界中の商談会は軒並み中止・延期になりました。私どものシーフードショーの出展者は中小の水産関係者で、販路を失っています。「販路回復のチャンスを与えてほしい」という切実な声に応え、万全のコロナ対策を行い、2年続けて開催しました。海外からの直接の出展・来場がなかったため例年の3分の1の規模になりましたが、実質的な商談に繋がったと高く評価いただきました。今年は、8月24日から26日に東京ビッグサイトで開催します。

 次が魚食普及推進です。10年前に魚食普及推進センターで「お魚食べようネットワーク」を立上げ、その会員と一緒になって、食育の観点から子供に魚の美味しさを伝える「小学校おさかな学習会」を行っています。これまでに全国の小学校2万校のうち2000校近くで出前授業を行いました。

 コロナ禍における「巣ごもり需要」の増加で、水産物消費は大きく変化をしてきています。ホームページで魚をさばく動画やリモート調理体験教室を行ったところ「おうち時間」を大切にする消費者ニーズに合致。アクセス数がコロナ禍前の10万から100万へと10倍になり、お魚たべようネットワークの会員もコロナ禍前の3倍になったと嬉しい悲鳴を上げているところです。

 最後は、輸出です。
 水産物の輸出は、農林水産物全体の輸出の4分の1を占めており、ホタテを中心に、ブリ、サバ、カツオ、マグロ、それぞれを200億円以上輸出しています。農産物では牛肉が537億円、日本酒が402億円、牛乳・乳製品が244億円、緑茶が204億円ですから、水産物は結構頑張っているのではないでしょうか。今後ともこうした品目を中心に頑張っていきたいと考えています。

 今、大きな変化の時代を迎えています。こうした苦しいときこそ頑張りどきで、私ども大日本水産会としての存在意義を発揮するときと考え、業界一体となって、大いに知恵と工夫を凝らし、水産日本復活のために頑張って参りたいと考えています。


      ※2022年8月17日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。