卓話


インフラ輸出における日本の戦略的アプローチとその課題

2017年11月29日(水)

(株)国際協力銀行
代表取締役副総裁,CEO 前田 匡史氏


 私は民主党政権で内閣官房参与を仰せつかり、インフラ輸出戦略の策定にかかわりました。現在の安倍政権においてもそれは継続され、強化していただいています。当時に比べ、現在は地政学的な意味で新しい時代に突入していると考えています。

 大きな要因の一つは中国の台頭、もう一つは、アメリカのトランプ政権が自国中心の政策を打ち出していることです。今朝も北朝鮮が長距離弾道ミサイルを発射したように、北東アジアが非常に不安定になってきており、力の空白が生まれるのではないかと懸念しています。そのため、インフラ輸出は連結性を強化するための要であり、北東アジアの未来を見据える時に大きな礎になると考えています。今日は特にアメリカの話を中心にさせていただきます。

 今年1月のダボス会議で中国の習近平国家主席が演説しました。その直後にアメリカ大統領就任式がありました。習主席が自由な通商貿易を支持すると言ったのに対し、トランプ大統領の演説内容はキャンペーンレトリックと同じ「米国第一」という印象でした。アメリカをアジアにいかにつなぎ止めるのかが非常に重要な戦略になっています。

 4月、日米経済対話という枠組みが立ち上がりました。日本側は麻生副総理兼財務大臣、米国側はペンス副大統領です。初回会合では、「貿易・投資のルールについての共通戦略」「経済及び構造政策分野での協力」「インフラやエネルギー分野等での分野別協力」に取り組むことを決めました。アジアを念頭に、インフラ、エネルギーをアジェンダにしました。

 6月に世耕経産大臣からウィリアム・ペリーエネルギー長官に対して、日米LNG(液化天然ガス)協力が提案されました。分野別協力の柱としてLNGを含むエネルギーの日米連携を追求するものです。1980年代、90年代初頭の貿易インバランスのレトリックがまだ続いており、現在の最大貿易黒字国は中国になっているものの、日本の対米黒字を問題視する発言が米高官からいまだに聞かれます。

 私は内閣官房参与の時、「TPP交渉に日本は参加すべきだ」と菅首相に進言しました。その時ホワイトハウスで当時の大統領特別補佐官のマイケル・フロマン(後にUSTR代表)、デビッド・リプトン(現IMF筆頭副専務理事)に会い、単にFTA(自由貿易協定)を作るのではなく、新しい、高い透明性のある仕組みを作って経済連携を図るというアメリカの強い意思を持ち帰りましたが、その後のトランプ政権はTPP離脱を表明しています。将来、アメリカにTPPに戻ってもらうためにも、経済の実態をトランプ大統領に理解いただく必要があります。貿易赤字の問題は最重要課題ではなく、新しい経済連携とその根底にあるエネルギー分野の協力が大事であることを目に見える形で示そうということです。

 このような流れの中で、10月に経済産業省が主催した「LNG産消会議」で、日本は「アジアにLNGを供給する」又は「アジアにLNG需要を作る」プロジェクトに対する官民合計100億ドルのファイナンスの用意を表明しました。11月のトランプ大統領来日時の日米首脳会談では、「日米戦略エネルギーパートナーシップ」を作り、日米経済対話の枠組みの中で推進することで一致しています。

 日本は、福島第一原発事故前のLNG輸入は年間6,000万トンでしたが、原発が再稼働できない中でガスを炊いて発電することが増え、今は約9,000万トン、世界の輸入量の40%を占めます。一旦液化したものを運んで再ガス化するため価格は高くなる。日本のLNG輸入価格は原油価格に連動しているため、原油価格の低下でそれほどの貿易赤字にはなっていませんが、今後、この模様は大きく変わっていきます。

 今LNGは供給過多ですが、グローバルに見て2023年頃にはLNGの需要が供給を上回ると言われています。大きな理由はアジア各国のLNG輸入に向けた動きの活発化です。LNGはすぐ輸入できる訳ではありません。受入れターミナル、液化したものを貯蔵し再ガス化するプラント、更にそこからのパイプラインやガス焚発電システム等の導入が必要です。こういったエネルギーインフラを建設して稼働させるまで数年かかるため、今から準備する必要があります。このアジアの消費拡大に向けて各国が今動き出しており、日本はアジアにおけるハブの役割を果たせないかと注目しています。

 この週末、韓国のシンクタンクが主催する国際シンポジウムに行ってきました。韓国の文政権はガスの「北方政策」、東回りの北極海ルートを重視しています。ロシアがヤマル半島で進めている年間1,600万トンの生産が可能なLNGプロジェクトでは、液化プラントを日本の日揮、千代田化工が作っていますが、日本はこのプロジェクトからLNGを輸入する訳ではありません。上流に投資しているのは中国とフランスです。これを東周りのルートで運ぶ。北極海の氷の厚みが10メートルにも達することがあるため、このルートはこれまで1年のうち3ヶ月しか使えませんでしたが、今ロシアは砕氷設備着きの原子力船を持っており、これを使えば7ヶ月使えるようになります。文政権は、中国の一帯一路とロシアの北方の北極海航路を合せると蝶が羽を広げたような形になるので、全体をバタフライプロジェクトと呼び、これを押し進めようとしています。

   私は3週間前にカザフスタンのナザルバエフ大統領が主催する国際会議にも参加してきました。同国は中国の西側にあるため一帯一路で一番便益を受けると思っているようでしたが、私は「必ずしもそうではない」と話しました。

 一帯は陸路によるシルクロード経済ベルトで、同国は通り道にありますが、狙っているのはヨーロッパです。一方、海上を行く一路は中東に向かっています。中国と中東の間には海上輸送の要衝でありつつも非常に狭隘なマラッカ海峡がありますが、中国はミャンマーのインド洋側のチャオピューからガスのパイプラインを昆明まで敷くことで、インド洋側との迂回ルートを確保しています。インド洋へのアクセス確保という観点からは、バングラデシュのBCIM経済回廊の一部を構成するバングラデシュや、中パ経済回廊にも多くの投資をしています。資金の出し手としてはAIIB(アジアインフラ投資銀行)が2016年にスタートしていますが、授権資本は1,000億ドルと巨額であるものの、承諾した案件はまだ31件35億ドルで、世界銀行やアジア開発銀行と協調融資のものが多くなっています。ただ、カザフスタンを対象とした出融資実績はまだありません。中央アジアではタジキスタン向け少額の案件があるのみです。また、AIIBはスリランカのハンバントタ港建設に融資していたのですが、スリランカが財政難で返済不能となったため、この債務を99年間のリースに転換しました。

 この一帯一路に対して日本の姿勢はどうか。安倍総理は基本的にはコンディショナル、条件付でサポートすると言っています。条件は、)人が利用できるように開かれており、透明で公正な調達が行われ、プロジェクトに経済性があり、ぜ擇蠧れ側にとって債務が返済可能で財政の健全性が損なわれないこと、を上げています。先程のスリランカのことも念頭にあるのかもしれません。

 日本のインフラプロジェクトの受注状況は、それほど増えていないのが現実です。それに比べ、中国はものすごい勢いで増えています。

 インフラプロジェクト受注に向けて、我々は中国と相対するだけではなく、できるところは協調していこうと、2つの国営銀行、国家開発銀行と中国輸出入銀行と業務協力しています。例えば、昨今厳しい状況にあるベネズエラについては、同じ債権者である国家開発銀行と情報を共有しようとしています。

 ロシアは欧米から制裁を受けていますが、安倍政権はロシアとの関係改善に向けて様々な努力をしています。こういった中で、プーチン大統領が去年12月に来日し、100くらいの文書に調印し会議も沢山していますが、これまでに具体化したものはまだ多くありません。この状況を打開すべく、我々はロシアの政府系ファンドRDIF(ロシア直接投資基金)と共同運用する日露共同投資ファンドを立ち上げました。投資枠合計10億ドルです。JBIC IG Partnersという子会社を作り、そことRDIFとが共同でこのファンドを立ち上げましたが、既に数件、投資を実行しています。

 実は、韓国の前にはマレーシアに行ってきました。日本を含む幾つかの国が関心を示しているマレーシア・シンガポール間高速鉄道プロジェクトの入札が12月中頃に始まります。クアラルンプールからシンガポールまでの約350キロを約90分で結ぶ、二ヶ国にとって初めての国境を超える高速鉄道プロジェクトです。日本企業の技術力は確かですが海外進出についてはまだ保守的です。リスクマネーの供給強化で、日本企業の海外展開を支援できるよう頑張っています。

 インフラの海外輸出について、日本はまだまだ態勢が整っていませんし、受注案件もそれほど多くなっていませんが、地経学的にアジアは非常に重要です。

 JBICはアメリカのOPIC(海外民間投資公社)と業務協力協定を結び、アメリカがアジアに関与していくための枠組みを整備しました。日本は、トランプ大統領来日時に「自由で開かれたインド太平洋戦略」の実現に向けた協力を提案し、ここにインドを加えようとしています。ちょうど今日、インドのハイデラバードで、OPICのウォッシュバーン総裁、イバンカ・トランプ大統領補佐官、モディ首相の三者が一堂に会する会議が開催されています。日米印の三カ国での協力関係が更に進化していくことは、地経学的にも重要ですし、日本のインフラ輸出にとってもプラスになると考えています。