卓話


SIP『次世代海洋資源調査技術』−「海のジパング」計画

2014年9月17日(水)

内閣府 プログラムディレクター
東京大学名誉教授 浦辺徹郎氏


 今日は、安倍首相がイニシアチブを取り、成長戦略の一環として実施する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一つ、「次世代海洋資源調査技術」計画、略称「海のジパング」計画の話を致します。

 ご存じのように、マルコ・ポーロは13世紀のイタリアの商人で、中国にまで旅行をしてジパングの噂を聞き、「莫大な金を産出し、宮殿や民家は黄金でできていて……」と記録に残しました。しかし、現在のジパングは陸上ではなく、海底にあるのではないか、というのが表記の略称の理由です。

 さて、次の国はどこでしょうか。「8世紀以降に金の輸出量が世界一であった可能性があり、17世紀頃に銀の輸出量で世界一であったと推定されていて、かつ、19世紀末に銅の輸出量で世界一であった」。答えは日本です。

 日本は狭い小さな列島ですが、金は天平時代に陸奥国、黄金迫で見つかり、奈良の盧舎那仏を黄金色に飾りました。100〜200tが産出されたと推定されており、ある瞬間に輸出額で世界一であった可能性があります。銀については、フランシスコ・ザビエルが日本を「銀の島」と呼んだように、16世紀末から17世紀初頭にかけて、累積で1万t位の銀が輸出されたと考えられています。銀の開発によって、日本には鉱山の伝統が生まれました。江戸時代には手掘りでしたが、明治時代に政府が西洋の近代的採掘法を各鉱山に導入して一気に産出量を増やし、明治20年代には10年程、世界最大の銅の輸出国になりました。このように、日本は金・銀・銅など多くの陸上資源に富み、重要な点は、日本では時の権力者がこれらを専ら交易にまわしたことです。

 金の歴史で大きなものは、仏教文化の導入です。空海らは万巻の仏教教典を日本に持ち帰りました。日本人僧侶が砂金を対価に、寺院の僧侶を総動員して教典を筆写させた、仏具を買ったという記録があります。

 銀の輸出では、生糸・絹・綿布、薬、砂糖、書籍などとともに、中国や西洋から先端的技術を輸入しました。日本でそれを培い、明治の初めに富岡製糸場で近代技術と日本の伝統技術が重なりあい、それが世界遺産にまでなりました。南蛮文物も伝来しました。

 銅の鉱山業の伝統が、西洋文化と出会いました。明治維新で、近代西洋文明を取り入れるため、別子、足尾、生野・明延、日立などの銅山において増産が図られ、銅を輸出した資金で近代機械文明が創られました。このように日本では必要な時に必要な鉱物資源に恵まれ、その富が文化や文明として我々の中に脈々と生きています。

 地質の話に移ります。日本列島は、火山・地震活動が盛んです。金属鉱床は、火山・地震活動がもたらす「熱水活動」によって、地下ないし海底面上で形成されます。日本は1500万年前、ほとんどが海底にありました。日本列島の島弧は、(東から西へ)日本海溝→脊梁の火山→日本海という配列になります。伊豆には世界で最も深い小笠原海溝→伊豆七島火山→四国海盆。さらに沖縄を見ますと、琉球海溝→薩摩硫黄島→沖縄トラフ、また九州パラオ海嶺も昔の列島です。日本列島と同じ配列、同規模のものが3つあり、まだ陸にはなっていません。本州の陸上には、豊かな金属資源がありました。つまり同じ規模の配列が日本に3つ以上あるとすれば、昔のような資源が今、海底にもあるのではないかということなのです。

 現在と過去の海底熱水鉱床を見てみます。黒鉱(くろこう)鉱床とは、日本を代表する銅・鉛・亜鉛・金・銀の鉱床で、約1400万年前に海底熱水活動により生成されたもので、大変高品位でした。陸上では北海道から島根県まであります。この位置と、現在知られている熱水鉱床の位置を見ると、先の3つの島弧に地質的にも資源的にも同じようなものがあるのがわかります。

 海底熱水鉱床は、高温の熱水噴出があり、周りに特異な熱水生態系があり、ブラックスモーカーという、海底から300度のお湯が出て真っ黒い煙を出し、足下には黒鉱鉱床と同じような礫、銅・亜鉛・鉛・金・銀の鉱石の礫がゴロゴロと落ちています。このような海底熱水活動は世界に400箇所ほど、日本周辺に15〜20箇所あるのが知られています。世界の海底熱水鉱床の多くは2500m〜3500mの深海ですが、日本周辺のものは水深が700〜1600mと浅く、大変有利です。

 今最も探査が進んでいるのは、沖縄県にある伊是名(いぜな)海穴です。深海を”飛行“する自律式海中ロボット(AUV)から音波を発して調査したものをもとに作成した海底の地形図があります。でこぼこしたコーン型のものが多数分布しているのがわかります。これらはすべて黒鉱と同じ鉱石でできており、世界最大級の鉱床であることがわかりました。経済産業省を中心に、100本ほどボーリングを打ち、品位等を調べました。その断面を見ると、数十メートルの高さの鉱石の山があり、それを深く掘ると下にも鉱体が広がっています。ただし良いことだけではなく、ヒ素や水銀など有害な元素もあり、これらをどのように処理して掘るのか、日本は世界に先駆けて開発する必要があります。

 熱水鉱床の他にも、日本周辺には水深1000〜3000mにコバルトリッチ・マンガンクラスト鉱床があります。マンガン団塊という言葉を皆さん聞いたことがあると思います。私も子供の頃に世界の海にマンガン団塊があると聞いて、「地質学をやろう」と思って学者になったのですが、これはほとんどが公海にあり、いまだ掘れていません。その間にコバルトリッチ・マンガンクラスト鉱床が日本の領海内で見つかりました。

 コバルトリッチ・マンガンクラストは、成分はマンガン団塊と同じで、海山などの表面を約10cmの厚さで覆うクラスト状のものです。銅・コバルト・ニッケル・白金・レアアース(稀土類元素)・リン・チタンなどを含み、膨大な資源量があります。これと、先に説明した海底鉱床の2つを採取することができれば、日本の先端的技術に必要なメタル類、貴金属類がほぼカバーできます。これは、冷たい海水から100万年に3ミリという非常にゆっくりした速度で海水から沈殿したもので、古い海底でなければ存在しません。日本の東南方にある南鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)内の海山は世界で最も古く(1億年)、多く集積しています。

 私は今、国連の大陸棚限界委員会の委員を務めています。日本政府は、今年9月9日、沖ノ鳥島北方の四国海盆海域、小笠原海台海域の2つの海域で、EEZ外の大陸棚を延長するための政令を閣議決定しました。日本は国際海底機構(ISA)にマンガン・クラストの鉱区を申請し、4箇所が日本の大陸棚として受理されました。日本の大陸棚は国土の12.6倍、アメリカ本土の約半分という広大な海底です。日本はさらにEEZの外側の公海で、マンガン・クラストの鉱区の申請もしています。大陸棚の海底は日本に与えられた最後のフロンティアです。こうした開拓をどのように進めていくのか。海底資源開発は未踏技術で、多くのリスクが存在します。SIPでは開発はカバーしていませんが、“開発に充分な資源量があるのか”という、最大のリスク軽減を目指しています。また、海洋の環境保全プロトコルの開発を行い、リスク低減を図ります。

 「海のジパング」計画の研究には3本柱があります。まず、海底下にどのようなものがあるのか、鉱物・鉱床の成因を解明する。2番目に、海底下鉱物資源情報等を現在の数倍以上効率良く取得するシステムを開発する。そして、永続的な掘削が可能となるよう、長期にわたり継続的に環境影響の監視を行う技術を開発します。幸い、年間60億円の予算を頂くことができ大変感謝しております。

 少し詳しく言いますと、各省庁・大学等における様々な要素技術の研究開発は非常に進んでいます。陸上探査の場合はリモートセンシング、空中物探地質調査、地上物探精密調査、ボーリングと、広域から面積を狭めていって掘りますが、海水は電磁波を通さないため、船上物探(音波等)、自律式海中ロボット(AUV)を活用した深海物探を行い、掘削につなげようとしています。各種要素技術をAUVに搭載可能にするため小型・効率的にし、そこで得られた情報を陸に送る調査システム開発を、内閣府(SIP)をはじめとする産学官一体で推進する。そして、海洋資源調査を民間が出来るように実用化する。それから、環境影響評価に関しては、グローバルスタンダードを我々の方法で提案し作っていく。その出口は、日本発の技術による海洋資源調査産業の創出、日本の調査技術及び環境影響評価手法の国際標準化で、それを5年計画で行い、「海のジパング」を目指そうと頑張っています。

 技術立国を支える鉱物資源の安全保障の意味あいから、国は百年の計として、長期的取り組みを継続してほしいというのが我々の希望です。