卓話


環境保全月間
世界水ビジネスの現状と日本 

5月18日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

国連テクニカルアドバイザー 
吉村 和就氏 

第4054回例会

20世紀は石油の時代だったが,21世紀は水の時代になるといわれております。

 水の惑星といわれる地球の「水」の量は,14億キロ立方メートルです。そのうち,97.5%が海水で,淡水は2.5%しかありません。さらに,淡水の1.7%は氷河・氷山で固定されており,我々が実際に使える水は,わずかに,0.8%です。さらに大変なのは,地表面に存在して,すぐ安全に飲める水は,使える水の100分の1の,0.008%しかありません。 

 アナン事務総長は「水不足の影響は世界人口の3分の1に達し,2025年には3人のうち2人に影響が及ぶ。60億の地球人口のうちの14億人が安全な水が飲めず世界の20%の人が水に由来する病気に罹っている」と警告しました。2000年の9月に国連の「ミレニアムサミット」が開かれ「安全な水にアクセスできない14億人の人を2015年までに半減させる」という決議をしました。日本は,当時の森総理大臣が「人間の安全保障基金」の100億円の上積みを国連総会で述べられました。

 2003年3月に第3回世界水フォーラムが日本で開かれました。「すべての人が安全な水を利用できるように」というテーマで,182カ国が参加しました。「民間の資金を活用して一刻も早く世界の人々に水道を普及させたい」という民営化賛成派と「水道の民営化は貧しい人の生活権を奪う」と反対するNGOが真っ向から対立して,この場では結論が出ませんでした。

世界の水ビジネス市場を見てみますと,大きな分野は「上下水道」です。この市場への投資は,2005年で40〜50兆円。2010年には70〜100兆円と予想されております。

欧米での民営化の動向をみますと,英国では,1989年にサッチャー政権は水管理公社を完全に民営化しました。その背景は設備投資の公的資金の不足でした。英国の民営化が高く評価されるのは,政府が事業者の超過利得つまり民間業者の儲け過ぎを防止する監視機関を作ったことです。飲料水の品質を管理するDWI,下水の放流を規制するNRA(後にEA),最も有名なのは料金などの経済的規制をする0FWAT(水管理監督庁)で,強い管理監督権をもっています。その結果,イングランドとウェールズの上下水道民営化率はほぼ100%になっています。

 フランスは,小規模な自治体が多かったので,150年前から民間委託をしていました。公設民営方式で,基本的な権限を自治体に残したまま,民間に全面委託するという方式です。ビベンディー(ベオリアと改称),スエズ,ザールといった上位3社で国内の90%の市場を押さえており,民営化率は上水が78%,下水が74%という状況です。

アメリカでは,1990年に連邦政府の補助金が廃止になり,民間資金の活用が始まりました。最初はアメリカの地元資本の会社,USフィルター,アメリカンウォーターワークスなどが国内の市場を独占しましたが,1990年の後半になりますと,ドイツ,フランスの会社がアメリカの会社を次々に買収し,米国市場を手に入れました。アメリカの民営化率は現在35%ですが,民営化水道会社のほとんどがフランス,ドイツの資本下に入りました。

世界の民営化水道市場に参入している会社は10社ほどありますが,米国企業を買収したフランスの2社とドイツのRWE社の合計3社が世界市場の8割を押さえております。

このような状況の中で,2001年4月にフランスが,「飲料水供給と下水道に関するサービス活動の国際標準化」をISO に提案してきました。「今後予想される世界的な水不足に対処する為,顧客に適切な価格で良好なサービスを提供する」ための国際規格を作るという,極めて理想的な提案です。しかし,中身はほとんどフランス規格で,世界各国から,これはフランスの世界制覇戦略だとの非難があがりましたが,結局,ISO理事会でこれを採り上げることに決定しました。

水の話から横道に入りますが「国際規格化の現状」について申しあげたいと思います。 ISOというと,日本人は崇め奉る傾向がありますが,ISOは欧州の世界戦略の武器です。ほとんどの規格がドイツ規格,あるいはイギリス規格が基になっています。アメリカは,欧州の優位を懸念して,95年に大統領令を出して,ISOに積極的に参加し,2000年からはアメリカが最大の幹事国になっております。

一方,日本は,技術的には非常に優れているのですがISOにほとんど採用されておりません。例えば高品位テレビは欧州方式になりました。携帯電話も結局,欧州方式になりました。欧州は携帯電話の世界規格を取ったことによって,10万人の雇用と10兆円のマーケットを手に入れたといわれております。

 欧州主体のISOなのですが,認証数は日本が世界一です。例えば,ISO14001の認証数は,全体の22.5%で世界最多です。

ISOの規制制定時に幹事国の意見が最も通ります。近年の幹事国の数は,アメリカ140,ドイツ130,イギリス113,フランス82,日本は僅か32です。欧米の基本姿勢は,ISOは国益の反映であるとして国が資金援助をしていますが,日本は,ISOは民間の規格であるから民間でやれという姿勢です。こういうところにも,日本の規格を世界規格にできないという原因があると思います。

なぜ,ISOが注目されるのかと言いますと,ISOは民間の任意の規格ですが,WTOの対象項目になりますと,TBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)によって,ISOが強制力をもつことになります。TBT協定は恐ろしい協定でありまして,国内基準より国際基準を優先せよというものです。仮に国内法がない場合は,国内法を作る時には国際基準に準拠しなさいということになります。ISOは事実上の世界規格になります。

話を水に戻しまして,2002年のパリ会議で,水資源と水道システムについて,基本的な提案を示すガイドライン,具体的な行動を示すアクションプラン,行動を具体的に示す業務指標と,三位一体の提案を致しました。さらに今年の1月,スペインでのWG会議で,ISOの制定方針に基づいた世界で最初の規格を発表し,正式に登録されました。これによりまだ規格を有していない先進国や途上国は日本規格を参考にして国内規格を制定することになりました。

日本の水道事業の現状は,蛇口から直接飲める、高い普及率,高い有収率,低い漏水率どれも世界に誇れる現状です。

 しかし問題点もあります。町村合併による水道事業者(地方自治体)の減少、年間水道料金の減収傾向、補修・メンテナンス費用の増加、水道料金の地域格差、巨額のダム負担金、赤字に対する一般会計からの補填などです。

水道事業は各地方自治体に任されていますが,今年の1月に,水道に関するすべての項目(137項目)を具体的な数値で評価するガイドラインを制定しました。実際の効果は,説明責任の資料、水道事業者間の競争、官民比較の手段、民間の事業参入の比較、消費者の関心向上、責任所在の明確化などです。

海外から見た日本市場について,アメリカ商務省の報告では,日本の市場は成熟していて成長率は低いが,好ましいビジネス環境である。アジア最大の市場規模(年間収入6兆円)の存在に関心があるといっています。また,フランス企業は低いカントリーリスク(確実な資金回収)に着目しています。彼らが今後どのように日本に入ってくるかといいますと,例えば民営化の政策,日本版のPFIというところにビジネスチャンスがあるとみているようです。単に水道だけではなくマルチインフラ会社としての参入も考えているようです。

日本の水道事業経営の将来像については,シナリオが三つあります。一つは民間委託の拡大です。二つめはフランスと同じような公設民営方式です。三つめは水道事業完全民営化ですが,これは公益性を確保して新しいビジネスモデルを作る必要があります。

 最近注目されているのは,このマルチ・インフラユーティリティです。ライフラインとして電気,ガス,水道,通信を考えた場合,海外の,ドイツの電力会社は電気,水道,ガス,廃棄物のすべてを手掛けております。注目すべきはGEとシーメンスで,本来水道とは無縁と思われていた会社でしたが最近は積極的に水道事業に乗り出しております。

マルチユーティリティのメリットは企業の合理化,効率化です。電気,ガス,水道のデータが一括処理できます。設備のメンテナンス,非常時の対応も集中的に対応できます。間違いなく日銭が入ってくる長所もあります。

 21世紀は水の世紀であって,国際的な枠組みがさらに重要になります。水を巡る国際的なビジネスがますます熾烈となります。日本も,一刻も早く効率化を求めて新しいビジネスモデルを作らねばならないと思います。