卓話


がんサバイバーを支援しよう

2018年1月31日(水)

(公財)日本対がん協会
会長 垣添忠生氏


 日本人が亡くなる病気は1981年から悪性新生物、がんが第一位になりました。一般には高齢者に多く、日本が非常な勢いで高齢化社会になりつつあることで、がんになる人、亡くなる人が増え続けています。

 がんは全世界的な健康上の課題です。日本では一生のうち、男性は3人に2人、女性は2人に1人ががんになり、年間38万人超が亡くなっています。世界中でがんになる人は年間1400万人、がんで亡くなる人は880万人、がん経験者、治療中から治った方まで含めて3260万人で、その数が増え続けています。従来がんは先進国に多い病気とされていましたが、アジア、アフリカ諸国も感染症が制御されて少しずつ長生きするようになり、がんが大きな問題になっています。

 人間の体は数十兆個の細胞でできています。細胞中の核の中に全長1.8メートルのDNAがあります。DNA上には約2万個の遺伝子が載っており、そこにがん遺伝子あるいはがん抑制遺伝子が100個以上あると知られています。がん遺伝子が暴れ出す、あるいはがん抑制遺伝子が不活化する、あるいは両方によって正常細胞ががん細胞に変わる。つまり、がんは遺伝子の異常により発生し、進展する細胞の病気です。

 遺伝子に傷をつける原因は、たばこが30%です。食事が35%、ウィルスや細菌感染による感染症が10%で、がんの原因の75%は生活習慣、あるいは生活環境にあるといえます。ご一家、一族の中に多くのがんの方がいて「うちはがん家系だ」という方がいますが、本当に遺伝が関係するがんは5%程です。

 日本人のがんを4、50年の時間経過で見ると、ダイナミックな変化を遂げつつあります。かつては男女ともに胃がんになる人・亡くなる人、女性では子宮がん、特に子宮頸がんになり亡くなる人が多かったのが少しずつ減り始めています。変わって、肺がん、大腸がん、乳がん、前立腺がんになる人・亡くなる人が増えています。亡くなる観点では、肺がんや大腸がんが問題ですし、前立腺がんは従来、アジア諸国には大変少ないと言われていたのですが、これは典型的な高齢者がんで、今非常な勢いで我が国でも増えています。この変化の背景には私たちの生活習慣、生活環境の変化、人口の高齢化が潜んでいます。

 がんは長い時間かかって複雑な経過で発生します。人間では多段階に発がんすると考えられています。ある日突然、正常な細胞ががん細胞に変わるのではなく、段階的に遺伝子異常が貯まる。遺伝子の構造には変化はないが遺伝子の発現を制御・伝達するシステムに異常が起きるエピジェネティックスも関係していると言われています。

 まとめると、がんは遺伝子の異常によって発生し進展する細胞の病気です。発生には生活習慣、生活環境が関連し、特にたばこと食事と感染症が重要です。発生、進展には長い時間がかかります。従って、がんは慢性の病気であり、心筋梗塞、脳卒中など一分一秒を争って救急対応しなくてはならない病気とは性質を異にします。もし、がんやがんの疑いがあると言われた時には、情報を集めて自分や家族はどう対処すべきか考える余裕はある訳です。  がんの7、8割は時間の経過とともにだんだん悪くなっていきます。医療はがんの予防をし、症状が出る前に検診という形で介入します。それから、診療です。受診した時に的確な診断をして治すのが理想ですが、既に進行がんの方もいます。治せない方も出てくると、最後は緩和医療、あるいは緩和ケアを提供してその方が尊厳をもって亡くなる過程を支援する構造になっています。

 多くのがんでは、予防、検診がとても大事になります。日本も含めて世界のがん対策は、予防、早期発見、診療、緩和ケアの4本柱で構成されています。予防にはたばこ対策とワクチン接種があります。早期発見できるがんは検診する。世界的には、子宮頸がん、乳がん、大腸がんの3つが対象で、我が国は胃がん、肺がんも国の検診対象です。

 診療をしっかり行うのは当然のことですが、最近、オプジーボと呼ばれる免疫チェックポイント阻害剤という新薬が出てきました。とても値段の高い薬で、薬価が下げられましたが一人2400万円位かかります。高額医療制度があるため個人負担は数万円から10数万円ですが、残りは国や保険がカバーするため、我が国の保険の崩壊につながりうると深刻な話題になっています。

 最後に、どうしても治せないがんには緩和ケアを提供します。特に疼痛対策、薬ではモルヒネが重要になりますが、貧しい国では国民に十分に提供できないなど、がん問題は経済問題です。予防と検診に注力することが最も合理的です。

 1次予防、“がんにならない”ということでは、喫煙、食事、感染症が重要になります。20才以上の日本人の男性の喫煙率は、1965年当時、8割以上でした。だんだん減ってきて2004年に初めて50%を割り、現在は30%前後で、女性は8.2%。それでも欧米先進国に比べて倍で、これを半分に下げることが目標です。

 日本では、食品、添加物、食器、飲料水、空気、医薬品は法律で規制されていますが、たばこは個人の嗜好の問題とされ、法的な規制の対象にされていません。1904年のたばこ専売法、1984年のたばこ事業法の2つの法律に守られ、財政確保、産業振興の立場でたばこが作られ売られてきた背景があります。2009年のたばこ税の税収総額は2兆800億円で、厚生労働省がたばこ対策を進めようとすると、財務省、農水省が反対する構図が続いてきました。価格は上がりましたが、それでも欧米高所得国に比べまだまだ安い。1箱500円を超えると喫煙率は半減するが税収は変わらないという試算があり、最も効果的な方法は値段を上げることだと思います。

 がんの自然史と検診の関係です。Aという点でがんが発生します。がんという病気が怖いのはこの時何の症状もないことです。Bという検出可能時期を経て、何年か経ってCで、痰に血が混じる、お腹が痛いなど症状が出ます。この時、早期がんで見つかる人もいますが、進行がんの人もいます。そうなるとDで治療の限界に至り、Eで進行がんで亡くなる。がんが発生したAと症状が出るCまでの数年間にがんを発見して治療し、がんになっても死なないで済ませることが最も大事です。

 日本のがん検診受診率は大変低い。平成16年の国民生活基礎調査では胃がん、子宮がん、乳がん、肺がん、大腸がんのどれも15〜20%です。少しずつ上がってきていますが国の目標の50%には遠い状況です。

 乳がんが多い米国の40才以上の女性で過去2年間にマンモグラフィーを受けた人の割合は、1987年は25%と低かったのが、国を挙げて努力した結果、1996年に65%、現在は80%近くになり、乳がんで亡くなる人は減り始めています。日本で乳がんで亡くなる人が増え続ける背景にMMG検診受診率の差があると思います。

 OECD加盟諸国の子宮頸がん検診受診率では、米国が最高で83%、カナダ73%、韓国41%、メキシコ37%、我が国は最も低い受診率です。子宮頸がんには予防ワクチンと早期発見の手法があるのに、今、年間3000人を超す女性が亡くなっているのは大変残念なことです。

 日本対がん協会を紹介します。1958年(昭和33年)に“がん征圧を国民運動としよう”という主旨で設立され、今年60周年を迎えます。全国に支部を持ち、年間1100万人のがん検診を実施し、14000人のがんを発見しています。2010年に公益財団法人に移行し、2016年の寄附総額は3億8千万円です。がん知識の普及啓発、がん専門家の育成、がん基礎研究の支援、がん相談ホットライン、子どもに対するがん教育、さまざまな活動をしていますが、すべて寄附に根ざしており、寄附が増えればもっと貢献できますし、もっと国とがっちり手を組むと血の通ったがん対策が進むと思っています。

 60周年を迎えるにあたって、がん対策の原点であるたばこ対策を世界的な禁煙活動団体GlobalBridgesと連携し展開しています。がん検診については、2016年にがん検診研究部をつくり、これからの検診のあり方についての提言、特に高齢のがん患者に対する検診について研究しています。

 そして、がん患者・家族支援のために、2017年6月にがんサバイバー・クラブ(GSC)を設立しました。 日本では1975年から2008年までの間、がんになる人がずっと増えています。就労年齢が3割を占めることと、高齢者のがんがものすごく増えていることが日本の非常に大きな問題です。

 がんが比較的治るようになってきたため、働きながらがん治療を受ける人が増えてきましたが、実に残念なことに会社に勤める方の30%ががんと診断された時点で仕事を辞め、4%は解雇を受け、個人事業主は13%が廃業しています。それから、65歳以上の高齢の単独所帯が増え、老々介護の方も年々増えてきています。所帯構造の変化が進んでいる訳です。

 がんという病気に必ずしも十分な社会的対応ができておらず、共助・共生の社会が非常に大事になります。そこでがんサバイバークラブ(GSC)です。がん患者はがんと診断されると、なぜ自分だけががんに罹ったのかと嘆き、疎外感や孤立感に悩まされ、また治療中も再発の不安に怯えています。患者を孤立させてはいけないということが当クラブの最も重要なポイントです。

 日本対がん協会では、がんに一度でも罹った人のことを、治療中の人も治癒した人も含めて「がんサバイバー」と呼んでいます。がんサバイバーは現在約700万人で、予備軍まで含めれば遠からずその数は1000万人を越えるでしょう。仮にその一割の人が、GSCの会員になってくれれば100万人になり、文字通り「がんに負けない社会を目指した国民運動」になります。

 がんは誰でも罹る国民病です。しかし、玉石混合の情報があふれ、多くの患者はどうしたら信頼できる情報に辿りつけるか思い悩んでいます。GSCはがんサバイバーを孤立させないために最も信頼できる情報をワンストップで提供し、そして全面的に支援します。

 私は2月5日から、「全国縦断 がんサバイバー支援ウォーク」と題して全国がんセンター協議会加盟32施設を一筆描きのように歩く3500劼領垢暴个泙后6綵がんセンターをスタートし、最後7月23日に北海道がんセンターまで行く予定です。その間、がんサバイバーを支援することが大事であると体を張ってアピールしていきたいと思っています。

    ※2018年1月31日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。