卓話


経営者育成にかける想い

2019年7月17日(水)

一般社団法人日本能率協会
会長 中村正己君


 私が会長を務める 日本能率協会では、1982年から、経営幹部に向けた研修を行っており、これまで延べ1万5千人が受講しています。本日は私どもが経営者育成で大切にしていることについて話します。

 さて、経営を行うにあたり、まず必要となるのは、法務・財務・人材マネジメントといった知識や論理的・戦略的思考です。しかし、昨今のようにテクノロジーが日々進化し、国際情勢も不透明な環境においては、知識や経験に加え、変化を受け入れ変化から学び続けること、新しい価値を生み出すことが重要です。

 そう考えていくとこれから本当に必要となってくるのは「人間力」ではないでしょうか。言い換えれば、その人の「信念」をどう確立していくか、ということです。

 そのためには、「外からの良い刺激」と「新たな気付き」が重要です。私どもが提供する研修でも、さまざまな業種や経験をもつ方が一堂に会することで、刺激と気付きを得ていただくことに重点を置いています。さらに、何かを成し遂げてきたリーダーの方々の話を直接伺うことは、何ものにも代え難い貴重な経験になります。

 実は私自身も、こうした経営者育成の現場に携わることによって、偉大なリーダーと直接触れ合い、対話をする機会を多く得たことが、自分の財産となっています。

 15年ほど前になりますが、グローバル・ビジネスリーダー・コースを立ち上げました。世界で活躍できるリーダーを育成しようというプログラムで、日本だけでなく、アメリカ、ヨーロッパ、中国に赴き、現地のトップクラスのリーダーの講義を直接聞くというものでした。

 特に印象に残った方の言葉を3つあげさせていただきます。
 1人目は、今北純一氏の言葉です。今北氏はヨーロッパと日本を拠点に政府系機関や企業のコンサルティングをされていた方です。残念ながら昨年鬼籍に入られましたが、「欧州の視点から見る企業経営」という講義の中で、MVPという話をされました。

 Mは「ミッション」で、企業が挑戦すべき夢や目標、Vは「ビジョン」で、ミッションに至る具体的な道筋、Pは「パッション」で、夢や目標に向かって燃やす情熱です。経営者にはこの3つが備わっていることが大切だというお話でした。私は大変感銘を受けまして、以来、経営者としての私自身のベースになっています。

 2人目は、アメリカ合衆国の元運輸長官ノーマン・ヨシオ・ミネタ氏の言葉です。ミネタ氏は2001年の同時多発テロの際に、民間航空機の緊急着陸を決定、実行した方です。 ミネタ氏は意思決定の際、「What is the right thing to do?」(何が正しいのか)を常に自分に問い続けていたそうです。決断にはわずかでもグレーな部分があってはならない。リーダーは、物事が正しい方向に向かっているのか、常に確認する役割がある、そして、「決断したら絶対にぶれないこと」ということをおっしゃいました。「何が正しいのか問い続け、決断したらぶれない」この信念もまた、私自身の胸に、深く刻み込まれています。

 3人目は、コー円卓会議で知られるスイス・コーにある「Cauxマウンテンハウス」でCauxの精神を話してくださったノルウェーの社会活動家で著作家のイエンツ・ウィルヘルム氏の言葉です。

 大事なことは、社会を変えて欲しいと考えるのではなく、「自分だったら何ができるか、自分はどう変われるか」と考えること。「正直さ(absolute honesty)」「純粋さ(absolute purity)」「無私(absolute unselfishness)」「愛(absolute love)」という4つを体現することが人間のあるべき姿であるという言葉が大変印象的でした。

 昨今、経営者に社会的な責任を求める動きが強まっています。経営者は、組織を強くし利益を出していくことに加え、そこで働く従業員の成長を促すとともに社会に対し新たな価値を生み出していくことが求められます。 このような経営人材を育成してくことが私どもに課せられた責務だと考えております。


物流の現状と未来について

2019年7月17日(水)

日本通運(株)
代表取締役会長 渡邉健二


 「物流」は、私たちの生活や経済活動に組み込まれ、わが国の産業を支える社会インフラとなっています。東日本大震災の際にサプライチェーンが崩壊し、経済活動に深刻な影響を与えたことは、記憶に残っていると思います。「物流」を人間の身体に例えると、経済という血液をわが国の隅々に運ぶ『血流』の役割を果たしています。血管が詰まる・破れるようなことが起きれば、わが国の経済活動が停止する状況に陥りかねません。

 2年ほど前に社会問題となった「宅配クライシス」は、ネット通販の拡大に伴い荷物量が急激に増加する一方、ドライバーが足りず、荷物を受け付けられない状況となったものです。宅配便は、国内の貨物輸送量のうち1〜2%程度であり、ドライバー不足は物流全体ではさらに深刻です。若年労働力人口が増える見込みはない以上、人手不足は将来にわたり確実に継続します。

 「労働集約産業」である物流業界がこの問題を解決するには、思い切って発想を転換し、「人手は集まらない」ことを前提に成り立つ物流へと変革することが必要であると考えます。

 その観点から「先進技術の積極的な活用」、「物流版のシェアリング」についてお話しします。

 まず、「先進技術の積極的な活用」については、無人化・省人化の技術や人の負担を軽減する技術の活用が挙げられます。

 「トラックの自動運転化」、トラックの「隊列走行」の実用化があります。いずれ自動運転トラックが一般道を無人走行し、ドライバーが不要となる時代が来るでしょう。「ドローン」の活用、作業負荷を軽減する「ロボットスーツ」、倉庫では「無人倉庫」、「自動搬送ロボット」なども挙げられます。労働負荷を軽減することで、高齢者や女性を含め重労働を敬遠してきた人材が集まり、人手不足の解消が図れることを期待します。

 続いて「物流版のシェアリング」についてです。先進技術が実用化され、一般に普及するまでの間も人手不足は進みます。「シェアリング」の発想を取り入れ、既存のトラックやドライバーなどを最大限に活用するものです。

 「共同配送」は既に全国で展開しています。「貨客混載」もシェアリングの一つです。貨物を路線バスや旅客列車に載せて運ぶものです。人手不足により輸配送手段の確保が困難な地域では必要に迫られ、拡大すると思います。

 九州や仙台以北など比較的余裕のある新幹線を利用した「新幹線物流」を提案する方もいます。輸送コストを上乗せしても採算が取れる高付加価値商品の貨物など、ごく限定的に展開する余地があると思います。

 トラック輸送には、「営業用トラック」と「自家用トラック」の2種類があり、自家用トラックによる有償運送は原則認められていませんが、営業用トラックによる輸送手段を確保できない地域では、安全面などを担保したうえで自家用トラックを適切にシェアすれば、地域の生活を支える貴重な戦力となります。自動運転化が一般化するとともに安全面での懸念はなくなり、営業用/自家用を区分する必要がなくなる時代も遠くないと考えます。

 「無人化・省人化」が進むと、物流産業は、ヒトの力に依存した「労働集約産業」から、機械やシステムに置き換わる「装置産業」へと様変わりするでしょう。今のようにトラックを保有し、ドライバーを抱える会社が物流事業者とは言い切れなくなります。自動運転トラックをシステム上でコントロールする機能を有する者が、物流業界を席巻するかもしれません。物流が一つのプラットフォームのもとにシステム化され、遠隔操作で自動制御できるようになれば、日本企業ではなく、グローバルなシステム会社やプラットフォーマー、あるいは新たな勢力が生まれて、世界の物流が一手にコントロールされる時代が来る脅威すら感じます。

 物流の未来がどう変化し、どんな未来が待っているか期待してください。