卓話


スマートシティ プラス ヒューマンシティ

2021年3月31日(水)

(一財)日本経済研究所
理事長 柳 正憲君


 スマートシティは、現在国の重要な政策の一つとなっています。国交省による定義は「都市の抱える諸課題に対してICT等の新技術を活用しつつマネジメントを行い全体的成果が図れる持続可能な都市または地域」ということです。平成30年に発表された、国交省都市局による「スマートシティの実現に向けての中間報告」によれば多様な課題がありますが、私が特に注目したのは次の2点です。

 一つ目は、「地方都市における移動の足の確保」です。住民の生活活動(買い物や病院への通院等)から利用ニーズを把握しそれに応じた柔軟な対応サービスを提供する。

 二つ目は「観光拠点の魅力向上」です。中心部を歩いて回れるエリアとするため、駐車場等の施設の設置を再構築し、マイカーの流入を抑制し、歩行や自転車による移動を促進するためにエリア内の回遊や駐車場からの移動等に自動運転を導入する。

 一方、ヒューマンシティ、言い換えると、人にやさしい街作りについて話します。

 私の現職、日本経済研究所と前職の日本政策投資銀行が主催して、2018年4月に関東の鉄道4社、東武、京王、京成、相模の首脳の皆さんとイギリス、フランス、ドイツの3か国を訪問し、「街づくりと交通」の調査を行いました。私も当然参加しましたが、特に参考になった都市は、フランスのストラスブールとドイツのフライブルグでした。ストラスブールでは、ご当地勤務の日仏異文化マネジメントコンサルタントのヴァンソン藤井由美さんに事前レクチャーを受け、市内を案内してもらいました。なお、ご当人はかつて大阪外国語大学に在学中にロータリークラブ奨学生として、フランスに留学されている方です。

 ストラスブールは総人口約28万、近隣3市を合わせた経済圏では約50万人のアルザス地方の中心都市であり、欧州内ではEUの立法府が存在する国際都市です。

 同市では自家用車が普及した1980年以降に交通渋滞や大気汚染が社会問題化し、1989年に当選した女性市長のトロットマンさんが街を大変革しました。その二大変革が市街地のトランジットモール化とトラム、LRTの導入でした。

 それに伴い自動車の街への流入制限とトラム駅近隣の巨大な駐車場建設により、市民が街に来る時、トラムなど公共交通やパークアンドライド方式を活用 (これは車で郊外部の大型駐車場まで移動し、そこから公共交通に乗り都心にアクセスすることです。重点は駐車場行の料金と都心までの交通料金の合計が、車で都心まで侵入して駐車した時の駐車料金より安くしています)するようになり、更には歩行者優先のための歩行者優先スペースの拡充や総延長535キロに及ぶ自転車優先道路が建設されました。一般車を排除する一方、緊急車両やタクシーなど社会的なサービスを担う車や商品を搬入する車にはきちんと対処しています。

 フランスでは現在28都市でLRTが導入されています。
ここで皆さんにLRTを国交省の資料から説明します。LRTとはLight.Rail.Transitの略称で低床式車両の活用や軌道や停留所の改造により乗降の容易性、定時制、速達性、快適性の面で優れた特徴を有する次世代の軌道系交通システムであり近年道路交通を補完し、人と環境にやさしい公共交通として再評価されています。効果としては高齢化社会への寄与、更に子育て世代の移動を支援する手段です。

 一方、日本では昭和40年代の急速なモータリゼーションの進展に伴い、バスや地下鉄への転換が進み各地の路面電車が廃止された歴史があります。その結果全国で札幌から鹿児島まで17都市のみに路面電車が残存しています。

 一方、国交省では現在LRT導入政策により、地方公共団体向け交付金や事業者向け補助など、支援施策を拡充しています。このLRT整備の効果は5点です。
交通環境負荷の軽減
交通転換 自動車交通からLRT により道路交通の円滑化
移動のバリアフリー化
公共交通ネットワークの拡充
魅力ある都市と地域の再生

 現在本格的なLRTが導入されているのは富山市のみであり宇都宮市では現在建設中です。

 皆様ご存じの通り、近時の宇都宮市長選挙ではストラスブール同様にLRT導入の可否が争点となり推進派の現市長が当選しました。同市ではJR宇都宮駅東口から芳賀町の本田技研前までの15キロを優先建設部分とし、2022年3月に完成の予定であり工事費400億円強の二分の一を国が支援することになっています。

 高齢化が進むわが国では国の重要政策である、スマートシティ作りに加えLRT導入やパークアンドライド方式の導入により人にやさしい、安心安全な街作りが重要と考えています。


激甚化する自然災害とビル運営‐点から面へ-

2021年3月31日(水)

JPビルマネジメント
代表取締役社長 野村 洋君


 全世界で猛威を振るうコロナ禍や甚大な水害・土砂災害をもたらす「気象災害」の激甚化、頻発化。企業活動を停止させかねないリスクは日増しに高まっているように見えます。必ず起こる自然災害、乗り越えるために大切なことは何か、ビル運営の立場から考えます。

ビル防災の原点とコロナ対応
 ここ帝国ホテルでは、マスク越しの笑顔で迎えられ、手指消毒とストレスのない体温測定。廊下や洗面所は清潔に保たれ、頻繁な清掃、消毒の様子が伺われます。会場内はロータリアンが責任をもって感染対策。シームレスで理想的なコロナ対応と言えます。

 一般に、私たちビル運営者は、共用部を運営側、専用部をテナント側と分担し、連携した災害対策を目指します。両者の信頼と協力が重要です。その基本は、「消防法」に基づく「防火防災管理体制」。賃貸ビルは「共同防火防災管理協議会」を設置、テナントごとに「自衛消防隊」を組織し防災訓練や協議会をつうじて防災行動の理解と習熟を図ります。更に種々の施策を絡め、館内に「顔の見える関係」をつくる。こうした蓄積が、コロナ対策における迅速な機微情報の共有や感染拡大防止などにも活かされていると思います。

震災対策
 阪神淡路大震災を契機に、建物の構造や設備が見直され、ビル単体の耐震性向上が図られました。また東京都は、東日本大震災後、地震による被害想定を再検討。震度6強の地域が区部の約7割と広範囲になり、津波被害は小さいとする一方、交通機関途絶等により、都心では多くの帰宅困難者が出ると想定されています。帰宅よりもビル滞留が推奨され、千代田区など自治体とビル運営者が「防災協定」を締結、帰宅困難者を受入れることが、防災上の大きなポイントです。最新の大規模開発を背景にそれを「核」としたエリア防災へ。最近では、防災訓練をエリア全体で行う博多駅前のような事例もあります。

水害対策
 「水害」は、より広範囲に物事を考える必要があります。そもそも、かつての江戸は利根川や荒川はじめ何本もの川が江戸湾に注ぐ低湿地。江戸開府以来、新田開発、舟運、洪水対策などのため大掛かりな河川改修をしてきました。特に洪水対策は明治末から昭和初期にかけた荒川放水路(現荒川)開削や上流のダム建設など現在に至るまで延々と。それほど、東京は潜在的に水の危険がある地域です。そこに地下鉄や地下街も発達させてきました。

 2019年の台風19号は、かつて大災害をもたらした狩野川台風(1958年)に匹敵する過去最大級の台風。それでも首都東京が水浸しにならなかったのは、長期的・広域的な視野に立った「治水対策」、即ち、埼玉県春日部市の「首都圏外郭放水路」、埼玉県戸田市近辺にある「荒川第一調整池」などがフル稼働、荒川が貫く地域の洪水被害を食い止めた為と言われています。最近では、地球温暖化対策として、大規模な地下施設など脆弱性のある地域の対策強化が図られているそうですが、広域的治水対策の進展はビル防災上の重要な関心事です。

おわりに
 内閣府は、2018年3月の「防災経済コンソーシアム」において、災害発生後の事業継続について「公助には一定の限界があり、自助の促進が極めて重要」また「事業者が事業活動の中で、災害に対し経済的な観点からも事前に備えることが必要」と、災害リスクに対するリスクマネジメントを企業自ら準備するよう求めています。

 一方、規模も被害も時に人知を超える災害。その備えは「点」から「エリア」、「エリア」から「都市」という広がりの中、自助、共助、公助一体で考えるもの。東日本大震災では、余りに多くのことが同時多発的に起こり、人と人、企業と企業の協力なしに発災後の諸活動は困難だったと聞きます。そうした背景を踏まえると、ビル運営者としては、点から面のより広い範囲に「顔の見える関係」を再構築していくことが、プリミティブとはいえ、実は大切なのではないかと考えます。