卓話


企業と投資家の関わり方の大きな変化

2017年8月23日(水)

三菱UFJモルガン・スタンレー証券(株)
代表取締役副社長 中村春雄君


 2014年に発表された日本政府の“日本再興戦略 改訂版”において、日本企業がグローバル水準のROEを達成する為には、企業統治を強化する事が必要であると指摘されました。企業統治強化の為には(1)独立社外取締役の活用(2)株主との建設的な対話(3)株式の持ち合い解消の促進等が重要との考え方が示されました。

 2014年に金融庁を通じて、“責任ある機関投資家の行動原則”として日本版スチュワードシップコードが策定されました。これは機関投資家が、投資先企業に対して、建設的な対話を通じて、当該企業の企業価値向上や持続的成長を促すことで、機関投資家の顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図る為に有用と考えられる諸原則を定めたものです。また、このスチュワードシップコードと車の両輪をなすものとして、2015年にはコーポレートガバナンスコードが策定されました。これは、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を目的とした、上場企業の行動原則を定めたものです。

 これらの変革の背景にあるのは、日本企業の過去の平均ROEが6%前後と、欧米の平均ROEの半分以下となっており、また過去20年、日本の株式市場のパフォーマンスは欧米と比べて著しく劣っている為、日本の個人の資産形成の観点からも改善の必要があるという考えです。

 低いROEと低迷する株価パフォーマンスを改善するには、企業と投資家の両方が車の両輪として努力する必要があると政府は考えています。企業は、企業統治を強化し、事業の新陳代謝を促進し、事業ポートフォリオを絞り込むことで収益性を高め、加えて資本コストを意識した経営を行う事で、ROEを改善し、持続的な企業価値向上を図る責務を有しています。一方、機関投資家は、業界知見に磨きをかけ、企業分析能力を高め、投資先企業の企業価値向上に資する事業及び財務戦略に関する適切なアドバイスを行うなど企業と建設的な対話を持つことが求められています。

 最近、株主の行動にも変化が見られます。今年の株主総会では、会社提案の取締役選任に関して賛成比率が前年から大きく低下するケースも見られました。業績が低迷している企業に対して、株主および議決権行使助言会社の見方は厳しくなってきています。海外機関投資家のみならず、日本の大手資産運用会社、信託銀行及び生命保険会社も会社提案に対して反対票を投じるケースが増えています。

 現在の日本の上場企業の株主構成は、個人株主が15%、外国人が30%、都銀、地銀合わせて5%、信託銀行、生保、損保で25%、事業法人が20%前後となっています。1990年頃は外国人株主の割合が5%程度でしたが、この25年間、海外機関投資家が日本株への投資を増やしたことで、彼らの保有比率は30%に上昇しています。

 海外機関投資家の中には、株主提案を積極的に行う、所謂“物言う株主”も存在し、最近では彼らの動きが注目されつつあります。欧米では物言う株主(アクティビスト)が、資本市場において存在感を増しており、株主提案を取締役会に積極的に行い、その提案を公にして、その他の株主の賛同を得ようとするケースもあります。彼らの提案内容は主に(1)増配や自社株買いを求める(2)収益性の低い子会社や事業の売却を求める(3)彼らが推薦する取締役の選任を求めるなど多岐に亘ります。

 今後も企業統治改革や機関投資家に関する改革の流れが継続する中、日本の上場企業が、中長期的な視点から、競争力を強化し、稼ぐ力を向上し、持続的な成長と企業価値向上を達成し、その果実が国民に還元される好循環が期待されています。株主からのモニタリングが厳しくなる中、日本企業が投資家と建設的な対話を持ち、共創しながら、中長期的な成長を遂げていく事が重要です。企業と投資家との関係は新たな局面を迎えたと言えるでしょう。


個人の方の『お金』の行方は?

2017年8月23日(水)

(株)SMBC信託銀行
代表取締役社長 古川英俊君


 私は単身赴任が長かったので、個人的な課題が、「老後に向けて、家内との関係をどう構築していくか?」です。現在の職場が、フランスの銀行とアメリカの銀行の個人の方向けの資産運用ビジネスを継承しているので、『個人の方』とお話する機会が増えました。同世代から上の、所謂『人生の先輩方』も多く、「なるほど!」と頷いてしまう『お話』をよく頂戴します。曰く、「歳を取ると少し身体にガタが来ますから『ほどほどの健康』と、人によってレベル感は違いますが『ほどほどのお金』と、間違って仕事も加えそうですが『ほどほどの趣味』を夫婦で共有することが大切だよ。」と、お酒の席でもしみじみと教えて頂きます。また、「現役時代の上下関係を引きずり後輩に迷惑かけないように。また、空気のような存在と思っていた奥さんの、その空気の有り難さに早く気付くように。」というアドバイスも、お酒と供に五臓六腑に沁み込んで参ります。

 本日のテーマですが、家計の金融資産がマクロ的にどうなっているのか?調べてみました。日本銀行発表の『資金循環統計』によれば、家計の「金融資産」残高は、1980年に400兆円、90年に1,000兆円、2,000年に1,400兆円、昨年2016年は1,800兆円です。本当に凄い伸び率です。

 次に、家計の金融資産の中身についてですが、日本の家計では、現金・預金が少しずつ運用に回ってはいるものの50%強、債券が2%前後、投資信託が5%前後、株式・出資金が10%前後、保険・年金準備金が30%前後です。米国の家計では、現金・預金の比率から順に15%弱、5%強、10%強、35%強、30%強です。現預金の『運用』に大きな差があります。

 企業の海外展開が加速し、グローバル化が進むにつれて、海外進出企業数が増え、海外在留邦人数も増えています。企業人としてはグローバル化し経験値も上がっているのですが、個人としては海外勤務・海外出張から、一旦、日本に戻ると、ついつい日本中心、日本円中心、現金・預金安心みたいな感覚になってしまうようです。『貯蓄から投資へ』という機運の中、既に「NISA制度」が導入され、少しづつ流れが運用に向かっています。さらに、来年から「積立NISA」もスタートします。是非、盛り上げていきたいものです。

 次に、最近の傾向である、外貨預金はじめ外貨での運用についてお話します。外貨と聞くと、「毎日為替相場が変動し安定しない印象が強く、リスクがあって怖い。日本円は安全資産であり、日常生活を営むには円だけで十分だ。」という方も多いでしょう。確かに、外貨の為替リスクは存在しますが、円しか持たないことは円というひとつの資産に偏った投資をしている状態かも知れません。毎日食べている食品や日常の生活用品、エネルギー等々、ドル高になれば生活コストも上がります。長期投資の視点に立って、資産の一定割合を外貨建てで保有するという発想も一つの選択肢です。生活スタイルによっては、外貨を使う、外貨で決済するシーンも増えています。『ほどほどの趣味』ということで、ご夫婦での海外旅行、美術館ツアー・音楽会ツアーに行かれれば、老後に向けた夫婦関係の構築にも役立ちます。奥様との付き合いと一緒で、長期的視点で為替と付き合っていくのは如何でしょうか? 

 人生の先輩方は、「お金を殖やす」というよりも、「大切なお金を次に繋げたい」というお話をよくされます。「次に繋げる」とは、「子供に孫に」だけでなく、「今後の社会に」というお話です。散逸してしまう美術品や楽器の保護継承、芸術家や音楽家の育成などの芸術文化、そして医療・農業・IoT等の今後日本が先行できる成長分野、地方を活性化し日本を元気にする再興分野に、日本の未来を信じてお金を託せるような仕組みが必要です。例えば、公共セクターと民間セクターが其々の得意分野を持ち寄り、現代社会が抱える様々な社会的課題を解決する。地道にそういう努力を続けていくことが、国民生活の質的向上と社会的コストの適正化に繋がればと思います。公共サービスの資金を民間から調達する『ソーシャル・インパクト・ボンド』に、「個人の方の『お金』」が向かっていけば、社会の循環が素晴らしいものになるのではないでしょうか。