卓話


仮想通貨がもたらす未来

2018年5月30日(水)

(株)マネーパートナーズ
代表取締役社長 奥山泰全氏


 仮想通貨は一月末にコインチェックが事件を起こし、社会問題化しており皆様もご周知のことかと思います。それを受け、国内業者16社が集まり認定自主規制団体を目指す「日本仮想通貨交換業協会」が4月23日に発足し、その会長として私が選任されメディア等でも大分お騒がせしているところです。現在、金融庁管轄下で初めて、民間から立ち上がっていく認定自主規制団体が実現するかどうかの最中にあります。仮想通貨の未来を信じる人間として、金融の未来、また仮想通貨を取り巻く技術革新を推進すべく投資家保護と市場の信頼回復に向けて微力ながら尽力していきたいと思っているところです。

 そもそも仮想通貨はその言葉のために、「張りぼてなのでは」「どうも怪しい」というイメージがあり、「ただのマネーゲームだろう」と思う方もいらっしゃいますので、本日はなぜ仮想通貨が注目されているのか、本質的なところからご説明します。

 インターネット・ITは、1997年から日本で本格普及が始まりました。当時、ホームページはどの会社にもある訳ではなく、メールアドレスも会社に一つだけというような状況でしたが、インターネットはこの20年で劇的に普及し、携帯電話すらスマートフォンに代わり、現在ではインターネットにアクセスしない日はほとんどないというほど、私達の日常に根ざしたものになっています。

 これは一つの産業革命、シンギュラリティ(技術的特異点)です。エンジンが発明され奴隷制度が解放された18世紀後半に類しており、通信革命によって情報爆発が起き、私たちのライフスタイルは大きく変わってきました。

 現在は、IT2.0という新たな変革が騒がれているところです。インターネットにおけるここまでの20年が通信層の革命であるとするなら、その通信層の上にデータ層、いわゆるネットに情報が普通に置いておける時代、例えば、企業のサーバに入っているデータや個人のパソコンの中に置いてあるような画像データをネットに置いておける状況が普通になる時代とされるのがIT2.0です。ここからの10年、2030年には間違いなくそういう時代になっていくと予想され期待されています。

 インターネット上にデータを安全に置く場合、それを他人に見られないようカギをかけ、誰にも取られないよう暗号化し、分散します。また必要であればいつでも引き出すことができ、どれだけでも置いてくことが可能になります。

 話は変わりますが、モノの所有はどのように確証されるのでしょうか。例えば不動産、土地にはそれ自体に記名はされていません。所有の証明は国への登記であり、その証明が所有しているという確証となります。財産を所有しているという「証明」が、財産の所有を意味するということです。昔であれば権利書(書類)なのでしょうが、最近はコンピュータデータとしてデータベースに保存されていますので、モノにひもづく「データ自体」が財産を意味するということになります。

 銀行にある一億円の残高の現物を見たことはなくても、銀行のデータベースの中にその人が一億円持っているというデータ自体が記録されており、それが財産を証明していると捉えることができます。つまり、IT化、デジタル化が進むと、モノの所有、財産を示す確証はデータと同義であるという捉え方をすることができ、データこそが財産の証明、すなわち財産であると捉えることもできる訳です。そして、このデータをインターネット上で簡単にやりとりできるようになると、データ(財産)を交換手段や支払い手段そのものと考えることができるようになります。物々交換を行うように法定通貨ではない多様な価値観をネット上で簡単にやりとりできる時代がきてもおかしくない状況にあります。

 今後期待されているIT2.0の技術革新において、最も可能性を示した最初の成功事例がビットコインであり、IT2.0の基礎技術としてのパブリックブロックチェーンネットワークの先駆けなのです。18世紀後半、ジェームズ・ワットが石炭蒸気機関を発明したのと同じです。もちろんビットコインは金融という観点から見ると不足している機能も多々見受けられますが、これからもっと改良され、改善された良いものが次々に出てくると確信しています。

 IT2.0の基礎技術と期待されているのが先ほど申し上げたパブリックブロックチェーンです。データをインターネット上に預けられることをクラウドと言います。有名なものはアップル社、グーグル社のもので、こうした一企業によるインターネットのデータ預かりサービスをプライベート・クラウドといいます。一方で、パブリックブロックチェーン(公共データインフラ)とはインターネット上にデータを普通に置くことです。

 その公共データインフラを維持・利用していくうえで、その担い手への報酬や利用のためにかかる燃料代こそが「仮想通貨」であると考えるとわかりやすいかと思います。公共で利用できるデータインフラですが、運営・管理とそれを手伝う人にお礼を払う時、例えば、ロシアやカナダなど様々な国を跨いだ担い手に報酬を支払っていくには法定通貨ではない共通の価値観で支払う方が便利です。また、仮想通貨を手にすることによって、その公共データインフラを利用することができるわけです。いわばエンジンに対する石炭やガソリンに類する燃料が仮想通貨であり、それら燃料の価格が仮想通貨の価格であると捉えることができます。これからのデータインフラを使うための切符が仮想通貨だということです。

 足元では仮想通貨のそういった本質とはかけはなれたマネーゲームが世間を賑わせ、その中で大規模流出という事件が起こり社会問題化しており、仮想通貨に詳しくない方から見れば危なっかしい投機であり安全でないものという印象があるのはとても残念な状況です。

 仮想通貨は、世界的には「クリプトカレンシー」と表現されています。クリプトは、秘密裏の、暗号の、を意味し、カレンシーは通貨です。日本では当初「バーチャルカレンシー」と表現して普及してしまったため、ずっと「仮想通貨」と言われていますが、世界的には「クリプトカレンシー」が正しい表現です。ですから、海外でバーチャルカレンシーと言ってしまうとちょっと恥ずかしい思いをすることになります。

 ですので「暗号貨幣」が誤解のない正しい認識に近い表現になります。データを発展させたデジタルマネーの一種です。ネット上で展開される様々なデータのネットワーク、例えば自動車の経路情報、お誕生日会の資金集め、有価証券、不動産の登記情報など今後様々な用途に対して様々なデータネットワークがネット上に立ち上がっていくことが予想されます。そのデータインフラ毎に、そのデータインフラの燃料である仮想通貨があり、それらと現実社会の法定通貨、円やドル、ユーロ等との橋渡しをするのが「仮想通貨交換業者」ということになります。

 公共データインフラのそういった対象毎のネットワーク・コミュニティ内でのデータのやり取りや利用をしたいならば、利用するための仮想通貨を取得し、利用することになります。また、データインフラ作業を担ったり交換によって手に入れた仮想通貨を現実社会に戻したい時は、交換業者を通じて法定通貨に戻し現金化することになります。海外に行った時に日本円を両替で外貨にするのと同じです。仮想通貨交換業者は決して博打の胴元ではありません。直近の仮想通貨は本質的な役割ではなく、マネーゲーム的、投機的な様相が強い状況であり交換業者の協会を預かる者として非常に不本意で、情けないと思っているところです。

 私はデジタルマネーの未来、データインフラの未来を確信しております。仮想通貨は、来るデジタルソリューション、すなわちデータが普通にパブリックインフラ上に置かれていく時代の中で必要なものなのです。今後、インターネットの通信層の上に、「データ・情報の層」が載っていく時代になる中で、仮想通貨はパブリックデータインフラを担う燃料であり、不可欠のものだと思っています。

 ここで、最近の仮想通貨の周りのバズワードを2つ紹介します。

1つがdecentralized。centralized、一極集中、中央集権化の逆の意味です。インターネットによる情報爆発以降、デジタル社会に起きていることを象徴する言葉です。decentralizedは、非中央集権化、非一極集中化、つまり、多様化、分散化を意味しています。デジタル化が進むにつれ、多様な価値観や個々のオリジナリティがより一層許容され活かされていく、そういう時代の方向性を象徴する言葉です。これを実現してきたのもインターネットですし、今後お話ししたデータ革命が進む中で、よりこの流れは加速していくことと思います。

 もう一つのキーワードは、trustlessです。「信用すると言うまでもなく信用できる」という意味です。ブロックチェーン技術や今後のデジタル社会が目指すのは、信頼できるかできないかと考えなくとも普通に情報のやりとりや財産管理ができる時代です。ビットコインやブロックチェーンの開発者達はtrustlessなデータ・送金ネットワーク、財産管理ネットワークの構築を理想として取り組んでいます。

 短い説明でしたが仮想通貨の概略をおわかりいただけたでしょうか。今後のデジタル化がより一層進んでいく流れの中で、公共のデータインフラは必須のものであり、その燃料としての仮想通貨は当然必須のものとなっていきます。

 コンピュータ、インターネット利用の劇的な革命がここから10年、20年の間に起きる時に、ブロックチェーン技術はエンジンの発明にも似た、産業革命的なシンギュラリティですし、その燃料、いわば血液が仮想通貨なのです。そういう仮想通貨を安心してご利用いただける、一般に普及する状況をどう作り出すか。私ども交換業者全社が考えなければいけない大きな今後の使命であり、課題であると思っています。


     ※2018年5月30日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。