卓話


異常気象について

2022年9月14日(水)

元気象庁長官
MS&ADインターリスク総研(株)
顧問 関田康雄氏


 異常気象とは、実は明確な定義はありません。ウィキペディアを見ると、「異常高温・大雨・日照不足・冷夏などの通常とは異なる気象の総称」と書いてあり、実感に合うと思いますが、気象庁の定義は、「ある場所(地域)・ある時期(週・月・季節)において30 年間に1 回以下の頻度で発生する現象」としています。ポイントは30年に1回ぐらいのものだということと、場所や地域、時期を一定程度の広がりをもって考えているということです。

 最近、「異常気象が増えている」という感想を聞くことが多いのですが、それは本当でしょうか。30年に1回という定義がありますから、長期的には異常気象発生の頻度が増えたり減ったりはしないはずです。判断基準に用いるデータの期間は現在、1991年〜2020年の30年間で、これは10年ごとに更新しますが、この期間の気候と現在の気候が変化している場合は、異常気象と判断する現象が増加することはあり得ます。

 一方で、気候変動が進めば、それまで異常気象と判定されていた現象が、10年毎に行われる判定基準の変更により、異常気象でなくなっていくこともあります。

 異常気象と判定される数は増えているのでしょうか。
 年ごとに、年平均気温がかなり高い、または低いとなった地域の数、年降水量がかなり多い、またはかなり少ないとなった地域数を示したものがあります。かなり高い・多い、かなり低い・少ないは、それぞれ上位10%、下位10%にあたるため、10年に1回の事象に相当します。

 年平均気温は、全国12地域、年降水量は全国17地域の中での数のため、気候が変化していなければ、年平均気温は平均で1年あたり1.2地域、年降水量は1.7地域が該当するはずですが、2011年〜2020年の10年間の平均を見ると、年平均気温はかなり高いが4.6あるのに対し、かなり低いは一度もなく、年降水量は、かなり多いが3.2でかなり少ないが0.5と、いずれもグラフの中心(平年値)がシフトしていることが推定されます。この結果を踏まえれば、最近異常気象が増えている気がするという感覚はあながち間違いではありません。

 令和以降、気象庁の異常気象分析検討会において対象となった事例から2つを詳しく見てみます。
 1つ目は、令和2年7月の大雨と日照不足です。線状降水帯の発生によって熊本県の球磨川が氾濫し大きな災害となり、それだけでなく、北海道と南西諸島を除き、全国的に雨が多く日照不足となりました。

 降水量では、平年比300%以上という地域があります。7月の月降水量は、東北地方、東日本の太平洋側、西日本の日本海側、太平洋側で歴代1位、東日本の日本海側でも歴代4位です。

 次に、日照時間は、関東などでは平年比で40%以下という地域があります。7月の月間の日照時間は、先の5地域で最も少ない年となりました。

 2つ目は、今年の6月下旬の記録的な高温です。平均気温の平年差を見ると、北日本、東日本、西日本のいずれも6月下旬から7月上旬にかけて、平年よりかなり高い気温となっています。特に、東日本の6月下旬は歴代1位で、平年より4℃も高かったのです。

 猛暑日となった地点数を積算したグラフを見ると、例年であれば猛暑日がまだほとんどない6月下旬に急速に増加し、7月初めには既に1000回を超えています。その後は一時停滞しますが、7月下旬から再び増加しています。

 今年を遥かに上回る数の猛暑日が発生したのが2018年です。7月上旬までは今年が上回っていますが、中旬から一気に増加して今年を抜き去り、8月以降は今年を大きく上回るペースとなっています。大変な暑さだったと記憶しており、これは異常気象と言っていいと思います。

 線状降水帯は最近の大雨災害で主な要因になることが多い現象ですが、それ自体が異常気象ということではありません。

 線状降水帯の発生する仕組みを説明します。
 まず高度1kmの低層に暖かく湿った空気が流入します。この空気が、大気の状態が不安定な中で、前線などの風がぶつかる効果、あるいは山岳などの地形の効果で上昇することで、積乱雲が発達します。積乱雲は上空の風によって風下に流されていきますが、湿った空気の流入が続くことで、同じような場所でその後も次々と積乱雲が発生し、その結果、積乱雲が一列に並ぶようになります。これが線状降水帯です。

 線状降水帯ができると、数時間、場合によっては10時間以上、同じ場所で強い雨が続くため、災害の危険性が高まります。

 線状降水帯という言葉がマスコミ等で取り上げられるようになったのは、平成26年8月に発生した大雨による広島の土砂災害からです。以降、毎年のように線状降水帯によって大雨災害が発生しています。

 令和2年7月豪雨では球磨川が氾濫し大きな災害となり、以降、線状降水帯の予測精度の向上が国家的課題となりました。

 この災害では、政府の非常災害対策本部会議が開催され、当時の安倍総理、菅官房長官、武田防災担当大臣などが出席されました。当時気象庁長官だった私は、球磨川氾濫後も、日本列島のどこかで大雨という日が続いたため、災害当日から15日連続で総理官邸に通い、災対本部会議にも出席し気象状況を説明しました。

 線状降水帯は、現在の技術では、その発生を十分な精度で予測できないことが課題です。現象のスケールが、台風、低気圧に比べて小さいことが主な原因です。

 線状降水帯を精度よく予測するためには、まず、低層での水蒸気流入を観測で確実に把握することが重要となります。多くの場合、水蒸気は海から流入するため、海上の水蒸気量を正確に掴むことが必要となりますが、海上は観測点が少ないため、観測船や測量船に水蒸気量を観測できる装置を積んで行っているところです。

 水蒸気量の観測で最も期待できるものが、気象衛星です。現在の気象衛星ひまわりは、残念なことに面的な観測のみで立体的観測ができないため、上中層の水蒸気にマスクされ、下層の水蒸気量を見積もることが出来ません。

 実は今、サウンダと呼ばれる新しい衛星用センサーが開発されており、これがあれば上層から下層の水蒸気量を立体的に連続的に観測できます。まだ予算要求の段階ですが、気象庁はサウンダを次期気象衛星に搭載したいと考えています。

 これらの観測データから現象を予測するためには、より詳細な計算が必要となり、コンピュータの計算速度向上も不可欠です。

 最後に地球温暖化と異常気象の関係について考えてみます。
 大気中の温室効果ガスの濃度は増加を続けています。国内3か所で観測された二酸化炭素濃度を見ると、年周変化を伴いながら、ほぼ一定の速度で増加していることがわかります。

 日本の年平均気温は長期的に上昇しています。上昇の割合は、100年当たり1.28℃で、世界の平均気温の上昇率100年当たり0.73℃に比べ、かなり大きくなっています。

 日本の年降水量は、有意な長期的変化傾向は見られていません。一方で、日降水量200mm以上の大雨や1時間降水量50mm以上の短時間強雨など災害に結び付くようなものは増加傾向が見られます。

 一般に地球温暖化が進むと、大雨、短時間強雨、猛暑あるいは逆に少雨、日照不足といった極端な現象が増加する傾向があります。

 従来、個別の事象について、地球温暖化が与える影響の程度を見積もるのは困難でしたが、最近、「イベント・アトリビューション」によってそれが可能となりました。

 イベント・アトリビューションとは、地球温暖化が進行している現実の気候と、地球温暖化が起きていない仮想の気候の両方を計算機上に再現し、それぞれ数値実験を行うことで、個々の現象に対する地球温暖化の影響を見積もるものです。

 地球温暖化が降水量をどれだけ増加させたかを見積もった結果があります。1つ目が平成30年7月豪雨で、2つ目がその翌年の令和元年東日本台風です。7月豪雨で6.7%、東日本台風では10.9%、温暖化によって降水量が増加したことが示されています。

 そして、猛暑日発生数で断トツの結果となった2018年の猛暑についての結果を見ると、劇的です。もし地球温暖化が起きていなかったとしたら、あの猛暑は起こりえなかったという結果となりました。

 近年の異常気象に少なからず地球温暖化が影響していることは明らかです。さらに恐ろしいことは、このまま地球温暖化が進むと、今異常気象としている現象が普通の現象になってしまうことに止まらず、場合によっては反対の異常気象になるかもしれません。

 地球温暖化に対する緩和策を仮に現状以上に講じなければ、それによって温暖化が進んだ世界では、今は猛暑、異常高温と認識されている平成30年の夏が、逆に記録的な冷夏となる可能性があるのです。恐ろしい話ですが、そういった研究成果も出ています。

 このような事態を避けるため我々自身にも出来ることがあります。それは、菅前総理が掲げた2050年カーボンニュートラルの目標に向けた対応の実践です。

 最後に少し宣伝をさせていただくと、それぞれの企業においてカーボンニュートラルに向けて実際に何をしたら良いかわからないという方に向けて、弊社と三井住友海上、あいおいニッセイ同和との連携で、「カーボンニュートラルサポート」というサービスを行っています。ご興味がある方はご一報いただければと思います。


     ※2022年9月14日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。