卓話


3Dプリンターは、日本のものづくりを変えられるか?

2016年7月13日(水)

(株)アスペクト 
代表取締役 早野誠治氏


 今日は、3Dプリンターとは何かを紐解きながら、解説します。
 人類最初のものづくりは、削って始まりました。黒曜石を削り、もしくは欠いてナイフや矢じりを作りました。現代はマシニングセンターで削ります。これは切削加工といい、マイナス加工になります。次に17世紀の大量生産時代に生まれたものづくり法は、変形させる方法で、金型に材料を入れて作る射出成形とプレス加工があります。

 3Dプリンターによるものづくりは、プラス加工になります。これは人類3番目、やっと得た方法です。原点は1980年、児玉秀男氏の研究です。彼は、三次元CADで入力された形状データを元に、テーブルの上に光が当たると固まる光硬化性樹脂を載せ、紫外線ランプを点けて固めることを繰り返し、立体を作りました。これで家を作り、特許出願しました。これが世界で最初の3Dプリンタターによるものづくりです。これにプラスアルファし、コンピューターのデータを元に作ることが、現在の3Dプリンターの概念になります。

 名称は、日本では1985年当時は光造形法とされ、積層造形法という言葉に変化し、現在は付加製造法と呼んでいます。海外では、Rapid Prototypingが原点です。「すぐ試作品がほしい」という意味です。次にRapid Manufacturingで「製品がすぐほしい」、加工論としてAdditive FabricationとAdditive Manufacturing、この4つの言葉が同時に使われていました。2009年のASTM国際標準化会議で、Additive Manufacturing(AM)に決定しました。定義は、コンピューター上のデータを元に材料を積層してものを作る方法です。

 そうしている間に、オバマ大統領が2013年の一般教書演説の中で「3Dプリンター」という言葉を使い、名称の一つとして追認され、AMというより3Dプリンターと言ったほうが一般的にわかることもあり、そう呼ぶようになっています。

 AM技術は7つに分類されます。 ̄嫣絽重合、▲掘璽叛兪悄↓7觜膾淙射、ず猯漸―弌↓ズ猯訴射、κ緩床溶融結合、Щ惴性エネルギー堆積があります。これらは材料によって変わります。

 例えば、皆さんがご存じの3Dプリンターは材料押出タイプです。フィラメント状になった材料を先端まで引っ張ってきて、溶かして置いていくものです。

 材料噴射は、ワックスを溶かしてインクジェットで落とすタイプで、これは鋳造のパターンに使えます。光硬化性樹脂を使うと、とても精密なものができ、しかもカラーにもなります。しかし、光硬化性樹脂のため最終製品には使えません。

 私どもがやっている粉末床溶融結合は、粉末樹脂や粉末金属をレーザーで溶かし固めるものです。1台5000万円が最低価格で、高くなると2億、3億円という装置になります。

 指向性エネルギー堆積は、レーザーで金属を溶かし、溶けた箇所に金属粉末を供給して立体を作る方法です。アメリカ国防省がほとんどの軍艦に入れています。要は大砲の弾が当たって穴が空いたら修理して戦争を継続するためのものです。

 3Dプリンターは、材料面では液体、固体さまざまな種類があり、それに合わせて14種類の技術が存在しており、コールドスプレイ技術だけが実用化されていません。それ以外は装置として販売されています。

 工業製品での用途はほとんどが試作(Rapid Prototyping)ですが、若干変わりつつあり、特殊金型、金属製品・部品や、従来製品の軽量化を目的とした肉抜きや一体造形のために使われるようになっています。従来品が軽量化されれば、飛行機、車、ロケット等で効率的です。エアバス社は、自然界のものを設計に生かす考え方であるバイオニック・デザインを採用し、次期の車や乗物に利用していこうとしていますし、GEはボーイング747とエアバス320neoの燃料の噴射ノズルを製造するため、400台の3Dプリンターを購入し、工場もオープンしました。

 金型では、従来では水管がとぐろを巻いて配置された構造の金型は造れませんでしたが、3Dプリンターで一体化して造れるようになっています。

 アミューズメント、デザイン、宝飾・美容、食品、医療などの分野でも応用されています。例えば、ギターでは、色だけではなく、好きな形状、内部構造を自由自在に好きなものを選んで造れます。他の楽器も同様です。服飾ではオートクチュールの世界に入り込み、ランプシェード、イス、究極の自分だけの車、万年筆やジュエリーが作れますし、ネイル、チョコレートプリント等もあります。

 医療分野では、心臓模型などに応用され実用化されています。カスタマイゼーションの代表例はシーメンスの補聴器です。オーダーメイド補聴器は、昔は40〜50万円したのが、今は10万円位まで下がりました。儲かるため、多くの企業が参入し、3年前の段階で、ヨーロッパだけで1000万人を超えるユーザー数になっています。

 歯列矯正は、現在は透明なマウスピースを使います。発明したのは日系3世の杉山先生で、この事業が開始されて12年、現在2000万人を超える患者数になっています。歯列矯正は100万円〜120万円かかりますから、市場規模は相当なものです。口内にセンサーを投入してデータを取って、マウスピースを作ります。インビザラインシステムといい1台800万円で、全米の歯科医が導入しています。

 次に、AM技術の潮流についてお話しします。第一の潮流は3Dプリンターです。安価な材料押出法を用いた50万円を切る廉価版が登場しました。販売台数もどんどん伸びるかと思われたのですが、少し頭打ちです。個人向けの3Dプリンターは、全世界で300社以上のメーカーが登場し、600種以上のプリンターが存在し、価格競争に突入しました。32社が3年間でようやく売り上げ1000万円を達成しましたが、これでは食べていけません。

 第二は、光造形樹脂の活用です。この業界は光造形樹脂を中心につくられましたが、試作用からマイクロマシンの研究開発やセラミックへの応用等、新材料へのシフトが起きています。

 第三は、金属AM技術です。ドイツのFraunhofer Institutionを中心とした研究開発が花を咲かせ、材料も増え市場も拡大しています。装置販売も伸びていますが、やや打ち止めになってきた印象です。

 第四はスーパーエンプラへの移行です。今まで材料となる樹脂は汎用エンプラ止まりでしたが、宇宙へのチャレンジを視野に入れ、高耐熱温度の新材料へのシフトが始まっています。

 そして、第五の潮流は、ブームの終焉、バブルは終わったということです。2013年にオバマ大統領が3Dプリンターという言葉を使った当時、アメリカの金融緩和策が終了しブラジルやインドから資金が米国に還流し、バブルが起きました。「第二のパソコンブームが来てもおかしくない」とどんどん新しいマシンが投入され、クラウドファンディングも後押しし、メーカーも増えました。しかし、期待されたブームは来ませんでした。3次元CADに立体データを入力できる人材が少ないからです。この文化を変えない限りは、第二のパソコンブームは来ません。

 2015〜16年になり、廉価版3Dプリンターバブルは沈静化しました。アメリカでは、3DSysmems社とStaratasys社が2大巨頭ですが、それぞれM&Aにかなりの金額を投入しました。その後、バブルが崩壊して株価が大幅下落し、過度の買収投資が経営を圧迫する状況になっています。

 3Dプリンターのハイエンドについては、技術レベルが向上し新材料も登場して安定したビジネスを獲得しています。企業向けAM装置の販売台数は、リーマンショック後も伸びましたが、2015年に2.3%下落しています。その理由は、3D Sysmems社とStaratasys社のマイナス成長によるものです。

 一方で、試作用途という市場が成熟し、最終製品を作る方向にシフトし始めています。去年の市場規模は5700億円で、うちAM装置・材料・保守の売り上げが2600億円、サービスビューローと呼ぶ受託製造グループの売り上げが3080億円位で、市場はまだ小さいものです。

 装置市場は約1700億円でした。金属マシンは1台1億円以上で、それが去年だけで800台売れています。樹脂マシンもあり、その2つで市場の5割以上を占めます。私どもの目指す技術は最終製品を作る分野です。市場の売り上げもそちらにシフトし始めています。

 AM市場規模が1000億円に到達するまでに約20年かかりました。2020年で1兆円規模と見られていましたが、現在の予想は2.65兆円です。ここに含まれるのは、装置、材料、保守、それからサービスビューローです。これにアプリケーション、補聴器等を入れると2016年の段階で3.2兆円と言われており、今後も期待できると思います。

 最後に申し上げておかないといけませんのは、3Dプリンターの都市伝説です。「3Dプリンターは何でも簡単に作れる、早く、安く作れる、従来のものづくりを変える」とマスコミが報道していますが、真っ赤な嘘です。従来のものづくりは重要な技術であり、射出成形、金型などは3Dプリンターで代替できないと思います。しかし、3Dプリンターは今までにできなかったものが作れるのです。それによって新しい用途を生み、それが新しい文化を形成します。そういった中で新しい技術が生まれてくると信じています。


     ※2016年7月13日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。