卓話


弓道から学ぶビジネスヒントとは

2021年10月13日(水)

ゴディバ ジャパン(株)
代表取締役社長 ジェローム・シュシャン氏


 私は30年前、日本に来日して弓道を始めました。
 弓道は的に向かって当てなければならないというポイントがあり、ビジネスも必ず数字を出さなければなりません。その目的、どうやって狙うのか、どうやって当てるのか、自然に弓道とビジネスの共通点を見つけました。今日はそのいろいろなヒントを説明したいと思います。

 弓道と西洋のアーチェリーは本来の目的が違います。弓道は武道であり人生形成の道ですが、アーチェリーは(シンプルに)スポーツと思っていますので、ミッションは全然違うものとして理解しています。

 最近、各企業でミッションというキーワードが出ています。ミッションはとても大事です。私の弓道はどちらかというと不器用です。弓道の審査に何回も失敗してもうやめようかと思ったときに、じゃあどうしてやるのか、自分で自分の性格について徐々に学んでいきました。より強くなるためのものなので、審査を受け失敗することに関係なく続けようとなりました。

 ゴディバ ジャパンのミッションは、「お客さまにハピネスをお届けする」です。我々はお客様に幸せの時を、幸せのオケージョン(場)に届けるために様々なチョコレートやアイスクリーム、焼き菓子を開発して提供しています。これは、社員にとって大事なミッションです。社員は売上を伸ばすことはモチベーションになりません。社会に対してスマイル、ハピネスを届けることになるとモチベーションが上がります。ですから我々はミッションをとても大事にしています。

 私は、弓道の「正射必中」という言葉に一番感銘を受けました。正しい射を行えば、必ず当たるという意味です。それはとても簡単に見えますが、すごく奥深い。狙う気持ちではなく、まずは正しい射を考える。そして、弓道で決められた形に集中して射れば当たるという意味です。

 感動したのは、ビジネスも同じだからです。売上だけを考えていると的に当たりませんが、正しいマネジメントをすると当たるのです。私のオフィスにはこの4文字が書かれた掛け軸があります。売上が上がったり下がったりしたときに必ず見て、的ばかりに気をとられないようにしています。

 ゴディバ ジャパンのビジネスとして表現すると、先ほど言ったように、売り上げは結果であり目的ではありません。まずは美味しい商品を作る。そして販売チャネルもしっかりとしたものにする。サービスはトレーニングしてしっかりしたものを提供する。それから皆さんに知られるようキャンペーンやプロモーションを行う。これらは我々の正射で、無限です。売り上げは目的ではなく、正しい姿勢の結果です、とこうしたキーワードを使っています。そうすると、社員も売り上げのプレッシャーはなく、正しいことをお客様のためにやろうという気持ちになり、もっといいアイディアが生まれてきます。こうして7年間で、お陰様で売り上げが3倍になりました。

 1年あたり15%増にするなどの予算は立てていません。社内に示した売上目標は年2〜3%増でした。みんな正射で一生懸命お客様のためにやってきた結果です。もし最初から来年2桁以上伸ばしましょうと言っていたら誰もついてこないと思います。英語で言えば、TARGET your Customersです。アーチェリーにはTARGET、aim(狙う)などの言葉があり、ビジネスで経営者はどうしても利益、売上を狙いたくなりますが、実はそうではなくて、お客様の心を狙えばいい。お客様の心を掴まえれば間違いなく売上も利益も出てくるのです。

 弓道の動作では、「会」(充分に矢を引き収め発射のタイミングを熟すのを待つ状態)から「離れ」(矢を放つ状態)にいきます。良い離れとは、無理やり当たるのではなくて、自分の体と精神をしっかり伸ばし、その結果、知らないうちに無意識で当たること。「当てるではなく当たる」です。

 ゴディバ ジャパンが売上を伸ばしたときはやはり急にそうなりました。研究から開発、販売まで全部一生懸命にやっていたら、知らないうちにベストセラーになったのです。これは計算できないことでした。一生懸命、体を伸ばして精神を伸ばして当たるということはビジネスでもあるのです。

 我々ゴディバ ジャパンのビジネスモデルは、「Aspirational & Accessible(憧れだけど身近な)」。プレミアムなイメージがありながら、百貨店、ショッピングモール、コンビニ、オンライン、様々なチャネルで販売しています。他の業界を見ると、ラグジュアリーブランドは全国50店舗等と限られたチャネルだけになっています。大きなお菓子メーカーは何万カ所も販売する場がありますが、なかなかプレミアムなイメージはできません。ゴディバは憧れと身近という両方をできた。これは独自の戦略で特別なモデルです。弓道に「頭で引くのではなく体で引く」という言葉があるように、このビジネスモデルはマーケティングうんぬんではなく、もう両方できるよということなのです。

 「一射一射」、この言葉も弓道に学びました。前の成功を忘れ、いつも新しい気持ちで射るという意味です。とても大事なことで、私のチームにも「毎年新しいことをしてください」と言います。社員は去年成功したことをリピートしがちですが、一射一射、ゼロから作るようにしてもらいます。

 数年前のバレンタインの時にチームから出てきたのは、ゴディバの定番のゴールドボックスのデザインや売り場を少し変えるという提案でした。そのため、一射一射でやってくださいと言うと、全く異なるデザインのゴールドボックスになりすごく当たりました。百貨店のバイヤーにも「ゴディバは思い切ってやってよかった。もし以前と同じことをやっていたらそんなに感動しなかった」と言われました。一射一射は、ビジネスでもとても大切だと思います。

 「完璧の射はない」。これも弓道で学んだことです。アーチェリーは的の真ん中に当たれば完璧の射と言いますが、弓道の場合はいくら当たっても体の姿勢、離れの強さ、見ているお客様に響く深さなどリミットがありません。西洋の場合は結果が100%ですが、日本の文化、武道、弓道は当たっても、またもっともっといいものがあるという考え方なのです。

 ビジネスの世界では、皆さん失敗したくないため100%完璧を目指します。でもそうするとスピードは出てこない、いいものも出てこない。特に今の時代に完璧の射はないと、我々ゴディバ ジャパンではキーワードを「GODIVA 72% RULE TEST / LEARN /SCALEやってみよう!」としました。

 ゴディバの商品・ダークチョコレート72%になぞらえ、「別に100%でなくても72%で十分、それでやってみよう」という気持ちが大事だと社内のミーティングで話しました。まずはTESTして、それで学んで(LEARN)、いいものが見つかったら大きいSCALEで開く。我々はそういうスピードでいろいろやっています。

 ところで最近、SDGsやB corporation、ESGなど、企業の目的は数字だけではなくて社会や人のためだといった話題が世界各国から出てきていますが、渋沢栄一の『論語と算盤』にあるように、経済の目的、道徳、経済の正射などがもっと古くから日本に価値観としてあります。渋沢栄一さんが「美徳と経済のハーモニー」と言ったように正しいことは結果だけではありません。

 「政者正也」と孔子の論語にあります。統治することは正しいこと。政がキーポイントです。的は後でついていきます。最近中国でも渋沢栄一さんが結構人気で、コロナ前に中国の人が、中国では文化革命でいろいろな文化がなくなったので日本に残っているものを勉強したいと日本に来ていました。これから日本も世界に向けて、日本の価値観をアピールできると思います。

 私は20代の時に日本に来てビジネスマンをしながら弓道を勉強しました。その時、弓道とビジネスは全く別のものでした。2005年にリヤドロジャパンの社長になり、急に売り上げのプレッシャーと経営の責任感が生まれ、的へ向かうときに体と心が落ち着くので徐々に弓道とビジネスが一緒になりました。そして、『ターゲット ゴディバはなぜ売上2倍を5年間で達成したのか?』という本を書きました。

 最近、もう一冊『働くことを楽しもう』を出しました。日本人と他の国民を見ると、日本人は世界一真面目だと思います。でも、真面目さと明るさにはギャップがあるので、一生懸命やりながら楽しむことができないかなあと思います。私が一生懸命、体に力を入れて弓道をやっていると、「もうちょっと遊びの弓、楽しい弓をやってください」と言われました。一生懸命では硬くなり、楽しくもない。だから楽しい弓をやってくださいと。ですから、今後も特に若い世代が仕事を楽しみながら正射して、それによってお客様が喜び、最後は会社の売上と利益が良くなるように、日本人は一生懸命と同時に、明るく、楽しみましょう。

 数年前、広告代理店から広告の提案がありました。でも、その映像にはゴディバの商品が全く出てこないのです。商品がないと売り上げに繋がらないのではと思いながらも会社のミッションを思い出し、まずはお客様の気持ちを伝えようと思い、この広告を出すことにしました。東京の40組のカップルにファーストキスの思い出を振り返ってもらったものです。とてもキュートな映像で、毎日できるだけ多くの方にハピネスを届けたいという我々ゴディバ ジャパンのミッションをとてもよく表現していると思います。今日はありがとうございました。


    ※2021年10月13日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたもので