卓話


 ’05年の日本の政治 

12月8日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

毎日新聞社 役員待遇特別編集委員
 岸井 成格 氏  

第4035回例会 

 アメリカ大統領選挙,パルージャ総攻撃,日中・日朝実務者協議など,これらがすべて政局に影響していると思いますが,国会が終わって,小泉続投,任期一杯小泉政権安泰という見方が出てきています。 

 そういう見方が出る理由の一つはやっぱり,ブッシュさんが大統領選で再選されたということです。小泉さんに攻撃をしかけようとする側の最大の期待は,ブッシュさんが負けるということでした。ケリーさんになっても対日関係やイラク政策がそれほと大きく変わるとは思いませんが,政局的には盟友ブッシュさんが負けるとなれば,小泉さんは非常に窮地に立って追い詰められる流れが出てくる。ブッシュ再選は,そういう状況から小泉さんを救っていると言えます。 

 先日,ある県の知事さんとお話しをしました。「三位一体も,総理が表に出ないで決着させた。党執行部がすべて泥をかぶるという形で決着を図ったようだ。これは,中央と地方の激突を避け,官邸と自民党の激突も避けた妥協の産物であるけれども,そういう妥協が成立するというところに政局的な意味があるのではないか」と話しておられました。ひとつの空気を代弁する言葉ではないかという気がいたします。

 最近の新聞で,いわゆる3Kといわれる反小泉陣営の実力者,加藤紘一・亀井静香・古賀誠の各氏が,それぞれのインタビューで,イラク派遣問題,経済政策などで,小泉さんを厳しく批判されていますが,その声が自民党の中に,なかなか広がりません。亀井さんも加藤さんも「今の中堅若手議員は選挙を怖がっている。選挙を怖がって政治家が勤まるか」と中堅若手議員を叱責しています。

 若手議員が選挙を怖がっているかどうかはいささか疑問ですが,選挙をしたくないという気持ちが非常に強いというのは明らかだと思います。意外だと思われるかもしれませんが,野党民主党側も,そう早い選挙を望んでいるわけではありません。ある意味で今はモラトリアムのような形です。後2年,衆議院も参議院も,統一地方選挙もありません。非常に珍しい2年間です。

 政界は,この間に,お互いに改革すべきものは改革して,真っ向から本当の勝負をしたいという気持ちが強いのです。ですから,今一気に政権を云々する空気が,自民党内にも民主党にもないのです。

 そこが,加藤さんや亀井さんには歯がゆいところなのですが,この人たちにしても,反小泉包囲網を作ろうとする時に,最初に必ず「これは政局にしない」という申し合わせをします。こんなことは,かつてないことでした。しかし,わざわざそう言わないと,中堅若手がついて来ないということなのです。とにかく当面,選挙はなしにしようやという空気が非常に強いです。

 この十年間に,いろんなことが変わりました。かつての中選挙区では,派閥を形成してリーダーを総理総裁に押し上げるいう権力闘争の地盤がありました。小選挙区になって,その根本的な利害関係が変わってしまいました。自民党議員は,とにかく,民主党を敵として戦わねばならないという意識が非常に強い。そんな時に,党内でごたごたしてほしくない…。

 一方,社民党と共産党は信じられないほどの凋落ぶりです。新聞も,革新・保守という色分けはしなくなりました。現実に,革新という政治力は,永田町の国会から消えてしまいました。与党に対する批判は,民主党が受け皿になりました。

 私は「民主党のホップ・ステップ・ジャンプ戦略」と名づけていますが,去年の総選挙はホップ,今年の参議院選挙はステップ,いよいよ政権のマニフェストを掲げて政権交代を目指す本番にジャンプするわけです。

 昨年の総選挙は,民主党は大躍進といいますが,40議席増の内容を分析してみると,まだまだ政権に手が届いたと言えるものではないと思います。世論調査の数字を見ても,民主党に政権を担ってもらうという意見が過半数を越えるということにはなっていません。

 民主党としても,じっくり腰を据えて,次の総選挙に備えていく。自民党の牙城を崩すための戦略をどう練って政策に反映するかが問われます。…この道は,下手をすると自民党に限りなく近づいていく道でもあるのですが…政権政党として国民の信頼を得るためには,まだ時間が必要です。

 宮沢総理が選挙に負けて,細川政権に移って,55年体制が崩壊して連立政権になって12年経ちます。この間,総理大臣が7人変わり小泉さんは8人目めです。その小泉さんは,もう3年半やっています。

 総理が退陣に結びつく最大の理由は,一つは大体スキャンダルです。特に総理自身にかかわるものか政権中枢を直撃するスキャンダルが起きたときは,持ちこたえられないというのが通例です。二つめは,やはり選挙です。選挙で大敗して,総理が責任をとって退陣する例です。

 政局をみるときに,最もだいじなことは,「今の総理で次の総選挙は戦えるか」です。これがいちばん政局を左右します。議員は,総理がだれなら自分に有利か,自分が勝てるか,を考えます。

 小泉さんの強みは支持率です。初期の支持率は80〜90%でした。田中外相更迭で半減して,アップダウンを繰り返していますが,かならず40%で止まります。これは小泉内閣のバイオリズムです。

 支持率が40%から落ちないというのはものすごく大きいことです。歴代の安定政権といわれる内閣でも大体30%が普通でした。

 自民党にとってジレンマは党の足腰の弱っているところを壊そうする人がトップにいるわけです。自民党の支持率と小泉総理の支持率の乖離が10%以上あります。この10%は恐らく非自民,反自民の無党派層だろうと思います。自民党支持の岩盤の強い選挙区の議員と支持率の弱い大都市圏の議員では,ものすごい意識のギャップがありますが,おしなべて,40%の内閣支持率を失いたくはありません。小泉さんに代わってこの数字が取れる人があるかということを考えると,なかなかしぼれてこないというのが実情でしょう。任期一杯の続投が,あながち間違いではないと言えると思います。

 この十年間で大きく変わったことについて、いくつかお話しいたします。

 一つは,革新勢力が見る影もなく力を失ってしまったことです。結果として民主党に支持が集まり2大政党の流れを強めています。このことが憲法改正の動きを加速させていくと思います。

 二つめは自衛隊です。自衛隊がPKOで初めて海外に出たことです。加えて,テロ特措法での海上自衛隊のインド洋への展開。続いてイラク特措法での自衛隊派遣などの変化です。憲法では想定していなかった海外派遣がPKOという形で道が開かれ,さらに特別措置法という時限立法での自衛隊派遣を,この2年間をやってきました。

 違憲合憲で50年続いてきた自衛隊,PKO活動をやる自衛隊,アフガンとイラクに派遣された自衛隊は,憲法が想定していなかった組織と性格をもつようになってきました。

 最早,憲法改正問題は避けて通れない問題になってきました。新聞各社も,改正積極論,護憲論と,いろいろありますが,変化も見られます。論憲,創憲,加憲などの憲法論が出てきます。来年元旦の各新聞の社説は,そのことを避けて通れないと思います。ご注目いただきたいと思います。

 政治の世界は,一寸先は闇といいますが,権力闘争の基盤である派閥がまったく力を失いました。派閥構成の要件は三つあります。一つは衆目の一致するリーダーです。2番めはお金。3番めはポスト配分権。この三つが派閥の親分の力です。今の派閥にポスト小泉が見あたりません。お金は派閥に集まりません。党執行部が公認権とお金をにぎったことは,相対的に派閥の力を弱くしました。人事権は小泉さんに奪われました。今は派閥が生き残ることは無理という時代になりました。小泉さんが強くなっているのはそういう背景も非常に大きいという気がいたします。ほかにも小泉さんは目に見えない形での権力闘争に勝ち残ってきているのです。

 権力闘争と政局の軸は小泉VS野中だったのですが,野中さんも引退しました。小泉さんにとって重いのは総理経験者ですが,残っている人で政局に影響する人はいません。これも心理的に大きい。今度の国会を終えて,小泉さんは相当に自信をもったと思います。そこが逆に落とし穴であるかもしれないという気がしますが,政局的には,続投の流れが決まったと言って差し支えないと思います。