卓話


日本の工藝を100年つなぐ

2016年10月19日(水)

一般社団法人ザ・クリエイション・オブ・ジャパン
専務理事兼事務局長 岩関禎子氏


 一般社団法人ザ・クリエイション・オブ・ジャパン(略称COJ)の代表理事は元国立新美術館・文化庁長官の林田英樹先生で、理事には東京RCのメンバーでいらっしゃる元駐英大使の藤井宏昭様もおります。今日は、私どもの事業を実務担当の私からお話し致します。

 テーマは、「100年後に残る、工藝のために」です。このキーワードで日本全国をつなげることをしています。工芸に危機感をもって活動される方はたくさんいるのですが、実はそこをつなぐ存在はありませんでした。COJは日本工芸の復興と作品のクオリティを高めるため、新しい市場創造をサポートします。この団体は3年前に発足し、3つの次元での活動を3年前から始めました。

 1つは、「工藝旦那衆の会」です。使い手の方々が集われると、作り手の方々は非常に勇気づけられます。今、工芸の現状は危機に瀕しています。職人から作家に至るまでかなりの閉塞感を持っていますので、そこに明るい兆しをもたらそうという会です。何をするかといえば、楽しむだけです。大切な手紙等を表具するお手伝いを事務局がしたり、年に一回交流会があったりという程度ですが、次の若い世代、これからサポーターになられる方に「フェラーリ1台も素敵ですが、支援をすることも素敵だよね」という文化を創っていただくための会です。

 次に「21世紀鷹峯フォーラム」は、全国を垣根を越えて「つなぐこと」を目的にした工芸の祭典です。昨年は京都で、かつてない形で初開催しました。今年は第2回目を、10月22日から100日間開催し、東京を工芸でつなぎます。六本木ヒルズで開幕し、100の機関が参加し、300のイベントを開催します。詳しくはのちほど紹介致します。

 最後に、「日本工藝ポータルナビゲーション」です。作家、工房のデータや団体、美術館、教育機関等の情報をつなぐことにも向かっています。これはこれからの課題です。 ここで、なぜこうした形に至ったのか、私のバックグラウンドを説明します。

 私が14歳の時に母が1人で画廊を立ち上げ、私はその下支えすべてをする立場で30年仕事をしてきました。本業は美術商です。そこでは、芸術家、アトリエから作品をいただき、紹介し、全国の家庭に届けています。ご家族の皆様とロングスパンでおつきあいするお仕事です。そこでは幅広く、画廊がすることではないようなことまでお客様および母からいろいろと言われてきましたので、大工仕事から設計、照明まで、ディレクターとして運営施工管理ができるようになりました。優秀な女性スタッフとお客様方に教えられたという背景があります。

 サロン形式の画廊であるため、皆様がいらっしゃって様々な相談をされます。5年ほど前に、当時国立西洋美術館長でいらした青柳正則先生が、第六館目の国立美術館を工芸を主題にして作ること、さらに自力採算できるものにすることを考えておられ、「日本の工芸は世界に通じる日本文化の核。アートをお金に換えるという視点から工芸の将来をつくってくれないか」というお話をいただきました。この言葉を契機に、日本の工芸の現状を知ることになりました。

 あらゆる分野で「最後の職人」というフレーズを皆様もお聞きになっていると思います。工芸の素材や道具が危機に瀕し、工芸をサポートする方が非常に少なくなってきています。それから、海外に向けて活路を開く、販路を開く方はたくさんいますが、成功している方はすべて自分で海外と対応することを求められており、国内でそのための道をつくることが必要なのではないかと気づきました。

 そして、最も大きいのはライフスタイルがどんどん変わっていくことです。室町の生活様式が変わり、木造の畳の部屋に座ったこともない子供が多くなりました。魅力ある世界がそこにあっても、楽しみ方がわかりません。楽しみ方を教えてもらう必要があると気づきました。

 もう一つの課題は、これは3年通しての実感ですが、工芸分野は、産業と美術に大きく分断されていることです。担当省庁も分かれており、各々の努力がつながりにくい状況です。同種の課題を抱える行政、教育、産地、団体、作り手が多く存在し単一にできていない等、そこに閉塞感がありました。

 ここで情報をつなぐこと、人と人、産業と人、新技術と伝統といったものが協働する環境をつくる土台が必要ではないか。企業の参画を得てさらなるイノベーションを起こせないか。そうしたことから、工芸オールジャパンという構想を持つに至りました。ここで、林田英樹先生との出会いがありました。林田先生は、私のこうした妄想を笑い飛ばさずに、「日本のことをこんなに真剣に考えてくれてありがとう」とおっしゃり、実際にこの事業を実施することになりました。

 このオールジャパンの団体を作るために心がけているのは、中立、透明であること。そして、人の話をよく聞き、明るく日々、人と人をつないでいます。今回も東京で100の機関の連携を起こしましたが、とにかく人に会うことから始めました。東京の国公立の美術館、教育機関、工芸に関わる商業施設、他にも全く工芸とは関わりのない産業の皆さんが力を貸してくださり、第2回「21世紀鷹峯フォーラム」が22日に開幕を迎えることになりました。

 開幕イベントは、かつてない工芸の連携によって、日本中の閉塞感を持った方々が必ず何らかの明るい兆しを受け取ることができるものになると思っています。招待状をお手元に置かせていただきましたので、何が始まるのか見守っていただけたらと思います。京都、東京、金沢の主要な国立美術館長、この活動をサポートしてくださっている企業の皆様も集まり、開幕を祝います。180頁に及ぶガイドブックも完成しますので、関係機関でぜひお探しいただけたらと思います。また、100日間でどれか一つ、催事にお出かけいただければ幸いです。

 最後に、活動にあたって私を支えている2つの言葉を紹介します。以前、美術史家で浮世絵などの番組で解説等をされている小林忠先生に、「今の作り手は江戸時代に比べて退化しているでしょうか」と尋ねたことがあります。小林先生は次の言葉を下さいました。 「美術の価値というのは、時代によって変わる水物です。例えば僕の研究の対象としているのは、古いものが多い。江戸時代とすると、300年たっている。その間に、今まで何度の戦争や災害がありましたか。今残っているものは、実は、誰かが持って走った物なのです。作品が有名無名ではなく。人に『護らせる』力をもっている物で、僕はそこに深く敬意を感じます。現代の作品をたくさんの家庭が護る環境を作るためには、あなたがいいと思った物をたくさんの家庭に残しなさい。その家庭で護る人達は護る。それはあなたが判断することではありません」

 それから、104歳の現在も抽象画家として世界の尊敬を集める篠田桃紅先生に薫陶を受けています。書家の出身で、美濃の和紙に育てられた方です。紙のにじみ、美しさに惹かれて、墨の抽象画を描かれていますが、紙や墨、筆を作る方、着物を作っていた方が、先生より先にどんどん亡くなっていく、仕事を止めてしまう人をたくさんご覧になっています。

 「なくなることが惜しまれる、悲しい、と思うものが、その作り手にとって厳しい労働を強いていると思うと悲しい。その方々に喜びをもたらすことを、光を当てることを考えなければいけないと思う」。そう教えていただきました。

 この2つの言葉を糧に100年後を皆さんと考え、皆さんが何を感じるかでアクションを起こすことを目的に連携をしています。多くの方が楽しく参加しており、今、スライドに写っているのは、連携に参加してくださった方々の、「100年見通す」ポーズの写真です。これからもこの活動にぜひ注目いただけたらと思います。


      ※201610月19日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。