卓話


ロータリー財団月間例会
ロータリークラブのおかげで

2020年11月4日(水)

ゴールドマン・サックス証券
副会長 キャシー・松井氏


 私はロータリー財団の元奨学生です。皆さんからの支援がなければ、今日この壇上に立つこともできませんでした。

 私はアメリカで生まれ育った日系2世です。両親は奈良県出身で高校しか出ておらず、船に乗ってアメリカに行き、カリフォルニア州で事業を始めました。両親は他の農家の下で働き、苦労しながら、私達4人の子供を育てました。幸い今日、実家の農園は蘭栽培でアメリカの市場の2割を占めるまでになっています。

 私はハーバード大学を卒業後、ロータリー財団の奨学金をもらい、初めて日本に来ました。その後、父が実家のカリフォルニアの田舎町サリナスの小さなロータリークラブの会員のお世話になりました。国際基督教大学で日本語を勉強した後、神戸大学大学院に一年留学し、その後、アメリカのジョンズホプキンス大学の修士課程に行きました。実は2年の間の夏に旧三井銀行本店で初の外国人研修生になり、東西線で通勤し制服も着て、日本の銀行文化を経験しました。

 その後、この業界に入りバブル真っ最中の日本に来て、1994年から今の仕事に就きました。実はこの年末でお世話になった会社を辞める予定で、新しいスタートをしたいと思っています。

 今日は「ウーマノミクス」の話をしようと思います。いわゆる女性と経済です。私はアナリストですから、1999年、約21年前から、日本経済をどうやって成長させていくのかを考えてきました。どの国も成長ドライバーは、人材、資本、生産性の3つの要因しかありません。生産性革命があればいいのですが時間がかかりそうだと思いました。

 当時、日本の女性の就業率は非常に低く、15歳から64歳の女性のうち家の外で働いている割合は55〜56%しかなかったのです。。しかし最近は日本の事情が大きく変わり、ここに来て、アメリカの67%、欧州63%に対し、日本は72%と欧米を上回り、びっくりしています。経済そのものが拡大し、人手不足で人材が必要になってきたためです。海外の機関投資家もみんなショックを受けています。ただし、まだ改善すべきことは、リーダーシップ層の女性がまだまだ少ないことです。女性の管理職比率は約13%と欧米の半分以下、役員比率は5%と低いままなので、私はウーマノミクスの第二フェーズはこちらに力を入れたいと思っています。

 ウーマノミクスがどのような経済効果をもたらすのか試算しました。男女の就業率ギャップを解消し、働く女性の50%強を占める非正規雇用を正規雇用に変えれば、日本の約500兆円のGDPの約15%押し上げる効果が考えられます。これは大きな効果だと思います。

 この21年間、ウーマノミクスについて講演する中で直面してきた通説があります。
 通説1:仕事を辞める理由は「プル」の要因のみ。
 あるNPO法人が数年前に、日本、アメリカ、ヨーロッパの女性数千人を対象に「出産後に仕事を辞めた理由」について調査しました。その要因は2グループに分けられ、一つは育児、介護など仕事場から引っ張られたという意味の「プル要因」、もう一つは仕事への不満、行き詰まり感という「プッシュ要因」です。結果を見てびっくりしたのは、「プル要因」、育児を理由にして仕事を辞めるのはアメリカ人女性の方が圧倒的に多いことです。日本にいると託児所が足りない、待機児童リストが長い等とよく聞きますが、日本には国レベルの育児休業制度があるが、実はアメリカは未だに全くない。アメリカの方が大変なのです。

 一方、「プッシュ要因」はアメリカ人女性よりも日本人女性の方が圧倒的に多いのです。即ち、いくら日本で託児所や介護施設のキャパシティを整えたとしても、「プッシュ要因」の問題が残ります。これは組織内の問題であり、企業経営側の責任ではないでしょうか。そのため7月に『女性社員の育て方、教えます』という本を出しました。

 通説2:ダイバーシティ―は企業の収益性、株式パフォーマンスとは関係がない。
 フォーチュン誌がアメリカの最大手500社を対象に行った調査で、ROE(株主資本利益率)、ROIC(投下資本利益率)と2つの収益性を示す値で、女性役員がいない企業よりも女性役員が3人以上いる企業の方が、収益性が高い結果が出ています。アメリカの大手上場企業のボードメンバーの数は平均して10人前後ですから、女性役員が3人以上というのはクリティカルマスになります。

 日本はどうか。日本は女性役員の数そのものが少なすぎて分析するのが困難でしたので、上場企業の女性管理職の比率で見てみました。こちらも女性管理職比率が高ければ高いほど増収率とROEも高いという結果になりました。

 去年、私達が出したレポート『ウーマノミクス5.0』で上場企業を多様性のスコア、管理職比率、役員比率、あるいは働き方の柔軟性といった情報をベースにスコアリングした結果、ダイバーシティに優れた企業の方が明らかに株価のパフォーマンスのいいことがわかりました。その理由を単純に言えば、多様な意見、違う立場から物事を考えている人の意見が決定過程に反映されているからです。逆に女性ばかりの経営者の企業ではだめで、バランスを取るのがベストです。

 通説3:女性の就業率向上=出生率低下。
 各国の出生率と女性の就業率を比較すると、正の相関になっています。スウェーデン、デンマーク、オランダのように女性の就業率が高い国の方が出生率も高いのです。「でも、日本は違う」と30年間言われ続けたので、国内47都道府県を検証しました。実は日本も全く同じ結果です。福井、鳥取、島根、富山、石川県と女性就業率の高い県が出生率も高いのです。

 何が通説で何が事実なのか、それを確認してから議論しましょう。

 最近の報道を見ていると、ダイバーシティや女性活躍について悲観論者が多いと感じます。でも私はオプティミストです。日本は変わりつつあり、10年後、20年後、大きく変わると思っています。理由は2つです。

 追い風1。金融業界で近年最もエキサイティングな成長分野はESG投資です。国連のSDGsを投資の世界にあてはめた概念です。国連が支持する責任投資原則(PRI)に署名済みの日本企業の数は年率23%で伸びています。このESG投資は、最初ヨーロッパで盛んになり、次にアメリカ、そして現在、日本で最も高い伸び率を示しています。上場企業の場合、多様性に関心が無い、情報開示がない場合は株価に影響し、結果、資本コストも高くなります。ストレートに業績、株価に影響しやすく、今後もっと影響すると思います。

 2つめの追い風は、若い世代です。日本政府の調査で面白いものがあります。対象は独身男性で、将来パートナーになってほしい人について尋ねています。1980年代、90年代は圧倒的に「専業主婦」の比率が高かったのですが、2000年以降、「働く女性」が逆転しています。

 私どもゴールドマンサックス社は世界で約3万4000人が働いており、同僚の7割がミレニアル世代です。私に子育てと仕事の両立やワークライフバランスについて質問してくるのは、昔は女性だけでしたが、ここ最近、ミレニアル世代の男性から聞かれることが増えました。若者世代の価値観が大きく変わり、少数派の女性だけではなく、男性も女性も、LGBTQ、他のマイノリティグループも皆同じ方向に向かって闘っているので、これは大きな、楽しみな変化につながると思います。

 弊社では、女性ネットワークが提案し、金融危機の真っ最中に業内託児所を作りました。シニアの女性人材をキープできるようになり、かつ、当時は競合他社にこうしたものがなかったため、リクルーティングの強い武器になりました。

 『女性社員の育て方、教えます』の中で紹介しているTipsを紹介します。

 まず、女性活躍、多様性のミッションはトップダウンでないとダメです。口だけではなく行動で見せないといけません。よく日本の経営者から「すごく優秀な女性人材がいて、昇進の提案をしたのに拒否されてしまう」と相談されます。もう一回トライして下さいとアドバイスしています。その時の言葉は「私があなたを推薦した理由があり、あなたがこのポストで絶対に成功する自信があります。私もあなたを支えますからもう一度考えてみてくれませんか」。少し励ますと、随分違う結果になると思います。それから、メンターシップだけでは足りません。スポンサーシップも必要です。将来自分のビジネスを成長させるような女性リーダーがいれば投資しなければいけません。

 最後に仕事外の活動を紹介します。ハーバードの後輩が南アジアや中東の女性のための高等教育機関として設立したアジア女子大学に参加しています。資金もないところから始め、バングラデシュのチッタゴンに大学を作り、11年間で1000人以上の卒業生を出しました。政府機関に就職したり、オックスフォード、ケンブリッジ、スタンフォードなどの大学院に進んだりしています。家族で初めて大学進学した子ばかりで、私も姉弟4人がハーバードに行った「第一世代」。それがこの大学が提供している夢です。

 奨学金のために資金集めをしていまして、現在、ユニクロさん、武田薬品さん、日立さんにも応援してもらっています。皆さんもご興味がありましたら私にご連絡下さい。皆さんのお陰で私もなんとか30年間金融業界でサバイブして参りました。これからも素晴らしい学生をスポンサーして下さい。


     ※2020年11月4日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。