卓話


育の曲がり角・日本の曲がり角

2015年7月8日(水)

独立行政法人日本学術振興会
理事長 安西祐一郎氏


 18歳人口と高等教育機関への進学率等の推移を表したグラフがあります。1950年代から2030年代までの予測も含めたもので、1993年は18歳人口が急減し始めた年です。日本の曲がり角という意味では、明治以来、全体的には上り坂できた日本の人口が本格的に減り始めた時期が、近年ではこの年次に当たります。この影響は思ったより大きく、とくに教育の世界に大変な影響を与えています。

 1990年代の初頭とは、1989年ベルリンの壁が崩壊して、その後のグローバル時代にかけて大きな変化のあった時期で、1991年に経済バブルが崩壊し、1990年代の半ばにはインターネットが商用化し、デジタル携帯が普及し始めました。これは技術の問題だけではなく、社会のあり方に影響を与えてきました。このように、世界においても国内においても、極めて大きな変化が起きた中での若年人口の急減です。減少は今小康状態にありますが、2018年を機にまた減り始めます。これを「2018年問題」と呼んでいます。1967年は1948年生まれの方(団塊の世代)が18歳の頃で、半減どころかそれよりずっと少なくなります。

 そうした時代に一人ひとりの教育をどうしていったらいいのか。皆様が教育を受けていた当時とは全く違った様相を呈してきます。そうでなければ日本がもちません。世界の中での日本の位置付けだけではなく、一人ひとりの子ども達が本当に人生を全うしていくことができるか、本当の意味で幸福な人生を歩んでいくことができるかに関連してくるため、本日の卓話の題は、大きく、「教育の曲がり角・日本の曲がり角」とつけました。

 18歳人口の急減はどこに効いてきたのか。18歳人口が急減しているにもかかわらず、大学への入学者数はそれほど変わっていません。高校を卒業して就職する人の数が激減しているのです。大学生を減らせばいいという議論もあるのですがそうではなく、世界的に仕事の質が上がっている状況で必要なのは、大学生の質を上げることです。日本の労働生産性はG7の中で最下位です。大学生の質を上げるとともに仕事の質を上げる。そうした背景を踏まえ、日本の教育改革が始まっています。

 1999→2014→2020→2024というのは、教育改革の工程の年次です。1999年に、初等中等教育、これは幼稚園、小学校、中学校、それから高等学校、特に小中学校の教育と高等教育をどのように結びつければいいのか、議論がなされ答申も出ました。

 2014年には、私が会長を務めていた中央教育審議会で、高等学校と大学をどのようにつなげればいいのか、「高大接続改革答申」を出しました。

 2020年は、高校と大学の接続改革を出発させたいという年次です。小中高は学習指導要領に準拠して先生は教えます。学習指導要領はだいたい10年に1回変わり、現時点での高校3年生の学習指導要領が次に変わるのは2024年と考えられています。この時点までに日本の教育を受け身の教育から能動的な学習――From passive education to active learning――に変え、それによって日本をイノベーションをも支える新しい教育立国に変えていきます。

 そもそも子どもの数が半減する訳ですから、その中で、子ども達一人ひとりが人生を全うしていく大きな力を持ってもらわなくてはなりません。一人ひとりが主体性を持って自ら学ぶ、自ら掴みとる方向に教育も変えなければ、日本はもちません。2020年から2024年にかけて、東京オリンピック・パラリンピックからその後という時期に、日本が曲がり角を曲がりきれるかは、日本の教育が変われるかどうかに掛かっていると考えていただければと思います。

 現在、小中学校では、全国学力・学習状況調査を小学6年生、中学3年生が受けています。B問題といって、考える問題、つまり、正しい答えが一つに限らない問題も出題されています。また、協働学習が当たり前になってきています。総論でいえば、日本の小中学生は、国際学力テスト(PISA)というOECDの調査もあり、世界の中で相当高いレベルにあると考えていいでしょう。ところが、中学から高校への進学率が98%と、ほとんどが高校に進学する中で、高校が非常に多様化しています。受験校がある一方、これは生徒だけ、高校だけの問題ではないのですが、不登校の多い高校もたくさんあります。割り算もできない、英語の三人称単数現在にsも付けられないといったことも起きています。

 大学も多様化しています。大学は短大まで含めると日本に1,000以上あります。世界的に大学レベルの教育をもっと行う方向にある中、問題は大学教育の質を上げることです。現在、高校を卒業して、一般入試を経て大学に進学する生徒が33万人。一般入試以外、いわゆるAO入試、推薦入試などで大学に進学するのが27万人。それから、特別支援教育、発達障害、学習障害を抱えた経験のある生徒がいます。専門学校に進学する生徒が25万人、就職等が20万人と分かれます。

 本当にいろいろなことが起きています。若年人口の減少によって、大学経営や私立学校経営は大変になっていますし、国立大学はさまざまな改革を行わなければならない状況です。財政の問題もあります。日本の教育は特に就学前教育と高等教育に政府の公財政支出が非常に低く、対GDP比で高等教育ではOECD加盟国で下から2番目です。

 日本には3度の教育転換期があります。まず、幕末から明治にかけての漢学から洋学へ、それから国民皆教育、小学校が一度に一万校以上できて近代化の基盤が形成された時期です。それから戦後まもなく新制大学制度ができ、特に1960年代に入ったころから理工系修士課程が増強され、そこから輩出された人材が高度経済成長につながる基盤になっていった時期。そして現在、3度目が巡ってきたと考えます。

 教育は子どもたち一人ひとりのためのものですが、戦略的な国の基盤でもあります。これからの教育をどのようにやっていくのかは、ITを導入した教育も含めて世界各国の競争になっています。各国ともいろいろな悩みを抱えている中で、教育の大きな流れはイノベーターの養成やアクティブ・ラーニングに向かっています。

 では日本では何を始めているのでしょうか。社会改革としての教育の転換、特に高等教育と大学教育の改革です。大学入試に向けて、進学校、高校、あるいは中学からどこの高校に行くかが親のターゲットになっており、高校生は進路指導の先生に言われながらやっている状況があり、それをペーパーテストで全国一斉に行うことがこれからの時代に合っているのかが問われています。

 社会改革としての教育の転換の課題は、まず、十分な知識・技能をもつこと。暮らしていくために必要な書類に漢字が書けるか、医療等の対応ができるか、きちんと計算できることまで含みます。その一方で、選抜性の高い大学の学生には、世界トップレベルの大学を出た人達と協力、あるいは競争できる知識・教養・スキルを持てるかどうかが問われます。

 二番目は、それを活用できる思考力・判断力・表現力を持つこと。暗記中心の教育を変えなくてはいけません。それから、臨機応変に能力を発揮できることも大事です。そして、主体性をもって多様な人々と協力して学び働くこと。これらは、今まで教育界ではあまり言われてこなかったことです。世界中の人々と協力して学び、働いていくことが大事です。これは私の言葉でもありますが、中央教育審議会の答申から抜いてきたもので、これに沿って教育改革が始まっています。2020年までに高校大学の接続システムの改革を始めるという計画が国で立てられています。

 学習指導要領の改訂は昨年11月20日に文部科学大臣から私が会長を務めていた中央教育審議会に諮問されました。小中高、特に高校の学習方法を能動的学習に変えていくための議論が行われています。高等学校の教育をアクティブ・ラーニングに変えることは、先生、教材、子ども達の学び方まであらゆることに関わります。全教科科目についてこの方向に変えていく議論が始まっています。

 それから、高大接続改革については、個別の大学における3ポリシー(アドミッション・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、ディプロマ・ポリシー)の公表と実践を各大学が行うようにするため、文部科学省で法令改正することが議論されています。

 また、「大学入学希望者学力評価テスト」や、現在高校には設けられていない「高等学校基礎学力テスト」を高校生個人の希望で受けられるようにする議論が進んでいます。この中にも、努力してアクティブ・ラーニングを身につけてきた受検者のほうが解ける問題を入れたい。マークシートで答えが一つしかない問題を変えていく必要があります。採点が主観的になるという意見もあります。「入試が人生を決める」という考え方が親をはじめ社会に岩盤のように染みこんでおり、改革するのは容易ではありません。

 この教育改革をぜひ一緒にやっていただけないでしょうか。実際には自分も親であり、孫もおられる方々も多いでしょう。いい大学に入ってもらいたいという思いがおありになるかもしれませんが、これからの時代を考えると、今教育を変えなければ間に合わなくなります。いろいろな国が教育に目をつけており、日本が出遅れるわけにはいきません。私の本務は日本学術振興会であり、我が国の学術全体の支援が本務ですが、この教育改革に深く関与しております。未来に生きる子ども達のためにぜひ応援をお願い致します。