卓話


視る力

2016年5月18日(水)

蠹豕メガネ
代表取締役社長 白山聡一君


 訓読みで“みる”と読む漢字は30以上あります。英語でも“みる”という意味を表す単語やイディオムは複数ありますし、おそらくどの言語でも複数あるでしょう。人は情報の8割を眼から入手するといわれていますので、“みる”という表現が沢山あるのは、視る行為の重要性を表わしている証拠です。

 一般的に言う視力1.0、2.0といった表記は、そのほとんどが遠方視力を指していると思います。遠方視力とは、身体を固定して、5m相当の離れた視力表の文字や図形をみて、より小さいものを読み取る力です。これを静止視力といいます。

 私たちの実際の生活は、眼球を動かさずに静止している一点を視るよりも、身体も動かしながら動いている物を視る時間の方が多いはずです。そのために、私たちは無意識のうちに様々な眼の機能を駆使しています。上下左右の物を視る時には、その方向に眼球を旋回させ、遠く→近く、近く→遠くにピントを合わせ、近くを視る時には左右の眼を内側に寄り眼にします。左右の眼の視え方の違いで遠近感・距離感をつかむ等、さまざまな機能を使って視る力を動体視力といいます。そして、静止視力と動体視力に加えて周辺視という視機能もあります。周辺視をわかりやすい言葉で言い換えれば「視野」です。今回、私は視る力のなかでも意外と話題にならない「視野」に注目してみました。

 「視野」とは、眼を動かさないで視える範囲、人間の場合両眼で左右180度、上下130度です。
 眼を動かさずに一点を凝視してよく見える範囲を「中心視野」と言います。中心視野では、文字などの細かい形が認識できますし、色の微妙な変化が分かります。中心視野は視線を中心として、5度です。その他の広い範囲を「周辺視野」と言い、周辺視野では物はぼんやりとしか分かりません。

 自動車を運転する時、いつもより速いスピードで走ったり、慣れない道を走ったりする時は、今まで以上に前をしっかり見ようとします。しっかり見ようとすればするほど、意識は「中心視野」に集中します。一般に「スピードを出すと視野が狭くなる」と言われていますが、これは、意識が中央の「中心視野」に集中したために、「周辺視野」の領域に意識がいかなくなった状態のことを言います。

 ピンホールメガネという中心に小さな穴が開いているメガネをかけると、周辺視野を遮断して中心視野のみで視ている状態になります。その状態でボールを投げて的当てをしようとすると、的は中心視野で良く視えているのに、的に当てられず、それどころか上手く投げられません。ボールを正確に投げるには周辺視野から得られるバランス感覚が必要なのです。

 剣道には一眼二足三胆四力(いちがんにそくさんたんしりき)という教えがあり、第一が眼、眼が大切といいます。宮本武蔵の五輪書で、剣道の基本は「遠山の目付け」といい、一箇所を注視せず、遠い山を見るように、相手の構え全体を見る、なるほど、これまさに周辺視野の重要性を説いています。

 このように今も昔も、眼の視る力がいかに優れていて、また重要であるか枚挙に暇がありません。静止視力、動体視力、周辺視これらをまとめてスポーツビジョンと称しております。現在は、「中心視野」で視る静止視力をもって視力と言っていますが、視野のほとんどを占める周辺視野は体のバランスを保つ上で非常に重要ですし、実用的な動体視力も眼の機能として無視できません。アンチ・エイジング、クオリティオブライフの観点からも、静止視力だけでなく、動体視力、周辺視野、つまりスポーツビジョン全般に注目するべきだと思います。私たちの視る力は、動体視力や周辺視の能力を含めた表記が必要だと感じています。


ユヌス・ソーシャル・ビジネスについて

2016年5月18日(水)

螢▲弌璽献Д鵐
マンージング・パートナー 盒供〔牲


 ソーシャルビジネスは継続的に社会問題を解決することを第一の目的としています。その中で、バングラデシュのモハマド・ユヌス博士の提言、推進するユヌス・ソーシャルビジネス(NSB)の特徴は出資者に対する配当をしないという点にあります。

 NSBは7つの原則を掲げています。社会問題を継続して解決することという項目はもちろん、楽しく仕事をしようということも含まれています。 特徴的なことは、3番目の項目に「投資家は投資額のみを回収できる。投資の元本を超える配当は行わない」というものがあります。社会問題の解決を第一の目的としているため、出資者には、出資金額以上のリターンをしないと潔く定めています。 したがって、投資者にとっては、言わば社会貢献、社会奉仕に他なりません。

 一方、企業側は配当がゼロということになりますので、その部分の資金を自己資金に充てて、効果的に社会問題解決に取り組むことができることになる仕組みです。株主のための営利追求が主目的ではないため、社会問題解決に素早く、効果的に、矛盾なく取り組むことができるということになる訳です。いわば「損失なし、配当なし」という会社です。 投資家は最初から配当を放棄して深刻な社会問題の解決に手を貸すという誇りや喜びだけを目的に資金を出すことになります。

 ユヌス博士は祖国の貧困解決に役立つことを考え経済学を学び、米国バンダービルト大学で博士号を取得した後、祖国建国のために帰国します。ある時、ジョブラ村のソフィア・ベガムという主婦に出会い、貧困の実態を見ます。村の女性たちに声をかけ、無利子、無担保の肩代わり融資をすることを申し出ます。この申し出に、42世帯が参加し、ユヌス氏はポケットマネーで総額27ドル融資したとのことです。ユヌス博士は、この方法は効果はあるが、限定的で、単に個人のほどこしとして続けていくことでは限界があると実感し、制度化し拡大していく運動を始めます。

 この結果、1983年にマイクロファイナンス(少額融資)で貧困者専門に貸し付けるグラミン銀行の設立に至ります。因みにグラミンとはベンガル語で、村の、ちいさなという意味です。このグラミン銀行の設立とその発展によって貧困世帯の救済に貢献した功績で2006年にノーベル平和賞を受賞しています。

 当初500名だった借り手も現在(2014年)には800万人に成長しています。そのうち97%が女性とのことです。

 同時に、貧しい人々に直接援助するグラミン銀行だけでは、貧困の撲滅には時間がかかると考え、ビジネスを通じて、特に、保健、医療、環境、教育などの大きな事業を積極的に育てていくことを思いつきます。単に利益を求めるだけではなく、社会に貢献するための事業に発展させるという概念を生み出し、これをユヌス博士は「ソーシャル・ビジネス」とし、世界中に広めました。

 さらに、グラミン銀行の経験を踏まえて、投資家は社会奉仕の投資には金銭的な見返りだけを求めているわけではないという理解から、配当をすることなくビジネスを続けることができるという発想が生まれ、NSBの仕組みが完成に至ります。

 その後、グラミン銀行傘下の企業集団、グラミンファミリーと連携という形で世界の大手企業がNSBに参入し拡大を続けています。

 また、日本国内では2009年以降、九州大学ユヌス&椎木ソーシャル・ビジネス研究センターの岡田昌治教授を中心に、NSBの研究・教育・普及、そしてインキュベーションが進められてきました。その結果、昨年までに8社がNSBとして認定されています。その他、大学生によるコンテストも盛んに行われています。

 日本における、NSBの現在の課題はその認知度のさらなる向上と資金提供者、出資の拡大ですユヌス博士も日本には昔から近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」という“三方よし”の心得があるように社会と共存する風土があると説いています。日本では比較的なじみやすい、考え方かも知れません。