卓話


イニシエイションスピーチ

2012年2月29日(水)の例会の卓話です。

佐々木 隆君
福井俊彦君

東日本大震災後のインバウンドの動向について

螢献А璽謄ービー 
代表取締役会長 佐々木 隆 君

 前年の3月11日の東日本大震災は,巨大地震が大津波を起こし,大津波が原子力発電所の破壊と放射能漏れを起こすという三重苦の大災害でありました。インバウンドに与えた影響も極めて大きく,地震と津波による甚大な被害は,各国の訪日客に過度の自粛行動をもたらしました。ただこういう自粛行動は、グローバルツーリズムの世界では過去にも色々な国や地域で起こったことであり、時間の経過とともに次第に収まってきました。

 しかし,放射能汚染は違いました。放射能汚染に対する恐怖と風評被害は今も色濃く残っており,ヨーロッパ諸国からの訪日観光客は,ヨーロッパ経済の混乱もあいまって,依然として前年比20%程度にとどまっています。日本の実情に詳しいアジア諸国の訪日客は昨年夏以降に西日本を中心に回復し,この旧正月には中国からの訪日客の戻りもありほぼ前年まで回復しました。

 しかしながら,東北各地は依然として放射能汚染の風評被害が大きく,全く異常のない地域でも外国人客がほとんど見られない事態が今も続いています。

 東北へのインバウンドの復興については官民を挙げて多くの努力をしています。大きな試みとしてツーリズム産業界のダボス会議といわれている国際会議を,4月16日から仙台・東京で開くことが決まっています。ワールドグローバルトラベル&ツーリズムサミットと言い,世界のツーリズム産業の代表企業のトップやマスコミが1000人ほど集まり,グローバルツーリズム産業の持続的発展について話し合う場であります。今回は仙台と東京の二都市で会議を開催し,東北を中心として日本の安全・元気を世界のツーリズム関係者に発信すると同時に,多くの自然災害やSARSのような疫病も克服してきたグローバルツーリズム産業が,初めて経験する放射能汚染という大きな災いを全世界で協力して乗り切ることを話し合います。

 次に、昨今話題になっている観光立国について少しお話をしたいと思います。観光立国には二つの意味があり,一つは観光産業がきわめて裾野の広い産業であり地域経済の活性化の切り札になること,インバウンドを活性化することは日本経済を活性化する力があることです。

 もう一つの大きなメッセージですが,それを理解していただくために一つのエピソードをお話します。10年ぐらい前にキャセイパシフィック航空で関西国際空港から香港経由でドバイへ行った時,香港までは機内はがらがらで,「キャセイさんも大変だなあ」と思っていました。ところが、香港のトランジットルームから機内に戻った時,目を疑いました。エコノミー席もビジネス席も完全に埋まっているのです。当時でさえ,日本・ドバイ間より香港・ドバイ間の方が何倍も大きな人の流れだったのです。

 多くの日本人は日本発着の国際線のみを国際線と考え,無意識に日本が世界の中心である航路を頭に描いているのだと思います。当時の私も日本発着の国際線が幹線だと思い込んでいましたし,まさかアジアの中でもローカル線だとは全く考えていませんでした。その後,折りに触れ海外出張の際にそういう視点で見ていると,「これはやはり,日本はもっともっと国際交流を真剣に考えねば」と考えることが多々ありました。

 寂れた街道沿いの町は寂れます。人が溢れ交流が活発な街道沿いの街は賑わい栄えます。

 観光立国というのは国の政策です。国の政策とは10年20年後の日本のむかうべき方向へのメッセージです。観光立国とは,日本を人々の交流の中心として世界中の人々が溢れる活力ある国にしよう,というとても素晴らしいメッセージだと思います。

世界と日本の経済をめぐる三つの大きな疑問

一般財団法人キャノングローバル戦略研究所
理事長 福井 俊彦 君

1.世界経済はこれから安定に向かうか?
・地球上に住む人々の価値観は互いに異なり,歴史や文化にもそれぞれ特性がある。従って,世界はもともと価値観の相克,不確実性に満ち溢れている。

・それでも,グローバル化やIT革命以前の世界においては,国・地域ごとの囲いの中に比較的同質の者が集まって “ île de stabilité isolé ” を作る努力をしてきた。

・現在は,国境や地域の壁を乗り越えてヒト,モノ,カネ,情報が自由に流れるようになり,人々は本来の不確実性の世界に立ち戻った,と私は思っている。

・経済の面からみても,先進国は,市場経済に遅れて参加してきた新興・途上国の激しい追い上げを受け,苦吟している。新興・途上国は世界経済を力強く下支えする役割を荷いつつも,先進国が行き悩めばその跳ね返りを蒙らざるを得ない。またやや長期的にみると,新興・途上国も,いずれ,人口減少・高齢化といった先進国が今悩んでいる問題に遭遇し,矛盾を表面化させる可能性が大きい。

・これ即ち,「定常状態なき世界経済」の時代を迎えた,と私は思っている。

2.世界第二の経済大国の地位から後退した日本は,今後衰退の一途を辿るのか?
・待ちの姿勢を捨て,嵐に向かって突き進む心意気を身につけなければならない。

・とは申せ,日本は当面,欧米先進国と共通の二つの大きな課題を抱えている。
一つは,経済に活力を賦与し,成長力を強化すること。いま一つは,財政再建を着実に推進すること。

・人口減少・高齢化の下で,これらの課題に一層負荷がかかっている。

・荷は重いが,幸いにも日本にとって新たに挑戦すべき領域は決して少なくない。
第一に,経済面で「真のグローバル展開」を実現する。このため,発展する海外市場をフル活用するよう民間部門において最適のビジネスモデルを構築する。また内外の優れた人材を国内に惹きつけ,イノヴェーションの基盤を強固にする。

第二に,地域コミュニティーの再興に真剣に取り組む。とくに,若い人達が担う林業,農業,漁業の実現に如何に道筋をつけるかが鍵。

第三に,日本の持ち味である「顧客のための金融」をアジア全域に伸ばす。受託者責任(fiduciary duty)の哲学に則った金融体系で欧米との差別化を試みる。

3.原子力エネルギーの安全性確保をめぐる認識の不一致から,世界のエネルギー供給体制に歪が生じる心配はないか?
・エネルギーの長期安定的な確保は経済成長の大前提である。また,エネルギー資源の確保をめぐって国際的な紛争の種が常に潜んでいることにも注意を要する。

・大事なことは,わが国のエネルギー基本計画において,第一に,エネルギー自給率向上への目標が明確となっていること。第二に,再生可能エネルギーの開発を進め,地球温暖化問題への対処と整合性のとれた政策体系で世界をリードすること。

・ただ,原子力エネルギーのフェーズアウトを直ちに達成することは不可能である。

・先ずは,原子力エネルギーの安全基準について,高いレベルで国際的に共有し得るラインを各国間の協力により確立する。

・それでもなお起こり得る事故がもたらすコストについては,公的な保険でカヴァーする。更に,電力会社に責任がある場合,その責任を遡及した結果,電力会社が倒産して電力供給網が断たれるリスクに備え,ベールアウトの仕組みを用意する。これらの仕組みについて国際的に共通化を図る。