卓話


新世代のための月間例会
グローバル人材とは−地球市民の育成を目指して

2014年9月3日(水)

NPO法人 開発教育協会
事務局長 中村絵乃氏


 私は、大学をはじめ中学・高校に行き、生徒達に自分で考えてもらう授業をしていますので、皆さまにもご協力いただければと思います。今から写真をお見せしますので、「どこの国でしょう? なぜ、そう思いますか?」と考えてください。(ブータン、エジプト、アメリカ、チャドのスーダン難民キャンプや日本のある家族とその一週間分の食材を撮影した写真<『写真で学ぼう!地球の食卓』開発教育協会>を見せる)これを見ながら、たとえば、この中で、一番ゴミを出している家族はどれかを考えてもらいます。次に、「一番健康的な食事をしている家族はどれか?」と聞きます。最後に、「一番、豊かな食事をしている家族はどれか?」と質問します。「豊かさ」には価値が入ってきます。すぐに食事ができることや、自分のところで作った物を食べることが豊かなのかを学生同士で考えます。いろいろな指標が出てきます。女性の仕事が少ないほうが豊かではないか。バラエティがある食事が豊かなのではないか。日本はいろいろな物が選べるけれども、自分の地域で作った物が食べられるという点からすれば、たくさん輸入をしていることはどうなのか。たくさん輸入し、ゴミを出しているということはどうなのか、ということを考えていきます。

 今、体験していただいたものが開発教育と呼ばれる教育活動です。世界の貧困・飢餓・紛争・環境破壊・人権といった問題は、貧しい国だけのことではなく、日本の社会のあり方や私たちのライフスタイルとも深く関係しています。また、日本にも同様の課題が存在します。開発教育とは、私たち一人ひとりが、開発をめぐる様々な問題を理解し、共に生きることのできる、公正で持続可能な社会づくりに参加する人を育成する教育活動です。もともと国連や国際協力NGOが主体となって使い始めた言葉です。NPO法人開発教育協会は、開発教育の普及推進に関心を寄せる個人や団体・NGOが1982年に設立したNGOで、以来、31年間にわたり活動しています。常勤職員3名、年間予算約3,000万円と小さな団体ですが、会員は全国に700名います。こうした活動にご関心のある方からの寄付を大募集中です。

 事業は、日本の教育政策への提言や、アジア・欧州の開発教育NGO、成人教育NGO等とのネットワークづくり、全国の開発教育を行っている学校の先生方・企業をはじめとする地域のリーダーの方たちとのネットワーク形成、それから、調査、教材作成などをしています。講師派遣では、学校や地域に年間約150件のプログラム提供を行い、小学生から大学生、教員や地域の指導者をはじめとする大人を対象に、参加者同士が学ぶ場を設けています。

 作成・発行した教材・資料は100種類以上あります。有名なものは『ワークショップ版 世界がもし100人の村だったら』で、参加者が世界に住む様々な人になって多様性を理解したり、クッキーを分けあって格差の状況を体験したりします。また、『貿易ゲーム』という教材では、自由貿易の仕組みやその長所短所を理解していきます。

 いま、グローバル人材が注目されています。安倍首相が言っていますし、よく聞かれると思います。グローバル人材とは、どのような人材だと思いますか。世の中のグローバル化に対応できる人材、他者と協力して問題解決できる人材、英語を使ってコミュニケーションをできる人材。それだけでグローバル人材といえるでしょうか。

 今、地球上には、紛争をはじめ、環境、人権侵害、そして格差の問題があります。たった1%の人が世界の半分の富を持っているといわれています。日本国内にも貧困、格差、特に子ども供や若者の貧困、雇用の問題があり、高齢化、過疎化などの問題もあります。こうした問題は普段、授業でばらばらに学びます。逆に、自分の専門ばかり学び、こうした問題を学ばないということもあります。しかし、グローバル人材は、地球は今どうなっているのか、その影響がどのように及ぶのかを考えます。

 また、メディアでどう伝えられるのか、それは正しい内容か、政治的な規制はないか考えます。そして、歴史から学びます。さらに、批判的思考を持つことが大切です。批判的思考とは質問しつづけること。これが本当に正しいのか、他の方法はないか、他の人はどう思っているか、反対の意見を持つ人は誰か、誰が一番困っているのか。そういった疑質問を持つことで世界がいろいろな視点から見えてきます。他にも、自然・環境、社会、経済、政治(誰が選択し、決めたのか)の問題を見る視点を提供します。

 「持続可能な」という言葉がよく使われています。なぜかと言えば、今、世界は持続可能ではないからです。学生たちには、この持続可能性の意識を持ってもらいます。持続可能性には3つの「公正」が必要といわれています。1つ目はな「世代内の公正」で、同じ世代内で先進国と途上国の間にある格差をなくすこと。2つ目は「世代間の公正」で、未来の子どもたち供達に環境や資源を残すこと。そして3つ目は「種の間の公正」で、人間だけではなく他の生命体に対しても責任を持つこと。「公正」が重要な概念です。こうした意識を持たなければ、自分さえよければいいという状況になってしまいます。

 それから、問題解決、批判的思考を重視しています。相手の立場に立つこと、情報収集すること、新たな案を考えることです。特徴的なのは、多様な学習方法、参加型でこれらを行うことです。ブレーンストーミング、体を動かしてのロールプレイ等の手法を使ってみんなで考えていきます。学生は他の学生がどのような意見を持っているか聞くことに、関心を持っています。グループで積極的に意見交換をさせていきます。

 グローバル化に準じるだけではなくて、グローバル化の影響を受けつつも、より公正な社会、公平な社会にすることがとても重要になっています。ロータリー・ソング『4つのテスト』の歌詞にもあるように、「みんなにとって公平か」、それを自分で考え、他者と協力し、総合的な問題解決をできるのがグローバル人材です。社会的に弱い立場にある人達はなかなか見えてきません。日本のように同一化し違うものを排除する傾向がある社会で、排除されてしまった立場に立つことは非常に難しいのですが、リーダーになる人にはそれに気づけるように、そうした人の立場に立つ練習もしています。

 また、英語に限らず、中国語、スペイン語をはじめ、相手の言語を使って、建設的なコミュニケーションができるのがグローバル人材だと思っています。

 グローバル人材を育成する活動事例を2つほど紹介します。一つは、日本YMCA同盟の地球市民育成プロジェクトです。世界に目を向けた思考力、地域で実践する行動力を備えた青年を「YMCA地球市民」として育成する一年間のプログラムです。日本とアジアの学生や若者が集まって、世界の問題を学んだり、フィールドトリップをしたりします。最終的には自分のアクションプランを作って発表し、地域に帰って実践します。ちょうど昨日まで夏期研修でした。この中で自分が当然だと思っていたことがそうではなかったことや、自分の考えの狭さなどに気づき、日本の中だけにいると見えてこない視点、知らなかったことに関心を持ちはじめます。日本の学生は割とシャイなのですが、一週間でどんどん変化し、自分の意見を言えるようになっていきます。その姿に、多様な文化を持つ人々と学び合う経験が重要だなと思っています。

 もう一つは、「世界一大きな授業」という世界100カ国の子どもたち供と一緒に教育について考える世界規模のイベントです。開発教育協会も含め、NGO7団体が共同で実施しているキャンペーンです。現在、世界に学校に通えない子ども供は、5,700万人、文字の読み書きができない大人は7億7,400万人もいます。この背景には、紛争や貧困はもちろん、教育への無理解や女の子など社会的弱者への差別といったさまざまな問題があります。「世界一大きな授業」は、そうした世界の現状に目を向け、教育の大切さを同じ時期に考えるもので、毎年5月に行っています。その授業を受けた高校生が「先生」になって、「生徒」になった国会議員にそれを伝えるという「国会議員のための世界一大きな授業」も実施しています。2013年のイベントには、超党派で国会議員25人が出席しました。子どもたちがいつまでも「生徒」ではなく、自分で何かやっていくことができる、エンパワーされることが重要だと思っています。

 最後に、社会の担い手としての若者の育成が重要だと思っています。それはまさにグローバル人材であり、大人がやるべきことは、若者が意見を共有し考える場を支援していくこと。最終的には若者がイニシアティブをとって新しい社会を実現していくことで、とにかく大人は邪魔をしないということです。さらに、アジアの若者と共に、アジアの歴史や未来を考えることが今一番必要とされていると思います。 グローバル人材のとらえ方はいろいろありますが、大人が支援していくことで若者がもっと社会に出ていけるのではないかと思っています。


      ※2014年9月3日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。