卓話


会員増強・拡大月間例会
観光先進国の実現に向けて

2017年8月2日(水)

日本政府観光局
理事長 松山良一氏


 卓話ページ最後の写真は、富士急行線下吉田駅という日本人はほとんど降りない駅から20分程歩いた新倉山浅間公園から撮った写真です。撮影スポットはタイからの観光客が発見しました。富士山に桜、五重塔が一緒に見られるとタイ人の間で有名になり、タイから相当な数の人が訪れました。何事かと日本人が行ってみてその魅力がわかった。今や山梨県を代表する写真の一つとして使われています。

 観光は団体旅行から個人旅行に大きくシフトしてきており、個人がどこに行くかを最後に決めるのは口コミです。友人、知人がある場所について「ここは良かった」言うと、そこにどっと人が集まります。

 もう一つはWi-Fiの重要性です。日本人は必要性をあまり感じていませんが、外国人はこれがないとインターネットに繋がらないため、とても重要です。そのため各地にWi-Fi設置をお願いし、この新倉山浅間公園にも設置されました。そうすると「いいなあ」と感じたその場ですぐに自分のFacebookやInstagramなどに写真をアップでき、観光スポットはある意味無料で宣伝できます。

 また、この公園には多くの外国の方がいらしていますが、見て感動して帰るだけなんです。この流れに対して日本側がビジネスをできていない。それは日本の観光地全体にも言え、これからの課題です。その例としても、この写真を見ていただきました。

 さて、2016年に世界を旅行した人は12億3000万人で、対前年比約4%増でした。2009年のリーマンショック後に多少落ちましたが、それ以外はずっと伸びています。以前はヨーロッパ中心に伸びていましたが、近年はアジアの伸びが顕著です。また、世界のGDPのうち観光は9%、雇用では11人に1人と、産業としても大きなものです。

 次にインバウンド、訪日外客数のトレンドです。2003年にビジット・ジャパン・キャンペーンを開始した当時は520万人でした。その後、2009年の世界金融危機や鳥インフルエンザの流行、2011年の東日本大震災などの影響を受けましたが、その後は2桁成長を遂げ、昨年は2404万人を記録しました。今年は6月までで対前年比17%増で、アジアだけではなく欧米豪からも2桁増と、地域問わず伸びています。ただ、商用目的は横ばいで、日本として考えなければならない問題です。

 インバウンドに対して、日本人が外国に行くことをアウトバウンドと言います。外貨獲得、雇用増になるため、各国ともに旅行者の誘致競争をしています。我が国も明治26年に喜賓会ができ、欧米に対し訪日を働きかけてきました。1964年に日本人の国際旅行が自由化されて日本人が海外に行くことが増えました。東京オリンピックの時にインバウンドが35万人、アウトバウンドが12万人で、1970年の大阪万博後初めてアウトバウンドがインバウンドを上回り、1985年以降の円高でその数が伸びました。最近インバウンドが非常に拡大し、2015年には45年ぶりにインバウンドとアウトバウンドが逆転しました。

 インバウンド増加の理由については円安がよく言われますが、私は為替は消費の増減には影響しますが、行く行かないについては直接的な関係はないと思います。そこで考えられる理由の一つは、旅行先として日本への関心が非常に高まっていることです。

 二つ目に、政府の取組み、例えばビザ緩和、消費税の免税、それと我々の継続的なプロモーション等がようやく花開きました。

 三つ目に、アジア諸国の中間層、富裕層の拡大です。経済的余裕ができるとまず旅行に出ます。あこがれの国日本に行ってみようと、アジアからの旅行者数が増えました。

 四つ目に、訪日増加に向けた官民あげたオールジャパンでの取り組みです。これまでも観光業界は一生懸命やってきていましたが、バラバラでした。ところが2013年、東京オリンピックが決まった年に、政府がインバウンド1000万人を目標にし、オールジャパンで力を合わせたところ、それを達成しました。その後もその雰囲気が継続し大きな効果に結びついています。

 五つ目に、格安航空、クルーズ航路の拡大等です。
 次に、インバウンドの地域的な比率は、中国、韓国、台湾からが多く、アジアからの訪日客が84%です。フランスを見てもインバウンドの8割が近隣諸国からで、8割はおかしくない数字ですが、我々はアジアだけでなく、欧米豪からの訪日客を今後いかに延ばすかを課題にしています。

 インバウンドの消費は主要な輸出産業と拮抗しています。2016年の訪日外国人の旅行消費額は3兆7476億円で、これを製品別輸出額と比較すると、第1位の自動車が11兆円、2位の化学製品が7兆円、3位の電子部品が3兆6000億円で、これを超える規模なのです。政府目標は、2020年の8兆円、2030年15兆円で、観光産業が第一位の輸出産業の規模になることを目指しています。

 日本の観光産業のGDPは平成27年現在、約25兆円で約5%です。建設業の規模に匹敵しますが、確たる存在価値を築いている建設業と比べ、観光産業はなかなか一つの大きな力になっていません。そのため私は、これからの日本を支えるのは観光産業であり、基幹産業に育て上げようとずっと叫んでいるところです。

 平成28年の日本国内における旅行消費額に占めるインバウンドの割合は14.5%です。スペインは55%、フランス27%、韓国31%ですから、非常にのびしろがあります。日本全体で14%が外需ですが、地方では外需が1%、99%が内需です。今まではずっと日本人をもてなすことに一生懸命でしたから、外国人をもてなすことにシフトすればこちらも伸びていくでしょう。

 国家ブランド指数についてアメリカのフューチャーブランド社の調査では、観光ブランド力がイタリアに次いで2位。ビジネスの観点を入れた「旅行・観光競争力指数」(世界経済フォーラム)では、日本は昨年スペイン、フランス、ドイツに次いで4位とブランドイメージはものすごくいい。その一方で、実際の訪日外客数は、世界第16位、アジアで第5位。「いつか行きたい日本」ではあるものの「今行きたい日本」になっていない。このギャップをいかに埋めるかがJNTOの使命です。

 日本の観光先進国の実現に向けた三つの視点があります。現在インバウンドの約7割が東京、京都、大阪のいわゆるゴールデンルートに行っています。地方への分散が大きな課題で、一つ目に地方の魅力を磨き上げることです。二番目に観光産業を基幹産業に育て上げること。三番目に外国の方が快適に観光を満喫できる環境をつくることです。 こうした状況を踏まえて日本政府は、2013年に、2020年に2000万人を目指そうという計画を行いました。お陰様で2016年に2400万人を達成し、政府は「明日を支える観光ビジョン」において、2020年4000万人、2030年6000万人、また訪日外国人による旅行消費額の目標2020年8兆円、2030年15兆円を掲げています。

 この観光ビジョンには二つ特徴があります。一つは、これまで人数だけだった政府の目標に初めて消費額が掲げられこと。もう一つは、観光産業の基幹産業化が初めて盛り込まれたこと。それを踏まえて今JNTOは、データに基づいたマーケティングをしっかり行おうとしています。また、地方への誘客です。最後は観光の質の向上に貢献するために、受入れ側である観光に携わる方々もそこでしっかり稼ぐ、儲かるものにするために、欧米豪と富裕層向けプロモーションの強化、国際会議等の誘致等に力を入れます。東京オリンピック・パラリンピックも十二分に活用します。

 現在地方ブランドの構築をしているところですが、私はブランドとはロゴやキャッチコピーではなく、例えば日本と聞いて日本に行きたいなあと思うようなイメージをいかにお届けするかが大事だと思っています。そのためには三つのポイントがあります。一つは外国人目線。それから魅力を絞り込む。最後に、自分のところだけではなく、広域で連携してプロモーション展開することです。

 今後、ラグビーワールドカップ、東京オリンピック・パラリンピック、そして、まだあまり知られていませんが2021年には関西ワールドマスターズゲームズがあります。これも4年に1度の開催で、参加費を払えば参加できる大会で2万5000人から5万人の競技者を呼ぼうと考えています。応援に来る人や競技後の観光が予想されるため、経済効果は大きなものが期待でき、これら3つのメガスポーツイベントを活用することも重要です。

 外国人が増えて、交通機関のことや、クレジットカードが使えない店が多いこと、ナイトライフの不足など色々な困りごとが寄せられています。そういった課題に官民連携で取り組むことが大事です。

 最後に、2020年4000万人と言う目標に向けた課題を整理します。
 一つは意識改革です。安倍政権は少子高齢化の中で観光業を基幹産業化としていく方向で取り組んでいます。観光に携わる方々は、まだほとんど内需頼りです。それを外国人をいかに呼び込むかという方へマインドセットしなければなりません。日本人は、外国人と見ると目をそらしたり逃げたりしてしまうことが多いです。それでは多くの外国人は歓迎されていないと感じます。一般の人々についても、笑顔でお迎えするような運動をやるべきではないかと思っています。

 それから観光産業の裾野拡大です。先程の外国人の困りごとのような新たなニーズが生まれ、解決のためのビジネスの機会が生まれます。

 さらに、地方への誘客を進め、首都圏の空港キャパシティやホテル不足の改善、またそれらを地方にも増やしていく。

 最後に、観光産業の質の向上で、やはり労働生産性向上が大きな課題です。産業別労働生産性の水準をアメリカと比較すると、日本は一般機械、化学などはとてもいいのですが、観光産業は非常に低い。ここをしっかりと上げねばなりません。

 JNTOは、多くの外国の方々を全国津々浦々に誘客し、稼ぐ観光産業への脱皮と基幹産業化に貢献したいと取り組んでいるところです。


   ※2017年8月2日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。