卓話


ポイント事業の過去、現在、未来

2016年7月27日(水)

グリーンスタンプ(株)
代表取締役社長 春日政彦君


 現在、国内では年間約9,000億円相当のポイントが発行されていると言われていますが、ポイント事業のルーツは1896年にアメリカで始まったスタンプ事業に遡ります。これは、買物をして貰える「トレーディングスタンプ」という切手状のシートを貯めてカタログの商品と交換できるサービスのことで、消費者にとってはスタンプを集めて商品と交換するという楽しみがあり、お店にとってはお客様の固定化と信頼関係の基盤を作ることが大きな狙いでした。

 その後、消費拡大に伴い顧客囲い込みのためのシステムとして急速に広まり、最盛期を迎えた1960年代には大手スーパーの7割以上がこのシステムを採用し、全米8割以上の世帯に普及、業界全体の規模は、当時(約60年前)で2,000億円をはるかに超えていたようです。

 しかし、1970年代に入るとディスカウント店の台頭による価格競争やインフレなどで「スタンプのコスト分だけ価格が高いのでは?」という反スタンプ論が起こり、消費者、導入店共にこのサービスから離れはじめスタンプ事業は衰退の一途を辿ります。

 ところが、1980年代初めには会員制のマイレージサービスとして形を変え市場に戻ってきます。その後、レンタカー、ホテル、食事、買物、提携クレジットカードの使用でもマイルを付与するなど多角的なサービスへと変貌し、現在でもFFP(フリクエント・フライヤー・プログラム)と呼ばれ、顧客の固定化に有力な戦略となっています。

 一方、日本でトレーディングスタンプ事業が始まったのは1960年代の初めです。スーパー業界を中心に拡大しましたが、アメリカのように多くの世帯への普及ではなかったので大きな逆風も吹かず、1980年代後半から手間がかかる紙のスタンプからポイントカードへとスムーズに移行されていきます。

 1990年代以降、アメリカも日本もポイント付与に留まらず、購買行動の分析や顧客ロイヤルティ向上の会員制サービスとして航空会社、クレジット会社に加え、様々な流通業界が市場に参入、また相互提携のポイントによる一大市場が形成されました。

 現在日本では、あらゆるポイントが市場に氾濫、家電量販店、スーパー、ドラッグストア、クレジットカード会社、通信会社、航空会社に加え、共通ポイントと呼ばれるTポイント、ポンタ、EC系の楽天ポイント、更にSuica、WAON、nanacoを始めとした多くの電子マネーが市場に参入しています。市場の成長は喜ばしいことですが、本来の目的である顧客の固定化、競合他社との差別化、会員様への特別のサービスが達成できているかに疑問が残ります。

 その理由は、
多くの店舗や企業がポイントサービスを導入し、ポイントが当たり前という状況。
△曚箸鵑匹離櫂ぅ鵐箸蓮競合他社のポイントに交換できる仕組み。
消費者の多くが複数枚のカードを所有し、同一店舗でも異なるポイントサービスから選択でき、ポイントサービス自体が店舗を選ぶ理由にならない。
て碓貪絞泙罵諭垢淵櫂ぅ鵐肇ードを利用することで、個人が複数のIDを持ち、購買や行動データが曖昧になるからです。

 今後もポイント発行額が堅調に伸びていくと、個人が所有するカード枚数も増え、利用の手段も多岐にわたり、個々のカードの保有ポイントや利用期限などの管理が煩雑になっていきます。

 近い将来に、すべてのポイントカードはスマホ内に集約され、管理や運用をするアプリの開発が進んでいくでしょう。アプリもやがては人工知能(AI)が搭載され、貯めたポイントで何がしたいかをインプットしておけば、自分の購買履歴をビッグデータの中から解析して、その店舗で利用するためにベストなカードの種類や利用サービスを瞬時に判別してくれるような時代がやってくるかもしれません。既に金融界の株取引では、コンピュータを駆使してアルゴリズムによる自動売買が超高速で行われているのです。

 しかし、反対に市場が縮小する可能性もあります。過度なポイント付与が当たり前という時代になれば、1970年代初めにアメリカで起きたように「ポイント分だけ値上がりするのであれば、値引きしてほしい」と消費者は思うようになり、会員制サービスの雄として君臨してきたポイントプログラムにも長く暗い影が落ちるようになるかも知れません。


金融の過去・現在・未来

2016年7月27日(水)

みずほフィナンシャルグループ
常任顧問 塚本隆史君


 今日は「金融の過去・現在・未来」というテーマで、金融の技術進歩と金融の役割という二つの軸でトピックを絞ってお話しさせて頂きます。

 最近様々なメディアでよく使われるFinTechとは、金融とテクノロジーを融合させ新しい金融サービスを提供していこうという取り組みのことです。海外に目を向けるとケニアでは携帯を使って銀行口座がなくてもキャッシュレスで決済が可能となるM−PESAという仕組みを普及させ、従来銀行サービスを受けられなかった人々に新たな金融サービスの可能性を拡げています。先進各国の金融においては融資の分野で、FinTechを用いてネット上で少額の資金を集め、これをスタートアップビジネスへの投資や消費者ローンに利用する仕組みが生まれています。また様々なビッグデータを人工知能で分析し融資の審査に活用することにより迅速な貸出が可能になりつつあります。このようにFinTechはモバイル端末とインターネットの急速な普及の恩恵を受けながら、金融サービス提供の在り方を大きく変えつつあります。

 さて現在日本の銀行は、国内では経済に活力を呼び起こすためにイノベーションを通じた生産性向上や成長分野の掘り起こし、そしてスタートアップビジネスの育成等に取り組んでいます。金融業は企業の成長に資するリスクマネーを中長期的な観点から提供していくことが大切であり、そのためには例えば成長が期待される農業の6次産業化や健康産業・医療介護事業の育成支援ファンドへの出資、また再生可能エネルギー事業への融資などを活発に行っています。

 ここで2008年のリーマンショックについて考えてみます。その背景として言われることがある「経済の金融化」とは、実体経済に比べて金融経済の方が相対的に大きくなっていくことで、金融化が進むにつれ経済全体の中で金融市場や金融業のウェイトや取り分が大きくなるとともに、一般個人も金融で利益を得ようという動機が強くなっていきます。20世紀の終盤から欧米金融市場でヘッジファンドなどの新しい金融業が高度な金融工学を駆使し巨額の利益を上げるようになると、伝統的な金融機関も収益拡大のため自己勘定でトレーディングや投資を行いました。様々な金融技術を用い借入調達した資金も注ぎ込んだ競争が過熱した結果、一部欧米金融機関の財務構造は脆弱な体質になっていきました。そこに起きたリーマンショックは金融機関に大きな打撃を与え世界経済を不況に陥れましたが、幸いにして日本の金融機関は、欧米勢ほど手痛い影響を受けませんでした。これは日本の銀行業が歴史的に担ってきた役割期待とも関わりがあると考えられます。

 日本で最初の銀行である「第一国立銀行」は、明治6年に渋沢栄一によって設立されました。生涯500社の営利事業の設立・経営に携わるとともに600の社会事業に関わった渋沢栄一は、国の発展のためには商工業の振興が重要であり、そのための殖産興業を支える存在として必要である金融は実体経済の発展、国家社会の発展に資することに本分があると考えました。この信念は当時の我が国の金融にとって不可欠な見識でありました。

 これからもFinTechと呼ばれる金融と情報通信技術の融合は、お客さまにご満足いただける新サービスを生み出し、ますます重要となっていくでしょう。一方で世界の金融緩和がもたらす豊富な資金が金融資産に流れ込んでいく中で、金融バブルが再び起きないように金融業は自らの役割を強く意識し、実体経済と二人三脚でその成長を後押ししていくことに全力を傾けていかねばなりません。

 これまで経済社会の発展に貢献してきた金融は、実体経済を支え続ける一方で、自らが実体経済に大きな影響を与えうる存在になってきています。金融業の果たすべき役割とは何かということを歴史に立ち返って考えてみることが、今ほど求められている時代はないでしょう。