卓話


元気と長生きの知」〜音楽から見えてくること〜 

2008年12月10日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

音楽評論家・作詞
湯川れい子氏

 私は,ある時から,音楽というのは,単に趣味趣向で聴くだけのものではないということに気がつきました。そのことに気づかせてくれたのは,実はビートルズの来日でした。

 当時は,著名な政治評論家が「なんだか知らないが…。あの髪の毛を長くした,うるさいエレキギターを弾く奴らに,神聖な武道館を使わせるのはけしからん。百害あっても一利もない奴らに貴重な外貨を使うとは何事だ」というようなことを,本気で言っておられました。

 当時,私はビートルズに夢中で,ラジオのDJなどをやっておりましたが,こんなかわいらしい,こんなハッピーになろうという歌のどこがいけないのかと思っておりました。

 明治時代,日本にはクラシック音楽だけが入ってきました。クラシックが良い音楽で,ポップスやロックが悪い音楽だと言うのはおかしいのではないか…。

 そこから,いろいろ考えるようになり,やがて出会ったのが,西洋にある音楽療法というフィールドでした。そしてそれを勉強して,さらにとっても面白いことに気づきました。

 世界中の宗教には歌と踊りが付き物です。民話もそうです。日本で一番古いお話である『天の岩戸』も,歌と踊りが付いています。

 外国でも,『ダビデ王』では,ダビデの弾く竪琴,その昔は太陽神であるアポロンが弾く竪琴を聴くと,血がきれいになって病気が直るというギリシヤ神話があります。

 旧約聖書もそうです。砂漠を40年間,モーゼと共にさまよった人たちが,毎日,歌を歌って自分を元気にしました。

 こういう話は枚挙にいとまがありません。

 私は,「人が苦しんでいるときに,音楽はどういう働きをしてきたのか」ということに,とても興味を持つようになりました。

 アメリカでは,1939年頃に音楽療法学会ができています。日本では,ビートルズが来日した3年後あたりに,初めて『音楽療法』という本が翻訳されて発売されています。

 音楽療法というと難しい学問のように思えますが,音楽を聴くことで,脳や細胞や,体の中の水分などがどのような働き方をするのかということです。

 音楽が持っているリズムには心地よさがあります。邦楽でもクラシックでも,それぞれリズムを持っています。あのビートルズの音楽のリズムは,若者にとって,心地よかったのです。

 当時,エレキギターを聴くと不良になると補導されていく子供たちを,私は弁護できませんでした。先生を説得できませんでした。でも今ならできます。

 音楽療法の世界には,16世紀頃に,ドイツの医師が見つけた「同質の原理」というものがあります。

ものすごく落ち込んでいる友人を慰めるときに,「くよくよしないで,一緒にカラオケにでも行って,パアッとしようよ」などと言うのは,「自分の苦しみは誰も分かってくれない」と,かえって,その人を落ち込ませることになるのです。

 14世紀頃から16世紀辺りの間に,ヨーロッパのお医者さんが,「鬱病の人に音楽を聴かせるときに,決して陽気な楽しい音楽を聴かせてはいけない」ということを見つけて下さいました。

 患者さん本人に音楽を選ばせると,陰々滅々とした音楽を選ぶのだそうです。それを聴きながら,心情的に同化して涙をこぼしたりしながら,実は少しずつ少しずつ元気になっていく。そして,次第に明るい音楽を選ぶようになっていきます。鬱病が治る頃には,誰が聴いても気持ちのいいウインナワルツを聴いて楽しめるようになってくる。そこに,同質の原理が働いているというのです。

 体はエネルギーに溢れていて,しかも抑圧感を感じるときには激しいロックを聴いて,その中で自分のエネルギーを発散させ,ロックが持っている同質のエレメントに同感しながら自分を解放していくと,非常に落ち着いて,やがて静かなクラシックにも同感できるようになるのだということを,西洋の医師が見つけてくれていたわけです。

 ある実験の話をします。

 二十日鼠のグループを三つに分けて,Aグループには,ガチャンとかガラガラとか,不愉快な音を,ずっと聞かせます。

 Bグループにはホワイトノイズを聞かせます。ホワイトノイズというのは,意識しなくても聞こえる宇宙の基本音です。深夜,テレビ放送が終了した後のノイズを連想してください。

 Cグループには,片寄らない,様々のジャンルの音楽を聞かせました。

 10日間程経って,二十日鼠の行動を調べてみると,Aグループでは,チーズのある場所に行くにも,水を飲みに行くにも,ミスの多い落ち着きのない行動が目立ちました。

 Bグループでは,学習能力として,チーズの場所と水を飲む場所を識別できるようになると見られる行動をとるようになりました。

 Cグループでは,的確に,チーズの場所,水を飲む場所に,真っすぐに向かっていくような行動を示しました。

音楽を聴くと,どこの脳がどのように活動するかが分かってきています。音楽ではなくても,おなかの中でお母さんの声を聞いていた赤ちゃんに,誕生して直後にお母さんの声を聞かせることが,実はとても大切なのです。

 新生児室にすぐに連れていく前に,是非,お母さんの声を赤ちゃんに聞かせてあげてくださいと,お願いをしたりしているのですが,音楽と限定しなくても,おなかの中で聞いていたお母さんの心臓のリズムや,羊水ごしに聞こえてくるお母さんの声に反応して,最も安全な,自分が保護されている,存在しているという確信が芽生えます。

 赤ちゃんが泣いたときに,「どうしたの」と直ぐ聞いてくれるお母さん。そこにコミュニケーションの原点,大人を信頼し,自分も大きくなっていこうとする原点が育つのです。

  戦後は西洋式に,分娩後に赤ちゃんをすぐ新生児室に分離して,時間授乳というとても非動物的なこともやってきてしまいました。

 これらもコミュニケーションできない人間,大人になることの意欲,ひいては知性まで奪うことになってしまうということも,いろんな形で分かってきています。

 健康法は呼吸法だともいいます。

 音楽が好きかどうかは別にして,単に音楽を聴いて,それに自分の呼吸を合わせるだけで,体の中には大きな変化があるということが,最近の脳の世界,医学の世界でも分かってきました。

 各国にいろいろな健康法がありますが,それらすべては「呼吸」に行き着きます。太極拳,ヨガ,日本でも,声明や念仏を唱えることで苛酷な修行に耐える呼吸を使うということなどが,とても大事なことのようなのです。

ちょっと今日は疲れたなと思ったら,鼻から息を軽く吸って,お臍の3センチぐらい下の丹田に意識をおいて,口からゆっくりと息を吐き出してください。長くゆっくりと吐いてください。

 この呼吸法を,一日5回から10回ぐらいやると,具合の悪いところが直ってしまうことが実感として分かっていただけると思います。

 無邪気という言葉があります。子供の体は柔らかくて水々しいものです。大人がいつまでも水々しくありたいと思うなら,無邪気でいることです。

体の形は心の形です。無邪気になってみてください。幼稚園児になったつもりで,体を動かしてみましょう。何かが少し変わる筈です。

 私は,両手を合わせたり両手を広げたり上にあげたりしながら,明るく大きな声で,次にこんな歌を,ゆっくりと歌います。
『せなかの くろい みずたまが
ぽっかぽっか ぽっかぽっか してくると
はねが ぴかりと つよくなる
ばらのつぼみに のぼった とんだ
むぎのほさきに のぼった とんだ
おひさまよ おひさまよ
わたしはあなたが だあいすきだ』
てんとう虫の気持ちで歌いましょう。

こんな歌に合わせて指遊びをします。
『かっぱ かっぱらった
 かっぱ かっぱらった 
かっぱ ラッパ かっぱ らった
トテチテタ パンパン(手拍子)
かっぱ なっぱ かった
 かっぱ なっぱ いっぱ かった
かっぱ なっぱ きって くった』
 谷川俊太郎さんの詩です。楽しい言葉のリズムが,気に病んでいたことを忘れさせてくれるほど,気持ちを楽にしてくれます。こういうことを無邪気にやります。そしてゆったりした呼吸法も合わせてやります。具合が悪い時には,吐く息が長く続きません。だから健康のバロメーターにもなります。

 このような健康法が長生きの智恵だと思います。役立ててくだされば嬉しいです。