卓話


ロータリー理解推進月間例会
職業奉仕の原点

2007年1月17日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

RI第2680地区 パストガバナー
田中 毅 氏(尼崎西RC)

 職業奉仕は、アーサー・フレデリック・シェルドンが提唱した考え方を、そっくりそのままロータリーが受け入れた、他の奉仕団体には存在しない独自の奉仕理念です。従ってどんなに優れた考え方であったとしても、シェルドンの考え方と異なる考え方を、職業奉仕理念と呼ぶわけにはいきません。すなわち、職業奉仕の理念を理解しようと思ったら、シェルドンが書いたり語ったりした一次資料に接することが必要です。しかし残念なことには日本ではシェルドンの文献はほとんど紹介されておらず、後世のロータリアンが書いた二次、三次の資料や伝聞によって職業奉仕が語られてきたのが現実です。

 東洋思想の影響からか、日本のロータリアンの多くは職業奉仕に大きな関心を抱き、多くのロータリーの指導者たちが職業奉仕を説いていますが、シェルドンの職業奉仕理念とはかけ離れた解説もかなり多いようです。仏教やキリスト教を引き合いにして職業奉仕を語ったり、天職論を展開する人も多いようですが、それはその人の考え方であって、シェルドンの職業奉仕理念とは程遠いものであることを強調しておきたいと思います。

 「職業奉仕」の理念は,資本主義社会が花開き,かつ苛酷なまでの自由競争のシカゴの街で,実業人が如何に収益を上げながら事業を守っていこうかと考えているなかで,「職業奉仕」は必ず世の中の道徳的なレベルを上げていきながら,しかも,自分の事業を守っていけるという理念として発表されました。

 シェルドンは都合4回の国際大会で,職業奉仕の理念を説いています。

 すなわち,1910年のシカゴ大会におけるスピーチ,1911年ポートランド大会における『私の宣言』というスピーチ,1913年のバッファロー大会における『事業を成功させる哲学と職業倫理』というスピーチ,そして1921年のエジンバラ国際大会での『ロータリー哲学』というスピーチであります。

 この四つのスピーチは,すべて,「He profits most who serves best」という職業奉仕のモットーを解説しています。なお,これらのスピーチ原稿の翻訳は,私のホームページの『ロータリーの源流』などで発表しておりますので,参考までに申しあげておきます。

 アーサー・フレデリック・シェルドンは,1868年,ミシガン州バーノンで生まれました。ミシガン大学経営学部修士課程で販売学を専攻しています。当時,経済学はメジャーなものでしたが経営学というのは,ほとんど知られていない存在でした。そのようななかで,彼は販売学・セールスマンシップを専攻したのです。卒業後,図書販売のセールスマネージャーとして頭角を現し,1899年には出版社の経営を任されるまでに成功しました。

 1902年,シェルドンはシカゴでビジネススクールを開校し,サービス理念を中核にした販売学を教えました。シェルドン・ビジネス・スクールの広告の冒頭には「人生のあらゆる面は、運ではなく、自然の法則によって定められている。成功しているセールスマンとて、例外ではない。」と記載されています。

 シェルドンは1908年にシカゴRCに入会し,すぐに情報拡大委員長に任命されます。1910年には全米RC連合会で初代のBusiness Method委員会の委員長を務めます。

 1910年にシカゴで開かれた第一回全米ロータリークラブ連合会の年次大会において、彼は,初めは「his fellow」という言葉を加えて「He profits most who serves his fellow best」という言葉を披露しました。

 彼は、どんな手段を講じようとも、富を得たものが成功者としてもてはやされた19世紀の利己的な経営手法を批判すると共に、単に自分だけが儲けようという商売から脱して、他人に対してサービスすることが、事業を成功させる方法であることを力説しました。20世紀の実業人を成功に導く方法は、利益を他人とシェアするというサービス学を遵守することであると説き、その理念を端的に表す言葉として、He profits most who serves his fellow best というモットーを発表したのです。現在使われている第二モットーに his fellow という単語が余分についており、「自分の事業に関係する人たちに、最も奉仕した人が、最も多く報いられる」という意味です。

 素晴らしい奉仕理念の提唱であったにもかかわらず、このスピーチの内容を理解できた人はほとんど無く、従って反響はゼロに等しいものでした。当時の人たちが、「奉仕・・サービス」という言葉から思い浮かべることは、「神に対する奉仕・・・教会」「国に対する奉仕・・・兵役」「主人に対する奉仕・・・召使」といった程度であって、経営とサービスとを結びつけることに思いを馳せる人は誰もいなかったからです。

 1911年の第2回のポートランド大会では,彼は「He profits most who serves best」というテーマを発表します。彼はそこで「サービス」とは何かを説きました。その内容が参加者に極めて強い印象を与えたため,大会議事録として配付された報告書に全文が印刷されたうえ,会合で決められたロータリープラットホームの結語として「He profits most who serves best」を使うことが満場一致で採択されました。こうして,この言葉を正式のスローガンとした名文が生まれます。

 ポートランド大会での『私の宣言』と題するスピーチを要約するとこうなります。
・事業を営むことは経営学という学問を実践すること
・事業の発展は末長く利益をもたらす顧客を確保すること・・・販売学
・人間の成功は自然の法則を調和させることで得られる
・利他の心をもって他人の成功を願うことが、自らが成功する秘訣である

 このスピーチは会員の心を強く打ち,スタンディグオベーションで讃えられたという記録が残っております。

 1913年のバッファロー大会では,1911年に述べた内容を更に具体的に説明し,彼独特の教育学を話しています。タイトルは『事業を成功させる哲学と職業倫理』で,その内容は次のとおりです。
・大きなServiceを行えば大きなprofitsが得られる 原因結果論
・Serviceを行った人が現世においてうけ取る見返りがprofitsである
・ 黄金律を実業界に適用した言葉が He profits most who serves bestである
1921年のエジンバラ大会でのスピーチが最後のスピーチです。『ロータリー哲学』というすばらしいスピーチでした。
・奉仕は継続的な利益を得るための人間関係の基本的法則
・職業奉仕はリピーターを得るための科学的かつ道徳的な経営方法
・職業は利益を得るための手段ではなく社会に奉仕するために存在する
・実業家の倫理基準を専門職種の倫理基準に引き上げる

 いずれも現代に通ずるものがあります。
 彼はここで『幸福の三角形』という図式をかいています。底辺にはM,左右の辺にLとC。中心にはHを置いた三角形です。
L:Love & Respect(同僚からの愛・尊敬)
C:Conscience(良心・自尊心)
M:Money(物質的な富)
H:Happiness(幸福・満足)

 彼は,職業奉仕の実践をすれば必ずそれらに見合ったprofitが得られると言います。

 もう一つ彼は『奉仕の三角形』という図形をかいています。底辺にはM,左右の辺にQ1とQ2。中心にSを置く三角形です。
Q1:Right Quality  (正しい質)
Q2:Right Quantity (正しい量)
 M :Mode of Conduct (正しい様態)
S :Satisfactory Service
(満足感のある奉仕)

 彼は,顧客に満足度を与える具体的経営方法について,適正な価格,経営者従業員の接客態度,豊富な品揃え,公正な広告,取り扱い商品に対する知識,アフターサービスなどがうまく機能している事業所には必ずリピーターがつくし新規の顧客も獲得できる。こういう会社は結果として高い職業倫理につながっていくと述べています。

 彼は事業における人間関係学の立場から,
・自分が職業上得た利益は自分一人のもので はない。
・自らの事業は従業員,取引業者,顧客,同業者によって支えられている。
・これらの人々と利益を適正に配分すれば自らの事業は継続し発展することを,自らの事業所で実証する。
・自らそれを実証することによって、業界全体の職業倫理を向上させる。

 すなわち事業上得た利益は、決して自分一人で得た利益ではありません。従業員、取引先、下請け業者、顧客、同業者など、自分の事業と関係を持つすべての人々のおかげで得たことを感謝し、その利益を適正にシェアする心を持って事業を営めば、必ず最高の利益が得られることを自分の職場で実証し、その方法こそが正しいやり方であることを、地域全体の職業人に伝えていかなければなりません。まず、ロータリアンの企業が職業奉仕理念に基づいた正しい事業経営をし、それによって事業が継続的発展をすることを実証すれば、必ずや他の同業者たちもその経営方法を見習うはずです。それが結果として、業界全体の職業倫理高揚につながるはずです。これが、He profits most who serves his fellows best の真意であり、職業奉仕の結論です。
職業倫理訓(道徳律)は1915年に正式に承認され1916年に「A Talking knowledge of Rotary」に収録,配付されました。

 ところが職業奉仕の理念は完成されたと錯覚されて,次第に衰退してまいります。最終的には,すばらしいモットーが第二理念に格下げされ,2001年に使用停止が提案され,それは撤回されたものの,2004年には「They profit most who serve best」と変えられてしまいました。

 最後にシェルドンの職業奉仕理念をまとめて見ましょう。自らが儲けるために職業に就いているという考えを捨てて、顧客の満足度を最優先しつつ、自らの職業を通じて他人に奉仕をするという考えで事業を営めば、その真摯な態度が顧客の心を捉えて、リピーターとして何度も事業所を訪れたり、新規の顧客を紹介してくれるはずです。その結果大きな利潤が得られるとともに、その事業所は継続的に発展していきます。そして、そのような事業所は結果として高い職業倫理を持っているのです。職業奉仕は職業倫理を高揚することではなく、職業奉仕の実践が結果として高い職業倫理につながるのです。

 規定審議会には毎回のようにHe profits most who serves bestを廃止してService above selfに一本化しようという提案が出されています。He profits most who serves bestを失うことはロータリーから職業奉仕理念を取り去ることを意味します。He profits most who serves bestとService above selfの二つの奉仕理念を持っていることがロータリーの特徴であることを忘れてはなりません。