卓話


イニシエーションスピーチ

12月1日(水)の例会卓話です。

大岡 哲 君
山口 竹彦 君 

第4034回例会

「地震国日本と建築」

北野建設(蝓
代表取締役副会長 
  山口 竹彦 君

 今までに無い都市直下型の地震と言われた阪神大震災から10年目を前に、またもや震度7の直下型地震が10月23日新潟中越地方を襲いました。
 日本列島は世界有数の地震の巣窟であり、我が国の建築技術の変遷も、地震の挑戦に対して応戦を繰り返してきた歴史といっても過言ではありません。

 日本が誇る最古の木造建築物として世界遺産ともなっております法隆寺には、1300年の風雪と地震に耐えてきた高さ約33mの五重塔があります。
この五重塔はどうして地震で倒れなかったのでありましょうか。原理的には、一つは「やじろべえ」の原理です。足の長い「やじろべえ」を指の先に乗せて指を左右に早く動かしても、「やじろべえ」は一緒に動かず、ゆっくりと揺れるあの原理であります。地震の時の五重塔の動きを観察すると、一層目の屋根が左に揺れると二層目は右に、三層目は又左にと蛇がうねるように揺れて、地震のエネルギーを「柳に風と」受け流していることが確認されております。
もう一つ重要な働きをしているのが、塔の中心に建っている「心柱」です。この「心柱」は塔の重量を支える役目は担っておらず、各層の揺れをある限度に抑える働きと、塔全体の揺れを止めバランスを保つ働きをしているようであります。
また、五重塔の中に入ってみますと、複雑に木組みが組まれていて、この木組みが地震や台風の揺れを吸収する役割も果しています。

 この日本古来の耐震建物の智恵は、どのように現代の建物に活かされているのかということでありますが、我が国は明治の文明開化と共に、欧米の建築技術を取り入れるのに急で、まず中央官庁街を全てレンガ造としました。しかし、レンガ造が地震に弱いとわかると、鉄筋コンクリートによる耐震建築を目指してきました。

 現在では、更に耐震性の強い構造を目指して、鋼管の柱の中にコンクリートを詰めたCFT構造とか、鉄筋コンクリートの中に更にピアノ線を通したPC構造、あるいは高強度のコンクリートなどといったものも開発されています。

 また、鉄筋コンクリートに代表される剛構造の耐震性というのは、どんなに揺れても壊れない「強い建物」を目指す方向ですが、五重塔が示唆するように自然に逆らうことなく地震のエネルギーを逃がす方法もあります。

 その一つが、やはり阪神大震災を契機として有効性が評価された「免震構造」です。免震という原理は、震動を免れるという文字が示すように、揺れる地盤と建物を絶縁して建物自体が揺れないようにする方法です。よく使われるのは厚さ数个療竿弔肇乾爐鮓澆ぐ磴い某十枚重ねたものを接着した装置です。

 もう一つ地震時の揺れや変形を1/3から1/2程度に小さくできる方法として、制振構造があります。五重塔では、各層が別々に動いて擦れ合いながら地震のエネルギーを減衰させています。現代の制振構造は自動車の振動を吸収するショックアブソーバーのようなものを建物の中に取り入れることにより、地震エネルギーを吸収させて、建物の揺れを小さくするものです。

 また、予め耐震診断を受け、地震の揺れに対して補強しておいた方がよい箇所に 耐震工事をほどこしておくというのも有効な地震対策でありましょう。

 このように我が国の建築技術は、地震という自然災害に耐えられる建物を目指して向上を続けてきました。今後も世界有数の地震国として、耐震性に優れた建築を開発して世に出して行くことは、地震国日本の使命であろうかと思います。人智の及ばないところも勿論多いわけでありますが、出来得る手はなるべく打っておくというのが、現代に生きる我々の選ぶべき道ではないかと思う今日この頃です。

       以上

「競争力」を考える

日本大学教授 
 大岡 哲 君

 競争力とか国際競争力いう言葉は、世上、よく使われています。しかし、その割に漠然としています。実は、経済学的にもきちんとした定義はないのです。いくつかの論点を申し上げてみたいと思います。

 第一に、国際競争力の主体は誰かということ。外資系企業をどう考えるかということです。外資系の企業といえども当然、わが国の企業に含めて考えるという見方が一般的ですが、この見方に立つと海外進出している日系企業は、日本の企業ではないということになってしまいます。簡単に、わが国の国益とか「日本」の国際競争力と言いますが、どういう企業をわが国の産業力に含めて考えるか、グローバル化時代にあって、意外に難しいしいところです。

 第二点目が、競争力の指標は何かということ。実は、国際競争力の指標は存在しません。確かに「競争力ランキング」がいくつか発表されています。スイスの有力なビジネススクールIMDが発表しているものでは、ベスト5は(胴餃▲轡鵐ポールカナダぅーストラリアゥ▲ぅ好薀鵐匹如日本は第23位です。日本の競争力は低下したと嘆かれるかもしれません。しかし、他の先進諸国をみても、独21位、英22位、仏30位であり、余り悲観しすぎることもないようにも思います。

 また、このランキングは、各国のビジネス環境――企業活動をやりやすいか、やりにくいかという度合い――を評価したもので競争力自体を評価したものではないことです。

 次に、貿易面から考えるものがあります。この立場では競争力は、世界の輸出市場における、その国のシェアになります。しかし、この場合、同じような経済力の国でも、内需中心の経済では、「競争力」が非常に低くなり、逆に外需中心の国は高く表れる傾向があります。

 貿易収支をもって、国際競争力の指標と考えることもよく行われます。しかし、経済力の貧しい小さな国でも、貿易収支は大幅黒字のこともあるし、また米国のように、巨額の貿易赤字の中で、競争力が向上しているケースもあります。競争力低下がいわれる日本も大幅黒字。貿易面に国際競争力は集約されるというのは、無理があります。

 つぎに、生産力のサイドから考えるものがあります。考えられるのが国民一人当たりのGDPです。この数値で第一位はルクセンブルグです。上位の常連はスイス、ノルウェー、デンマークと、米国、日本です。こうした数字からみると、日本は競争力も強く、国民はそれぞれに十分豊かであるようにも見受けられます。

 この指標は、換算レートによって大きな影響を受けます。たとえば、97年をみると、日本は4位、米国6位、99年と2000年は日本2位、米国4位という順番でした。日本の方が、米国より国際競争力が上でした。

 一人当たりのGDPの違いを生じるもとは、労働生産性の格差。従って競争力は労働生産性であるという有力な考え方があります。しかし、生産性は景気と正の相関関係があり「景気よければすべてよし」みたいな面もあります。また、資本とか技術とかすべての要素を勘定にいれた全要素生産性というものを考えるべきだと言われますが、必ずしも現実を反映しない、現実と遊離したものにもなってきます。

 第三の論点は、そもそも国際競争力とは何なのか、意味あるのかということです。

 競争力は意味のない不要な概念だと主張する経済学者も一方にいます。確かに競争力とは、少なくとも、単一の指標で表すことはできません。様々な指標を総合的に検討することから導き出せるものであり、そこから一国の経済状況についてかなり妥当性を備えた認識を導き出せるはずです。こうしたアプローチは,十分意味のあるものと私は考えております。