卓話


経営者の社会貢献

2016年12月7日(水)

日本アイ・ビー・エム(株)
相談役 北城恪太郎君


 情報産業における最近の話題は何と言っても人工知能(AI)ですが、AIに関する記事を新聞紙上で読まれている方も多いと思いますので、今日は、私が現役を退任した後、取り組んでいる二つの仕事について、お話させていただきます。

 一つは、若い会社を支援するために、ベンチャー企業の社外取締役を務めていることについてです。アメリカで時価総額の大きい企業の上位5社はベンチャー企業です。日本でも政府の成長戦略の中で、ベンチャー企業の重要性が語られていますが、こうした企業がなかなか育っていません。

 その理由の一つに、創業時点での資金調達の難しさがあります。事業の実績の無いベンチャー企業に金融機関が融資することには無理があります。創業時にはリスクマネーである資本金を集める必要がありますが、その出し手の多くは、知人、友人、親族などの個人です。そこで、個人が50万円、100万円程度の資本金を出すことを支援するために、2008年にエンジェル税制と呼ばれる創業支援税制の大幅な拡充が行われました。この結果、創業期にあるベンチャー企業に個人が資本金を出した場合には、投資した資金が寄付金と同じように所得控除されることになりました。例えば、所得の高い人が、ベンチャー企業に100万円投資すると約40万円税金が安くなるという優れた創業支援税制です。しかし、あまり知られていないので、利用件数が少ないことが残念です。

 もう一つの問題は、ベンチャー企業が優れた製品、サービスを作っても、法人向けのビジネスでは、既存企業に採用してもらうことが難しいのです。この問題を解決するためには、社会的に信用のある人が、ベンチャー企業の社外取締役に就任して販売を支援することが有効です。私が関係するベンチャー企業が大手企業に製品を販売する際には、面識のある社長、会長に連絡して担当役員を紹介していただき、その方にベンチャー企業の経営者が訪問して製品を紹介すると、良ければ採用いただけます。私は現在、ベンチャー企業3社の社外取締役に就任して若い会社を応援しています。

 もう一つの取り組みは、若い人を育てるために、国際基督教大学(ICU)の理事長を務めていることです。日本社会が大きく変化し、経済界からは、大学改革の必要性が指摘されていますが、なかなか改革が進みません。これは、日本の大学の多くが、改革を実現することが難しい仕組みで運営されてきたためです。すなわち、大学の教育、研究に関する意思決定は教授会で行われており、大学の責任者である学長には充分な意志決定の権限がありませんでした。幸い、2015年4月に学校教育法の93条の改正が施行され、最終的な意思決定は学長が行うことが明確になりました。

 大学の組織運営の残された課題は、多くの大学では教職員の意向投票の結果で学長が選任されていることです。大きな改革を目指す学長候補者は、しばしば現状維持を求める教職員による投票の結果、選ばれないことが起こります。特に日本の多くの私立大学においては、教授の処遇は、教育、研究の成果を評価することなく、基本的には年齢で一律に決まってしまいます。勿論、現状でも努力される教授は沢山いるのですが、努力してもしなくても同じ処遇では悪平等になってしまいます。こうした制度を改革しようとする学長候補者は、意向投票の結果、選任されないことが起こり、改革が進みません。優れた学長が選任されリーダーシップを発揮できる仕組みを作らなくては、日本の大学改革は進展しません。経済界、行政などの多様な経験を持った方々が、大学の理事、評議員に就任して、大学の組織運営の仕組みを変えることが大切だと思っています。

 若い会社を支援するために、ベンチャー企業の社外取締役を務め、若い人を育てるために大学の理事長を務めていますが、こうした活動は、経営者OBの社会貢献の一つの形だと考えています。


国の決算書の話

2016年12月7日(水)

平野公認会計事務所
公認会計士・税理士 平野昭宏君


 財務省HPで『国の連結財務書類』で検索すると、200頁過ぎに国の連結財務諸表が掲載されています。作成が始まって15年程になりますが、見られた方はおられますか。私自身偶々勤めていた監査法人がその作成に関与していたのでこれを入手し分析してきました。

 別紙1のように連結貸借対照表(1)、連結業務費用計算書(2)、連結資産・負債差額増減計算書(3)と連結資金収支計算書・注記等からなっています。前3表は貸借対照表=BS、損益計算書=PL、剰余金計算書=SSに近似しますが、唯一最大の相違は、収入がPLになく、SSに表示されている事です。地方自治体の決算書もほぼ同じです。

 しかしそれでは単式簿記の現金出納帳=資金収支表から複式簿記のBS・PLに発展させたことのメリットを享受できません。全ての取引を収入と費用の損益取引と、資産・負債等の貸借取引に分け、全ての収入・費用をPLに集め損得を明確にし、資産・負債・資本を集めて財産状況を表すBSと区別するのです。法人活動の長期収支バランスが取れ永続性があるか、PLは一目瞭然に示します。複式簿記が世紀の発見たるゆえんです。

 そこでSS=資産・負債差額から財源をPL収入に移して、業務費用を控除し業務収支尻(事業利益)とし、更に資産評価差額以下を評価差額等として加減し当期収支尻(当期利益)としました。前年度と当年度の資産・負債差額=純資産増減がPLの当期収支尻と一致します。それが別紙2です。

 平成28年3月の決算書は1年後の29年3月末にならないと公表されないため、27年3月と過去15年の決算内容を概観します。27年3月は資産932兆円・負債1371兆円・純資産△439兆円という債務超過ですが、当期収支尻は9年ぶりに12兆円のプラスに転じました。これは円安による資産評価益等の20兆円を主因とするもので、業務収支尻はまだ8兆円の赤字です。但し平成23年=2011年3月期の当期収支尻△45兆円、業務収支尻△40兆円を底として、アベノミクスの直近3年は大きく改善しています。懸念事項は損益の改善の割に負債、特に国債等の借入額がその3年間でも50兆円台と減少を見せない点です。これは日銀の金融緩和=多額の資金増刷とも関連すると思われるので別紙2には日銀の資金循環表の家計残高の推移も載せています。

 次に直近の国の一般会計予算について述べます。別紙3の図のように一般会計歳入=歳出で96兆円です。これはあくまで単式簿記の現金出納で表したものです。これを複式簿記化するとPL・BSになります。支出のうち債務償還13.7兆円が借入返済の貸借取引であり、収入のうち公金債34.4兆円が借入実行の貸借取引です。従ってPLは収入62兆円費用83兆円で、差額21兆円の赤字です。貸借取引は公債金発行34兆円、同償還13兆円でネット21兆円の借入増です。つまり21兆円のPL赤字を同額の公債発行で補填しています。損益収支でなく資金収支に頼った経営の恐ろしさがここに出ています。永続性のためにはPLを限りなく収支0以上にする必要があります。アベノミクスは経済を刺激して税収を増やし収支を改善する目標は相当達成しています。しかし借金の増加に歯止めがかからず、しかも借入増加率がインフレ率を上回っています。

 業務費用の中で最大の社会保障費は連結PLで46兆円、一般会計予算で32兆円ですが、厚労省のデータでは2015年推定値で年金48兆円、医療・介護50兆円、子育て5兆円、総額112兆円です。2025年には146兆円と+32兆円・1.5倍に達します。医療・介護・保育に係わるものとして国家規模での事業継続の視点が必要です。保育所の需要過大に対し幼稚園は定員割れです。特養の需要過大に対し、老健・有料は定員割れです。無駄を省きPL収支尻を合わせる政策の積み重ねが必要です。収支尻の開示と構成員の共通認識が必要です。