卓話


中国の台頭と日米中関係

2011年5月11日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

慶應義塾大学法学部長 教授
国分 良成氏

 はじめに,東日本大震災に対する中国の対応をご紹介します。

 多くの同盟国から救援隊が駆けつけてくれました。中国も15人の救援隊を派遣してくれました。突然のことでもあり,日本政府の対応にも戸惑いがありました。
 
 こうした事態のなかで,自国の日本大使館にいち早く足を運んだ首脳は,中国の胡錦濤主席です。これは異例のことでした。

 2006年10月,当時の安倍首相が中国に行き,中国との戦略的互恵関係が出来上がりました。この瞬間から,相互が歴史問題に言及することに蓋をしたわけです。

 2008年5月,胡錦濤国家主席が日本を訪問し,天皇陛下にもお会いになりました。

 日本訪問から帰って二日後に,四川大地震が起こりました。日本はいち早く救援隊を派遣しました。中国は「最高指導者の命によって」日本の救援隊を最初に国内に入れました。日本の救援隊は瓦礫の中から,既にこと切れている幼児と母親の遺体を発見し,その遺骸に対して丁重に哀悼の意を表しました。その場面の写真が広く中国に報道され,親日的なイメージが広がりました。

 日本では原発の事故が問題ですが,中国でも大きな問題はエネルギー需要に対応する原発です。これからは原発でのエネルギー需要を増やして10%台くらいにもっていきたいところです。しかし原発への反対運動や疑念が起こっているのは中国も同じです。
1.中国台頭の検証
 胡錦濤氏の側近の戴氏が「中国の核心的利益は中国共産党の体制」であると言いました。これは本質をついた発言です。中国での最大の目標は「現体制の維持」です。この目的を達成する為には「経済成長」が必要です。

 過去の経済成長は,外資に依存していれば達成できました。また,国内での固定資産投資も経済成長を促しました。

 しかし,これから先はどういう施策がよいか,それが問題です。しかも再分配も必要です。第12次5カ年計画では,7%成長がひとつの目安という情勢になっていますが…。

 現在の中国で,輸出のおそらく6割以上は,外資系が関係しています。また,中国全体の税収に占める法人税の3割以上は,外国系企業のものであると推定できます。

 こういう状況ですから,中国は,やはり国際社会の中で生きていかねばならないのです。

 ところが昨年,GDPが世界第2位になった瞬間に,中国の主張が極めて声高になりました。自己主張も強めてきました。これまでアメリカには表面で反発しても結局は妥協してきたのが,ここにきて,名実ともに反論するようになってきました。

 さらには,海洋国家の方向を目指して動いています。韓国との間での激しい衝突や,南シナ海ではもっと激しい衝突もありました。それらの一つとして,尖閣諸島問題があると考えるのが妥当だと思います。

 日本に対してこれまで非常に気を遣ってきたのに,なぜ昨年,急に声高になったか。私は「GDPが第2位になったという客観的情勢に加えて,権力の交代があったから」だと思います。外交は内政の延長上にあります。その関係性を丁寧に見ていくことが大切だと思います。

 中国が,海洋国家になろうとしていることは,中国が民主化しようがしまいが変わらないと思います。海に出ていかない限り中国の成長はないのですから。

 それについての,国民の支持,党内の支持がどうなるか。最大の問題は,膨張する経費です。国防力増強と,社会生活を保障する民生部門へのシフトとのバランスが難しいです。

 中国の政治体制は,江沢民氏から胡錦濤氏へ,そして習近平氏へと代わっていきます。習近平氏が軍のポストに就くことが決まったのが昨年の秋です。現在の中国では,共産主義青年団と太子党,上海派と呼ばれた旧江沢民系の人たちが元気になってきました。現在の体制は,国務院系列の人たちや軍部の長老など,全体のバランスの上に立った政権です。

 1990年代の江沢民氏の時代は,比較的,政敵が少ない時代でした。2000年代に胡錦濤氏の時代になっても,江沢民氏の力は依然として強いものです。習近平氏は元々,江沢民氏に抜擢された人物ですが,昨年の秋,一挙に軍の最高ポストに就くことが決まり,権力の異動が始まったと見るのが,世界中のチャイナウォッチャーの見方です。

 そういう状況の中で,中国が世界中から非難されました。中国は,急遽,国内で会議を開いて対策を立てました。その結果,「中国の発展と自己主張は止められないが,国際社会と協調することも重要である」ということを再確認しました。こうして,胡錦濤氏と習近平氏とのバランスが取られ始めました。

 今年の1月,胡錦濤氏が訪米した際,アメリカは胡錦濤氏を国賓として扱い,彼のありとあらゆる要求を認めました。それが中国の国内に波及効果を与えました。

 中国の最高指導者は胡錦濤氏だという,一種の妥協政治のようなことが行われて,1月〜2月以降は日本との関係もどうにか改善しようという指令が出されています。

 問題は,今の中国の体制です。現在の中国は,ビジネスの世界と政治の世界が完全にスライディング・ドアになっています。富が特殊利益集団に偏在し,しかも非公開です。相続税もない,累進課税も機能していない,個人所得税も機能していないという状況です。

 格差が開き,社会不満が起こっています。土地に関わる問題,政治腐敗もありますが,基本的には,利益の分配と情報の開示が問題です。ここの部分が不透明ですと機会の均等が得られません。中国当局は自信を持っていますが,簡単にいえば,政治的強権による,市場経済の確立です。

 よく誤解されますが,中国は必ずしも中央集権ではありません。ある種の連邦制です。かつての財政配分は,中央が3で,地方が7という割合でした。現在は,半々にまでなっています。ただし,依然として,多くのことは地方に重きをおいて展開されています。

 そのような中国での,最大の問題点は「成長の原動力をどこに求めるか」です。

 今までの成長の原動力は投資でした。一つは海外の直接投資に頼ってきたのが,段々と民族資本を育てて自らがそれをやるようになってきました。さらに財政が豊かになると固定資産投資という形でやってきました。それを地方政府にどんどんやらせた結果として,バブルが起こるという現象になりました。金融危機が起こっても補填の形で乗り越えてきました。これが続くかという問題です。

 もう一つは,輸出で外貨を稼ぎ過ぎたことです。人民元についてのバランスがおかしくなっていますが,それをいじって,全体像がくずれることを怖がっています。

 アメリカが,人民元について慎重なのも,そういうところに理由があると思います。

 普通,成長の原動力は消費です。将来の不安がなければ内需は拡大していきます。第12次5カ年計画では内需の拡大と言っていますが,同時に社会管理,つまりメディアと警察のコントロールにも触れています。
2.日米中の関係
 アメリカは,中国をおかしくすることが,世界経済をおかしくすることだと判断しています。米中の戦略対話を見ていますと,人権のことに触れていますが言葉だけのことで,実態として何もしていません。実はヨーロッパ諸国も同じです。人権対話が形骸化しました。つまり,中国との経済依存がそこまで進んだということです。

 アメリカも,中国の今の体制が壊れることを怖れています。ある意味では,世界各国が中国共産党を支えているといえます。

 現実の米中関係は問題だらけです。アメリカの偵察機は,毎日,中国の沿海を飛んでいます。中国の戦闘機がスクランブルをかけてアメリカ軍の偵察機と衝突した事件もありました。しかし,それらを乗り越えて大人の関係が保たれています。

 全く分からない違いが前提にあることが,米中の対話を密にしています。しかも,中国は譲歩しないようにみえるが何とか妥協点を見つけようと努力していることが分かります。アメリカと対等の関係になろうとしているのです。

 アメリカの前駐中国大使ハンツマン氏は,退任して大統領選挙に立候補されるそうです。代わって,現職の商務長官が赴任します。問題は多いが対立している余裕はないという状況なのでしょう。アメリカ経済の再建にとって中国は必要だとの判断です。テロの問題にとっても,北朝鮮の問題にとっても中国は必要だというわけです。

 台湾の問題は落ち着いています。アメリカは中台の交流を非常に高く評価しています。

 現実として「米中G2時代」が起こった時,日本はどこに行くのか。

 胡錦濤氏が靖国問題を棚上げして,日本と戦略的互恵関係を結んだ当時は,日中関係がうまくいかないと,中国はアメリカともうまくいかないという時代でした。

 ところが,昨年,中国では,日本はどうせアメリカの言いなりになるのだから,中国はアメリカとさえ関係をつければ,日本はついてくるという議論がまかり通っていました。尖閣諸島事件の行動はその現れと見ます。

 この意見はすぐに修正され,日本は大事な国だという扱いになりましたが,その位置づけは相当に下がっています。

 日本ほど技術を持った国はありません。日本ほど真面目な人たちの国はないことが分かれば今度は日本をどう使うか考えるでしょう。

 日本は,イメージで中国を論ずるのではなく,米中関係に学ぶべきです。どうすればお互いが生き残れるかということを考えることが大切であって,好き嫌いの時代は終わったということです。日本は,中国包囲網というような単純思考ではなく,全世界との全方位外交と同時に中国を自国の発展にどう生かすかを考えなくてはなりません。まさに,震災の復興と新しい日本を造るための,大きな転換が必要だと思っています。