卓話


針の穴から覗いた「激動の平成」

2020年1月22日(水)

日本土地建物(株)
代表取締役社長 平松哲郎君


 私は金融業界に35年、不動産業界に7年います。
 昨年2月、元日銀副総裁の中曾様が「激動の平成〜2度の金融危機を越えて」の話をされ、高い見地から金融システムの維持強化に当たってこられた内容に深い感慨を覚えました。本日は中曾様と同じ昭和53年に社会人となった私が、ほぼ同期間金融システムの現場近くで過ごしてきた話を、「針の穴から天を覗く」ような内容ですがお話しします。

 中曾様は、ジャパンマネーが席巻した時から一転してバブルが破裂した平成の時代に、日銀が「預金者を守って日本発の世界金融恐慌は絶対に起こさない」行動をとり、その後のリーマンショックでは主要国協調を主導していったこと、またこれらの貴重な経験を伝承していく大切さを述べられました。

 まず日銀と市中銀行との関りを改めて思うに、金融自由化、日銀法改正などを経て日銀の重みは増しましたが、公定歩合操作や窓口規制のあった私の入行当時と比べると現場からは少し遠い存在になったかなというのが率直なところです。

 それでは、平成に入っての思い出話です。昭和60年代から平成初にかけて大手行は格付けトリプルAを取得、私は支店融資担当者でしたが、土地も株も会員権も必ず上がるという雰囲気の中、各行貸出しを競いあっていました。給料も、高度成長期ほどではないが、ベースアップ3〜4%程度を享受、格付けも給料もそのような状況が当然続くように思っていました。

 そしてバブル崩壊です。89年年末に日経平均が38,957円の史上最高値、以降株価はいち早く下降トレンドに。株価は将来の経済を先取りするといわれることが理解できます。その後総量規制などを経て、92年頃から不良債権が多額になり崩壊の本格過程に入りました。92年から03年の間に本邦金融機関は100兆円の不良債権を処理、すさまじい金額です。銀行は処理を先送りしたとの批判を頂くが、その最中は処理しても足元がどんどん崩れていく様な感じでした。

 制度面もいくつか変わりましたが、中でも影響を及ぼしたのがBIS規制でした。自己資本比率は8%以上必要とするBIS規制は92年末に本格適用。貸出金増加額が自己資本の関数になるというのは大きな意識変革でした。しかし導入当初はバブル崩壊の意識は浅く、株式含み益の資本算入が認められ楽観視していました。一転して不良債権処理と株価下落により苦しい事態です。株式保有はやはり限定的とすべきと教えられました。2000年代に入って暫く8%ギリギリの運営が続き、お客様の借入ニーズにどう対応するか行内でエキサイトした議論を幾度も経験、大手行の最近の自己資本比率が20%程度となっているのをみると隔世の感です。

 2000年代前半で一旦落ち着きましたが、それから何年もしない2008年にリーマンショックがまさかという感じで始まりました。証券化技術の発達がリスクを見えにくくし、情報通信の発達もあり危機が一気に広がりました。資金の出し手が一瞬にして消え、経済の落ち込みも急激でした。主要国中央銀行協調により危機を脱し、私自身はその後不動産の世界に移っております。

 我が国はこの四半世紀以上金融緩和のトレンドにあり、今はいわゆる「マイナス金利」の世界、不動産業界は緩和がフォローの風になり、オフィス市場は高い稼働率、不動産投資市場は運用益を求めるお金が相場を押し上げ、住宅部門も低金利に助けられています。

 今の不動産の価格は高いかまだ上がるかと時折聞かれますが、色々な解説は成り立つが簡単には言えないことと思います。私なりの教訓をあえて申し上げると「経済の実態から乖離した資産価格はあり得ない。かつ経済という言葉は倫理観にしっかりと裏打ちされていることが大前提である」ということです。


製紙産業の最近事情

2020年1月22日(水)

日本製紙(株)
取締役会長 馬城文雄君


 製紙産業の最近事情という事で2つの側面、一点目はデジタル化の進展に伴う紙需要の変化、二点目はその変化に対処すべく業界が目指す事業構造の転換についてお話しします。

 一点目の紙需要の変化ですが、デジタル化の影響を受けているのは印刷媒体のグラフィック系の紙で、中でも影響が大きいのは出版と新聞です。

 紙の出版では、この10年の間に書籍の販売部数は▲24%、雑誌では何と▲59%の大きな落ち込みになっています。ただ電子出版で伸びているのはコミック系の雑誌のみで、実は紙と電子合わせた出版の総量が長期低落傾向にあります。紙・電子を問わず、読書そのものに割く時間がスマホでのゲームや検索に奪われている残念な実態の反映と思われます。こうした中、一方で情報媒体としての紙の価値を見直す動きが最近起きている事にも触れておきます。

 アメリカでは、この数年出版に関して、電子の伸びがマイナスになり紙がプラスに転じています。書店でも独立系の「町の本屋」の復権が始まっており若者を中心とした「デジタル疲れ」が背景に指摘されています。

 日本でも一昨年六本木にオープンした入場料を取る書店が週末には入店待ちも珍しくないなど、書店や出版を巡る潮目変化の兆しが見え始めています。

 続けて新聞用紙の場合、昨年の国内需要はピーク時2005年に対し▲37%の約240万トンまで落ちています。発行部数では昨年1年で▲190万部、年率5%を上回る落ち込み、数字上はこの1年で「北海道新聞社」クラスが2社市場から消えた計算になります。今後更に少子高齢化が進む事を考えると前途の厳しさは続きそうです。

 古くから紙は文化のバロメーターと言われており、殆どの製紙企業はその企業理念に「文化の発展に寄与する」ニュアンスを謳っています。最も文化に関係するこの分野での紙の供給責任を貫きながらも、その落込みインパクトをどう克服していくか、最近の製紙産業事情2つ目の側面として、各社の事業構造転換に向けた取り組みを紹介します。

 紙造りは、木材から繊維分のセルロース及びヘミセルロース、バインダーの役割を果たしているリグニン、これら主要3成分を分離するパルプ蒸解技術からスタートします。今この木材の3成分を余すことなく高度利用することで、究極的にはバイオレファイナリーとも呼べる木材化学工業を目指すのが各社の事業構造転換の取組み方向になりつつあります。

 セルロースでは様々な機能を付与した次世代の紙や、ナノレベルに分解することで高度な機能を発揮する新たな素材の提供を目指し、ヘミセルロースからは糖の生成を通じ広範な化学品原料を、リグニンはバイオ燃料及び樹脂原料として活用を図るといった方向性です。

 プラスチックによる海洋汚染が世界の環境問題としてクローズアップされる中、耐水性を与える塗工技術の活用は紙ストローから、食品トレイや耐水段ボールなどに拡がり、また紙基材に酸素や水蒸気に対するバリア性を付与した包装紙が、プラスチックに代わってスナック菓子などで使われています。カップ麺の容器でも従来のポリスチレン容器から、断熱性を付与した紙基材ベースへ一部転換が始まっています。

 セルロースの高度利用ではセルロースナノファイバーも実用段階に差し掛かってきました。軽量でありながら硬くて強く熱による変形が少ないといった特徴を活かして、自動車のボディーや樹脂ガラス、タイヤなどに採用が始まり、増粘性や分散安定性などの特性は食品・化粧品・塗料の分野で添加剤として採用を受けました。拡販による増産とコストダウンの好循環を起こし、これらが次世代の柱として育つことを期待しています。

 再生可能資源である木材の高度利用とリサイクルをベースに業界が目指す方向は、SDGsなどに象徴される持続可能社会の構築を求める社会的な要請に対し、真正面から取り組む姿勢に繋がるものと考えます。