卓話


経営戦略,マジで女性管理職育成出来ますか?

2013年8月28日(水)

螢供Ε◆璽
代表取締役社長 奥谷禮子氏

 私どもの会社は人材派遣とか業務プロセスの設計、あるいは社員の採用・研修コンサルティングなどいわゆる人材の総合プロデュース業に取り組み、今年は33期目になります。

 私は大学を出て日本航空に就職し、国際線に搭乗していましたが、仕事を通していろいろな会社のトップの方々と接する機会がありました。そうした中で起業精神を募らせ、結局7年ほどで退職、現在の会社を女性だけのメンバーで立ち上げました。今でこそ珍しくありませんが、33年前に創業した当時は、女が会社を始めるというのは極めて特異なことでした。ある種疑いの目で見られるようなところがあり、「ご主人が病気とか何か特別な事情でも?」などと聞かれたこともありました。

 そうした色眼鏡で見られた時代、いわゆる男性社会の中で何とか会社を維持・発展させてきましたが、ある時から私は「過激な発言をする女」と、しばしば言われるようになりました。ただ自分としては当たり前のことを言っただけで、決して過激な発言をしたとは思っていません。

 例えば以前に「過労死は自己責任」というのがありましたが、これはマスコミなどを通して多分に言葉だけが暴走してしまったようなところがあります。その時、私は単に過労死とか自己責任という言葉を使ったわけではなく、そこで伝えたかったのはいわゆるホワイトカラーエグゼンプション、いわゆるホワイトカラー層の労働規制緩和を進めるべきだという提唱でした。

 今はグローバル化がどんどん進んでいます。要するに365日24時間、これからは地球時間で仕事が広がっていくでしょう。そうなると日本の事情による勤務時間とか祝日とかに関係なく、世界中で24時間仕事が進んでいくわけで、そうした中でいかに知的労働生産性を上げていくかということになります。

 したがって、これからはグローバルな時間管理を含めた自己管理というものを、自分の責任でしっかりやっていかないといけない。必ずそんな時代がくると、そうしたことを申し上げたつもりでした。ところが、女性の率直な意見はしばしば歪曲されるようなかたちで受け止められ、奥谷はとんでもないことを言うやつだ、過激な発言をする女だといろいろ批判を浴びました。

 ところで、日本がこれから直面する最大の問題は人口減少です。人口が減っていくとどうなるのか。まずマーケットがどんどんシュリンクしていきますし、身の回りの様々なものがサイズダウンしていくでしょう。そこで安倍総理は成長戦略の一環として、組織における女性の指導的役割を2020年までに30%へ引き上げるという目標を掲げました。そうすると女性の活躍でGDPは約8%アップし、ざっと60兆円の経済効果があると試算されています。

 もう一つは先ごろイオンが掲げた目標で、2020年までに女性の管理職を50%にすると株主総会で発表しました。これを聞いた時、私は何とすごい計画だろう、そんな目標が達成できるのかと危惧した次第です。何故なら女性の活用というのは、そうした数値目標で単純に表せるものではないと思ったからです。

 私はこの三十数年間、女性とずっと仕事をしてきました。働き手としての女性の良さも悪さも十分に学び、そしてむしろ女性を活用することの大変さというものを痛感してきました。そうした経験を踏まえて言えば、女性の管理職をそんなに簡単に育てられるのかと、いささか懐疑的にならざるを得ないのです。

 現在5,000人以上の社員がいる大企業の女性役員は平均1.7%、そして課長以上が同じく2.9%だそうです。例えばこれをたった7年の間に、30%とか50%に果たして引き上げられるのでしょうか。私にはあまり現実的な数字とは思えません。それと各企業によって業種業態の違いがあり、必ずしも多くの女性管理職を必要としない会社だってあるはずです。ですから30%や50%という、数字だけが一人歩きするような風潮は決して好ましくないと感じています。

 いずれにしても昨今は女性、女性と決まり文句のように言われていますが、例えばバブルの時代もそうであったことを思い出します。当時も女性の活用が盛んに叫ばれ、女性だけの組織とか女性グループの企画といったものを私もさんざん見てきました。ところが10年以上たって、そうした取り組みがほとんど成果を上げられず、現実には一過性のブームであったことが露呈しました。

 ではなぜ日本の企業は、女性管理職をうまく育成できないのかという問題になります。そこには子どものころからの女性教育とか、女性は社会性のトレーニングが苦手であるなど一概には言えない色々な要素がありますが、ここで私が言いたいのは管理職の男性によって大きく左右されるということです。

 男性管理職の多くは、日ごろから女性社員を遠巻きに見ているような傾向があります。しかし女性に対して良いものは良い、悪いところは悪いとはっきり言って、そのつど厳しく教育していくことが重要です。何か言って嫌われたくないとか、これ以上言ったらパワハラになるとかセクハラになるとか、つい逃げ腰になってしまう。だから本当に女性人材を育成しようという意識があるのかどうか、また企業の中にそうした風土がつくられているのかどうか、そうした点が最大の課題であると言えるでしょう。

 さて、これからは定年が65歳になっていきますが、その場合、65歳までの女性とどう向き合っていくかというテーマも見逃せません。女性が働くうえでは結婚、出産、育児という課題があって、その後40代から50代を迎えると女性はもう一つ、更年期障害という問題が浮上してきます。

 先ほども言いましたように、私は女性だけの会社で30年以上やってきまして、そうすると会議が予定された日にベテラン社員が気分を悪くして休むケースも出てきます。それが一人ならまだしも、たまたま複数人が一度にそうなった場合は、会議一つも開けないという状況になってしまいます。

 そういった意味で育児はもちろん更年期障害も含めて、女性を企業の中にどう取り込んでいくか。企業として女性にかかわるリスクをどう受け止め、そのうえでいかに生産性をあげていくかという、新たな課題に取り組んでいかなければなりません。

 つい最近、全日空がキャビンアテンダントを正社員にすると発表しました。その背景にはずっと以前、日本航空が契約社員での採用に切り替えたところ、当時の運輸大臣から契約社員とはとんでもない、3年たったら正社員にしろとクレームが入って日本航空は不本意ながらそれに従った経緯があります。

 ちなみに私たちが日本航空に入った時のキャビンアテンダントの平均勤続年数は、1.3年でした。ですから当時は1年3カ月の勤務を基準にして人件費が計算されていました。それが2000年代に入ると、勤続年数は20年ほどになっていました。正社員で15年を超えた場合の賃金や退職金や年金は大幅に増大します。そうした人件費がボディブローのように効いてくる、結局、日本航空は2010年に会社更生法の適用を受けることになったのです。

 これからはみなさんが飛行機に乗られた場合、65歳のキャビンアテンダントが接客する事も十分ある得るわけです。そうした状況をどう捉えるかは取り敢えず、私は正社員云々ということより、ここで言いたいのは職種職能によって雇用形態はいろいろあってしかるべきだということです。

 宝塚が30歳になったら、あるいは結婚したら退団しなければいけないという規定は、やはり職種職能に適しているからでしょう。つまり宝塚特有の華やかさとか、激しい踊りもこなせる年齢を考慮した取り決めだと思うわけです。だから雇用形態は、状況に応じて多種多様であって構わない。正社員だろうが契約社員だろうが、職業として適応していればいいのであって、正社員が全て正しいという考え方には大いに疑問を感じます。

 さて、ここまでいろいろ話をしてきましたが、とにかく各企業はこれから女性の労働力というものを、経営戦略上に組み込んでいかなければなりません。さらに人材育成としてのマネージメント職まで持っていくことが重要で、本当に数だけで捉えていいのかと言うと、私は「数+クオリティ」の問題だと思っています。ですから男性と女性を同じようにどう育成していくか、マネージメントの能力とかプロフェッショナルな人材をどうやってきちんと育てていけるか、そうした管理職の力量や企業風土というものが真に問われる時代になっていると思います。

 しかしどこの企業も、まだまだそうした風土は定着していないのが実情です。そんな中で安倍総理が30%という大上段の目標を掲げましたが、そうは言ってもそこまで本当に出来るのでしょうか。各企業がそうした社会的ミッションを与えられ、現実的にどこまで出来るのか私は大変疑問なわけです。

 そこまでやるには企業風土を根本から変えていく必要があるでしょう。また男性・女性としての意識改革も含め思い切った取り組みが必要で、そうしないと次のステップさえ踏めないということになります。

 率直に言って、女性の人材をどう活用するかは、企業のトップの問題です。トップがどこまで本気になって企業風土、企業文化を創出していくかにかかっていると思います。そうしないと、またバブル時のようなあだ花になるのが落ちで、今回ばかりは是非大きな成果が見られることを願っています。

         ※2013年8月28日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。