卓話


災害救援ボランティア推進委員会について 

4月20日(水)の例会の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

(財)地方自治研究機構 理事長 元官房副長官
石原 信雄氏 

第4051回例会
 
 災害救援ボランティア推進委員会は1995年7月,阪神・淡路大震災の教訓をもとに,大災害を想定した災害救援ボランティアリーダーの育成・登録活動にあたる民間団体として設立されました。その活動はロータリーの活動とも共通する面が多いと思います。

 地震学者の最近の予測によりますと,近い将来,東海地震,東南海地震,あるいは南海地震といった,大きな地震が,遠からず必ずやってくるといわれております。東京地域は関東大震災が発生してから80年以上が経過しております。経験的には,いつ直下型地震が起きてもおかしくないといわれております。今まで地震が全くないといわれた九州北部の福岡県西方沖で度々地震が起こっています。私たちは,日本列島に住んでいるからには,いつ如何なるときにも,地震その他の災害に見舞われる可能性があるのだと考えざるを得ないと思います。

災害が発生した場合に住民を守るのは行政の責任であります。消防,警察,自衛隊,海上保安庁といった機関がそれぞれの責任分野で,被災者の生命や財産を守ってくれます。しかし,大規模な災害が発生すると,公的機関による住民の救済活動は極めて限定的なものにならざるを得ません。

 私は,10年前の阪神・淡路大震災のときに内閣におりまして,危機管理の責任者という立場におりました。あのように広い地域にわたって直下型の激しい地震が起こりますと,道路は寸断され鉄道は破壊され,あっという間に火災が発生します。水が出ない,車が通れないという状態になりますと,消防も警察も自衛隊も動くことができません。公的機関による救済活動は極めて限定的にならざるを得ないということを痛感させられました。

兵庫県が,その後,当時の被災者の状況を調べたデータがあります。それによると,地震で生き埋めになった人たちが,どういう形で助かったかというと,消防とか警察とか自衛隊とかの公的機関に救済された人は2.6%しかいません。他は,自分ではい出したり、家族が救い出したり,あるいは近所の人たちが協力して救出したり,通りかかった人が助けるという形で救済されております。

 当時,地震の発生直後,内閣の危機管理体制がなっていないから,こんなに被害が多くなったのだという非難を受けました。しかし内閣がどんな内閣であれ,あの破壊された道を消防車が走り,自衛隊がすぐに現地に行くことは不可能であります。

大規模な災害であればあるほど,被災した人たちを救えるのはそこに居る人なのです。家族であり隣人である人たちなのです。

阪神・淡路大震災のときには全国から大勢のボランティアが馳せ参じました。1月17日に地震が発生して,その後一カ月間に1日平均2万人以上のボランティアが行きました。次の一カ月間に1日平均1万4千人ほどのボランティアが行きました。三カ月間のボランティアは,延べ110万人の人が参加しました。たいへんに心強いことでした。

 しかし,中には,ただ何とかしたいという善意だけで駆けつけた人もあって,必ずしも効果的な救助ボランティアになったとは言えない場もあったわけです。一方,災害救援活動に,ある程度の知識や経験をもったリーダーが居たボランティアはたいへんな活躍をしたのであります。
私は,このことから,常日頃から災害救援活動に関心をもつ人が,最小限度の知識や経験を有していれば,たいへんな効果をもたらすということを痛感したわけであります。

この時の思いが強烈でありまして,震災発生後の2月末,震災対策に必要な法案提出を終えたのを機会に、官房副長官を辞任して民間人になった後も,災害時のボランティア活動を志す人たちになにがしかの教育訓練を施すことが非常に効果的だということが私の頭から離れませんでした。

そのような時に,大先輩の方や日頃から親しくしている友人の方々から,経験を活かしてボランティアの養成講座をやったらどうかというお話をいただきました。養成講座のアイディア自体は,日本法制学会理事長の澤野さんが「世の中の役に立つことをやったらどうかね」と私の所にもってこられたもので,私もこの問題についてはいやと言うほど必要性を感じておりましたので,そのアイディアを活かす形で,災害救援ボランティア推進委員会を立ち上げた次第でございます。

この委員会は,政府の支援を受けたのでは,いろいろと制約をうけるということから,純粋に民間の善意によって実行したいということでスタートさせました。お陰様で東京を中心に主要企業100社が会員となって支援してくださいました。

災害救援ボランティア推進委員会では,あまり難しいことはやらない。ちょっとした心掛けで,ちょっとした訓練で,災害時に非常に役に立つ知識,経験をもってもらおうという発想で講座をスタートいたしました。

 講座の受講資格については,なんら制約を設けないということで広く募集をいたしましたが,望ましいことを言えば,社会を支えて活躍する中堅になる人たちが受講してくれるのがいちばんいいと思っています。特にこれから社会人になる大学生などが受講してくれることが望ましいと考えております。

この講座は,必要な知識として,災害対策,情報収集・伝達法などの講義と,救命活動のための最小限度の技術として,人工呼吸,消火活動,避難誘導などの訓練を正味20時間ほど,4日間で実施します。職場の皆さまも参加できる程度の時間で最小限度の知識経験をもってもらうという考え方です。

ボランティア講座だから受講料は無料という考え方もありましたが,実際に消耗品の経費もかかりますので,受講者には経費の3分の1程度を受講料として負担していただいております。

立ち上げて10 年になりますところで,初級講座を修了した人が3,700人あまりになっており,さらに高度の勉強をしてもらう上級講座は,初級修了者の1割程度の方に受けていただいております。

 東京,神奈川,埼玉を中心にした講座を全国的に展開したいという希望をもってはおるのですが,スタッフの関係や経費の関係などもありまして,今は専ら首都圏で活動しているところであります。講座を修了された方には,修了証書とセーフティーリーダーという名称と記念のネームプレートをさしあげております。この人たちの活動は,私どもの方でどうしてくださいとは言いません。基本的には,災害が起こった時に自分自身が災害から免れる手立てを見つけておく。そうすることが家族を救い,同僚を救い,隣近所の人を救うことができる所以だという考え方で,活動はセーフティーリーダー自身の判断と意志に委ねるという建前でやってきております。

私は,講座修了時に全員から感想文を出してもらって,それに全部目を通すことにしています。やはり災害救助ボランティアの講座を受けようというほどの人たちだからでしょうか,非常に考え方がしっかりしておられます。社会の一員としての責任をしっかりと果たす,あるいは隣人に対する救いの手を差しのべたいという,人間として貴重な意欲をもっておられる方が大部分だということを感じまして,勇気づけられております。

最近,大学生の諸君の受講者が増えておりますが,その人たちがボランティア講座を受けたことによって社会の一員としての自覚をもつに至ったということを,私は感想文その他から感じとりました。これは直接的なねらいではなかったのですが,若い人たちの意識改革にもかなり貢献しているのではないかという感じをもっております。

講座は,公的な訓練機関を使って進めてきましたが,最近は,一橋大学をはじめ,東京大学のキャンパスでの講座も開いております。当然,学生の受講者も増えました。さらに私学にも広がり東京6大学の全部がキャンパスを提供してくださっています。

 これから社会人になる若い人たちがボランティア講座を受けて,災害に対して一定の役割を果たせるという自信のようなものをもつことは非常にいいことだと思っております。

 これから大学生を採用する場合にはボランティア活動をやっているかということを採用時の参考資料に,是非してもらいたいものだと思います。企業や官公庁の将来を担う幹部になる職員については,ボランティア活動に関心をもったり活動の知識をもったりすることが必要だと考えるからです。

災害救援活動に従事するボランティアに必要な知識経験を身につけるための講座を行っていることをご紹介して,今後ともご支援をお願いするしだいであります。