卓話


イニシエイションスピーチ
計算科学が日本の未来を切り拓く

2013年9月18日(水)

富士通
取締役会長 間塚道義君


 本日は計算科学の話をしたいと思います。理化学研究所と富士通が共同で開発したスーパーコンピュータ「京」が、一昨年世界一を獲ったことは記憶に新しいと存じます。事業仕分けでのプロジェクト凍結判定には、ノーベル賞学者、 野依良治氏の「歴史の法廷に立つ覚悟はあるのか」という発言をはじめ科学者が立ち上がり、また、東日本大震災では被災した工場の方々が一丸となり、生産再開に尽力いただくなど、様々な危機を乗り越えた「京」の成功は、当時意気消沈していた我が国に久々の明るいニュースを提供することができたと思います。

 では、圧倒的な計算能力を持つスーパーコンピュータを何に使うのか。それが「計算科学」です。様々な現象のモデルをコンピュータ上で再現し、その結果を予測する「計算科学」は、「理論」「実験」に次ぐ第三の科学、更には実用の領域へと広がっています。

 「京」は利用開始後、常に24時間フル稼働状態です。ライフサイエンス、エネルギー、防災、ものづくり、宇宙といった「戦略5分野」で、第一線の研究者達が「世界一の成果」を目指して日夜研究に励んでいます。軍事利用が主体のアメリカや、国威発揚が目的の中国とは異なり、「社会課題の解決」や「国際競争力の強化」へのフォーカスが「京」の画期的な点で、当初から研究機関だけでなく民間企業にも幅広く開放しております。既に56社で活用され、「もっと使わせて欲しい」との声も挙がっております。

 先ほどの「戦略5分野」から「京」を使った最新事例をご紹介致します。

 まず、高度医療に向けた「心臓シミュレータ」です。東京大学の久田先生の研究で富士通も協力していますが、心臓の動きを極めて精密に再現しています。分子レベルで動きを計算するため、「京」の能力でも心臓を1拍させるのに2日間かかるのが現状ですが、将来スーパーコンピュータの性能が上がれば、経験と勘に頼らざるを得ない難しい手術も、患者個人毎に最適な手術が実現できたり、あるいは画期的な新薬の開発等も期待できます。

 次に「巨大地震を想定した津波予測」です。海洋研究開発機構が研究を行っています。東日本大震災の次にマグニチュード9クラスの巨大地震が来るのは「南海トラフ」と予想されています。プロジェクトを率いる金田先生は「科学・技術と人を繋いで巨大地震から人命を守りたい」との使命感から、「京」を使って地震・津波・地盤沈下・建物への被害など様々な研究を行っています。これまで個別にしか扱えなかった災害時の複雑な現象を総合的に解明することで、状況により最適な避難経路や実際の被害を想定したハザードマップなどを作成し、災害に強い都市づくりの実現を目指しています。

 最後に自動車の例です。従来から自動車業界では、衝突時の影響を計算科学で解析してきましたが、近年は燃費性能を左右する「空気抵抗」の研究が盛んです。これまではコンピュータの性能不足で精度が粗く、実験を補助する役割にとどまっていましたが、「京」では実際に走っている状態で現実の空気の流れを捉えられるようになりました。これにより新車開発期間が大幅に短縮されます。ものづくり分野のリーダーを務める東京大学の加藤先生は「(ものづくりに)質的な変化が生じる」と仰っています。「京」はものづくりそのものを変え、日本の国際競争力を強化するでしょう。

 これらの事例でご紹介したように、「京」には様々な分野のトップクラスの専門家が集まってきます。我々もその方々の期待に応えるべく、最先端のスーパーコンピュータ作りにチャレンジしていきます。ちょうど、「京」の100倍の速度を持つ「次世代スーパーコンピュータ」に向けて、国の検討が始まっています。1位はあくまで結果です。しかし、それを目指すことで一流の研究者が集まり、一流の開発者が育つことで様々なイノベーションが生まれ、それが日本の豊かな社会の実現、また国際競争力の強化に繋がると信じています。



イニシエイションスピーチ
身近なビッグデータ革命

2013年9月18日(水)

アクセンチュア
代表取締役社長 程 近智君


 最近、「ビッグデータ」というキーワードが注目を集めています。数年前までは数あるIT用語の一つとしてしか捉えられていませんでしたが、今では国家的重要テーマの一つ一つになりました。総務省はビッグデータ活用によって、約8兆円の経済効果が見込まれると試算し、政府は成長戦略の目玉の一つとしてビッグデータ活用を掲げました。

 ビッグデータが大きな話題になる背景には、これまで以上に世の中にデータが氾濫しているという事実があります。ちなみに現在、私たちの身の回りに存在するデータの90%は過去2年間に生み出されたものとされています。昨年1年間に生み出されたデータ量は2.8ゼタバイトですが、これは約2時間の映画DVD、6000億枚分に相当するものです。こうした膨大な量のデータを活用して世の中が変わっていくことを、メディアは「ビッグデータ革命」と報じます。そして、こうした変革の波は既に私たちの身近に迫っています。今回は幾つかその事例をご紹介します。

 高い自殺率が社会問題になっている韓国では、ネット上の書き込み、物価変動や失業率、株価指数、日照量といった様々なデータを分析し、自殺危険度の高い時期を特定して知らせることで、国民の自殺を未然に防ごうとする取り組みを行なっています。ビッグデータで社会課題を解決しようとしている例です。

 企業活動も変わります。例えば、飲料メーカーが若い女性をターゲットに飲料を開発しようとすれば、若い女性がどの時間帯にどんな商品を買うのか、ソーシャルメディアで何を話題にしているかなどのデータを分析し、商品開発に活かすことが出来ます。また、私たち個人にも大きな影響を及ぼします。グーグル社では、現在、眼鏡型コンピュータを開発中で、近々発売されることも噂されています。こうした眼鏡型コンピュータに顔認証技術のような技術が搭載されることで、目の前にいる人の顔の特徴から、その人の年齢を即座に導き出すことも可能になります。さらに、その人がどのような人物なのかということを、ネットでの書きこみなどから分析し、リアルタイムに知らせてくれるようになります。私たち個人のコミュニケーションは劇的に変わっていくことでしょう。

 もう一つ、ビッグデータを高度に活用していくうえで欠かせないのは機械学習です。大量のデータを解析し、そのデータを特徴付けるパターンやルールをコンピュータが自動的に導き出す技術ですが、すでにこうした機械学習を活用して、人間が尋ねただけで勝手に探し物を検索し案内してくれるロボットや、ニュース記事を自動作成するコンピュータなどが開発されており、実用化も近いとされています。

 一方で、こうしたビッグデータ活用が進めば、個人情報が自分の知らないところで詳らかにされ、悪質なストーキングや留守宅を狙った盗難が起こったりするようなリスクも考えられます。中には「監視社会の到来」と揶揄する声もありますが、だからこそデータを管理する国や企業は、個人情報保護をどう透明性を持って進めるのかということも考えていかなくてはなりません。そして、もう一つ大事なのは、私たち個人にも自らの情報を自らで守ろうとする責任ある行動や意識が求められているということです。

 人類はこれまで、ある事象についての因果関係を見出すことで知的欲求を満たし、科学的に進歩してきました。「なぜリンゴは木から落ちるのか」という疑問がなければ、万有引力の法則は生まれなかったでしょう。しかし、これからは因果関係ではなく、その事象とデータとの相関関係が結論を導き出して行くことが多くなります。つまりビッグデータは人間の思考や認識にも影響を及ぼすのです。大きな変革をもたらすと同時に、様々なリスクをもたらすものでもありますが、こうしたビッグデータを、社会や企業、個人の進化や発展に寄与する「ベターデータ」として活用していくことこそが、私たちにとって大きな挑戦なのだと考えています。