卓話


防災人材育成の取り組み

2022年9月7日(水)

(一財)防災教育推進協会
常務理事・事務局長 濱口和久氏


 10年前、将来の日本を担う子供達の防災教育に民間の立場で取り組もうと、一般財団法人防災教育推進協会を立ち上げました。

 通常、防災の団体は研究者といった専門家集団が集まって作るケースが多いのですが、私達はあえてそうせず、教育界、経済界、マスコミ関係者、研究者と幅広い分野の人が集まりました。理事長は、昨年放映されたTBSのドラマ『日本沈没』で地震のメカニズムの監修を行った山岡耕春名古屋大学教授が務めています。

 当協会は、学校や子供会など子供の集まる場や家族が集まる場に出向き、防災の知識や過去に起こった災害に基づく様々な教訓を伝えること、日常の防災の取り組みを子供の目線で話す活動、「ジュニア防災検定」を行っています。

 ジュニア防災検定は日本で唯一のもので、いわゆる暗記物ではなく、防災意識をしっかりと定着させることを目的にしたものです。家族で自分の家の災害対策について話し合いそれをまとめる「家族防災レポート」、「防災自由研究」、問題を読み解き考えながら解く「筆記試験」からなります。

 この検定も英検や漢検などと同じように一定の点数に足りなければ不合格になりますが、仮に1回目の判定で不合格になっても再チャレンジしてもらい、こちらが提供するワークシートに取り組んでもらえば追加合格としています。

 筆記試験では、例えば、「あなたたちが避難所でできることを一つ書きなさい」という出題をしています。それに対し、ある小学校4年生の女の子は、「小さい子供たちを集めて、あやとりをしてあげる」と回答しました。なかなか大人にはない発想です。

 防災自由研究では、東京都内の駅の地盤や治水等を全て調べ、それをまとめた中学3年生がいました。

 大阪の小学校5年生の男の子は、普段の学校の勉強は得意ではないということでしたが、学校の朝礼で校長先生から「ジュニア防災検定の試験で表彰を受けました」とみんなの前で紹介をされ、うれしくて泣きながら家に帰ってきたそうです。合格者には「JBKバッジ」を授与していたこともあり、合格した子供達がバッジを付けて学校に通う光景も全国で見られています。

 「自助、共助、公助」が必要といわれます。これまで学校の防災教育といえば年に1回の避難訓練があり、子供達は指示されて動く立場でしたが、私達は子供自らの意思で行動する「自助」ができる防災人材の育成を目指しています。

 よく「防災」「減災」という言葉を聞きます。私達は、さらに「知災」「備災」を子供達にも提案しています。知災は、災害から生き延びるために歴史の教訓を知ることです。浜口梧陵の『稲むらの火』などの教訓を知ることによって、災害に対応できるような知識を身につけます。備災は、何もないときから備えておくことです。そうしなければいざ災害が起こったときに何も対応できない状態になる可能性もあります。

 皆さんはハザードマップをご覧になったことはありますか。自分の住んでいる地域の災害想定区域や避難場所・経路などを示したものです。でも、それを見るだけでは、いざというときには助かりません。

 まずはハザードマップに基づいて、自分の避難場所を確認し、そこまでの経路について日頃からチェックしておきましょう。例えば、どのくらい浸水した場合にどのような危険があるのかを子供の目線で考えてみる。すると身長の高い大人とは景色が違ってきますし、子供のほうが大人よりも街の中の危険な場所をよく知っています。ですから、いざ災害が起こったときに備えて、日頃から家族で共有をしておくと良いでしょう。

 それから、皆さんの会社でも事業継承計画(BCP)を策定されていると思いますが、そこで働く従業員の家族のBCPを考えたことはありますか。災害が起こったとき会社はBCPに沿って動き出しますが、従業員とその家族も被災する可能性が高い。従業員の家のBCPができていなければ、場合によっては出社できなくなります。企業で行うBCPを、従業員とその家族も含めて取り組んでもらいたいと思います。

 災害が起きる前には避難勧告や避難指示が出ます。そのときよくあるのが「空振り」です。空振りが続くと、避難を躊躇する人がいます。発想を変えて、野球の試合の空振りに対して、素振りだと思ったらどうでしょう。災害に対して、日頃から練習の精神で向き合っておけば、いざというときに助かる環境に持っていくことができます。

 地球物理学者の寺田寅彦は「災害は忘れた頃にやってくる」という警句を残しましたが、最近は地球温暖化の中で「災害は忘れる前にやってくる」時代になってきました。その中で私達は、どうやってその災難から逃れて生きていくか。

 災害は時間が経つと、その記憶は遠い彼方に行ってしまいます。東日本大震災でもそうです。多くの人が津波によって犠牲になりました。過去に東北地方で起こった津波被害のことが確実に伝わっていれば、多くの方が助かった可能性もあるのです。災害の教訓をきちんと伝え残していく社会を作る必要があります。

 私達は最近、社会人、企業や地方自治体の防災教育にも取り組んでいます。特に新入社員です。どの部署に配属されても防災は必要な知識・経験になります。自然災害のメカニズムや通常の生活をする上での対策、法律の問題等も含めた講習を行っています。

 首都直下地震は30年以内に70%の確率で起こると言われています。場合によっては富士山の噴火もいつ起きてもおかしくありません。

 富士山の最後の噴火は1707年、江戸時代の「宝永の噴火」です。富士山の中腹にあるくぼんだところが最後の噴火の火口です。実は富士山はそれまでは約30年に1回、噴火していました。ところが、この約300年間は噴火していません。富士山は活火山で、いつ噴火してもおかしくない状態です。あまり報道されませんが、首都直下地震と同じくらい非常に恐ろしい自然災害になり、その場合、首都圏は麻痺状態になる可能性があり、企業として、社会として、その事態を乗り切るために日頃からしっかりと備えと対策が必要です。

 私は防衛大学出身です。今、感染症も蔓延していますが、災害は自然災害だけではなく、場合によっては空から飛んでくることもあるでしょう。そのときの国民保護が重要です。

 いまだに日本では、9月1日の防災訓練は自然災害を想定したものが中心で、自衛隊、警察、消防、消防団の展示訓練を行って終わりです。企業も同様で、参加者がしっかりと体験できる訓練に変えていくことが大切です。

 将来、空から飛んでくる災害に対する国民保護の訓練も日本の場合は全く行われておらず避難場所もありません。それで良いのかと私も最近の論文に書きました。どのような状況でも自分達の命を守り生き延びる、そうした取り組みがこれから重要になってきます。

 防災とは人間力、生きる力です。特に子供達はこれからの日本を担います。東日本大震災では、当時、「釜石の出来事」と言われるものがあります。小学生や中学生が地域に住むおじいちゃん、おばあちゃんを連れて高台に逃げました。小中学生の9割が助かりました。おじいちゃん、おばあちゃんも「孫のような子供が家に来て、一緒に逃げようと言って逃げたんで助かった」というコメントが沢山残っています。

 私達は小中学生のうちから防災人材を育成することによって、将来の災害対策ができる人材育成に繋がると考えています。

 災害は今この瞬間も起こるかもしれません。災害に備えて持っているものはありますか。

 外にいて災害に見舞われたときに何を最低限持っていけばいいでしょうか。地震などが真夜中に起こった場合に、自分のベッドや布団の横に何を置いておきますか。停電になって真っ暗になり、家具なども倒れ、いろいろなものが床に落ちてきたとき、上履き、スリッパなどがないと、素足で歩けば怪我をする可能性があります。また、メガネやコンタクトレンズを使っている方はメガネを置いておきましょう。

 さらに、いろんなものが倒れてきてその下敷きになった場合、どうすればいいでしょうか。仮に1階で寝ていて建物が倒壊して生き埋めになった場合は、笛が便利です。100円ショップで売っているもので十分です。声で「助けてくれ」と言っても続きません。しかし、笛であれば吹くことで長時間にわたって自分の存在を外部に対して訴えることができます。日頃から寝るときに枕元のすぐ手の届く所に置いておくといいと思います。それからライトです。最近はスマホにライト機能が付いています。

 車を運転される方は、車の燃料は最低でも3分の1になったら給油する習慣を付けることが重要です。災害時に、ガソリンスタンドに並ぶようなことをなくせますし、車はエンジンをかければ、エアコンを使って暑さ寒さをしのげて、スマホの充電もでき、ナビゲーション等で情報も取ることができます。

 まずは、何をすればいいか、自らの防災体制を考えることが重要です。


  ※2022年9月7日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。