卓話


被災地における映画上映「映像の力」 

2011年8月3日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。

映画監督,フォトグラファー,メディアプロデューサー
AMY CORPORATION
代表取締役社長 エイミー・ モリ氏

 私は,ハリウットスターや各界著名人のポートレイトなどを撮影する仕事をしております。ライフワークとして撮り続けている写真「世界のクリスマス」は多くのご支持をいただき,写真家として,20年以上もお仕事をさせていただいています。

 2009年に公開された「恋極星」は,私の初監督の映画でした。主人公の戸田恵梨香さんは初主演で,若い人たちに人気のある女優さんです。「恋極星」は,私が来年撮ろうと思っている「DONOR(ドナー)」という映画の脚本を読んだプロデューサーが,「是非やりたい」と言ってくださったものでした。脚本は「1リットルの涙」等を書いた横田理恵氏が書いたものです。

 ラッキーなことに,2009年上海国際映画祭で,新人監督部門にノミネートされました。お陰で,次の仕事がやりやすくなり,いよいよ「DONOR(ドナー)」を映画化しようと準備をして4月スタートという矢先に,地震でした。

 震災後,私は何かお役に立つことをしたいと思いました。何がいいだろうと考えて,心のケアだったら,もしかしたら,私でもお役に立つかもしれないと思いました。

 震災後,すぐに動き出しましたが,あまり早い段階で,イベントなどを持っていくのは現地に迷惑だと思い,様子を聞いてみると「避難所生活が長くなっているので,映画を見て楽しむような時間が是非ほしい」という声をたくさんいただきました。

 続いて,TBSの番組『絆プロジェクト』の一部が抄録で放映された。
●場面1:避難所での映画会風景
 宮城県岩沼市の避難所には,時ならぬ笑い声があふれました。「寅さん」を見て,暗い避難所生活を忘れるひととき。映画館に行ったみたいだと喜ぶ住民たちの笑顔です。
−ナレーション−
 避難所に少しでも娯楽を届けたいと考え,プロジョクトを立ち上げたのがエイミー・モリさん。その呼びかけに応じて集まった映像や音響のスペシャリストたち。彼らは,この映画会のために仕事を休んでやって来たボランティアです。そんな方々が映画に託した思いとは。

●場面2:エイミー・モリさんの語り
 「心のケアが必要な段階になった時に,私たちは少しはお役に立てる。映画を見ている間だけは,悲しいこと辛いことを忘れて,笑ったり楽しんでもらったりできるホッとする時間を持ってもらえたら嬉しい。」
−ナレーション−
 この避難所では,現在およそ240人の人たちが生活しています。映画会での大きいスクリーンは,エイミー・モリさんが「少しでも雰囲気を味わってもらいたい」と,自ら発注して作ったものでした。手際よく準備を進めて,2時間ほどで避難所は手作りの映画館に。
 子供の半数近くを占めるここでは,ジャッキー・チェン主演の「ベスト・キッド」を上映。今回上映した2本の映画は,配給会社と映画会社がそれぞれ特別に無償で提供してくれました。

●場面3:真剣に映画を見る子供たち
 映画が始まると,真剣な表情でスクリーンを見る子供たち。子供たちは「実際の映画館のような所で映画が見られるとは思っていなかったので,すごく嬉しかった」と語る。

●場面4:感謝の気持ちを話す人たち
 「避難所生活が長くなってきているので,子供たちやお年寄りが困っています。そのような気持ちを少しでも癒してくれることは,本当にありがたいと思います」
−ナレーション−
 「男はつらいよ・第一作」が上映されると,会場から大きな笑い声が。昨日の上映会では目頭を押さえる人も。昨日までの3日間で5ヶ所を回り,6回の映画上映を行った人たち。その表情をカメラに収めているエイミー・モリさんは次のように語っています。

●場面5:エイミー・モリさんの語り
 「写真には記録という意味が含まれていますが,その中に,みんなの心が少しずつ写っているのではないかと思います。現地の方々に,つい『頑張って』と声をかけたくなりますが,もう掛け声は要らない気がします。頑張るのは周りの人で,本人たちは,もう十分に頑張って,耐えていらっしゃいます。」映画を通して『お元気でいてください。心もお元気でいてください。』という気持ちが伝わればいいなという思いです。

(以上で映像は終わり)

 最初の1〜2カ月は泊まる場所もありません。瓦礫を横に避けただけの道を走って行ったのですが,皆さんに喜んでいただいて本当に行った甲斐があったと思いました。

 この活動は1〜2カ月で終わってはいけないという思いが強くなりました。避難所の生活は長期化しています。福島は1年や2年で収まりそうもありません。長く続けることが,私に科せられたことかなと思っています。

 先月,石巻に行きました。海岸沿いの地帯がひどかったものですから,映画をかける場所がありません。集まっていただける場所がありません。流された所を養生して何とか人が入れるようになった1階を空けていただいて,100インチのスクリーンを壁一杯に広げて,近所のお子さんたちや30〜40人の方に集まっていただいて,映画を映しました。
 
 その会場から帰京して,しばらくして,すごく嬉しい話をご連絡いただきました。
 小学校1年生の男の子がPTSD(心的外傷後ストレス障害)に罹っていて,震災後の余震が恐かったり,環境が変化したりして,登校拒否になっていました。その子が,映画を見た後,翌日から泣かずに学校に行くようになったとのことです。映画の中でジャッキー・チェンが「毎日,ちょっとずつ頑張って,いまの自分を変えていきましょう」と言う,映画に感化されたらしく,自分も何かやらなければいけないという気持ちになって,学校に行くだけではなく,毎日,公園の広場で走り込みをやっているそうです。それが一カ月も続いているそうです。

 映像の力はすごいと思いました。私は,このボランティアを始めて,仕事が倍になりましたが,こういう嬉しいことが一つあると,本当に報われるなと思いました。これからも「心のケア」を続けていかなければと思っています。

 第一回目の上映会では,空港の近くにもかかわらずまだ廃墟になったままで,被災した車が3段ぐらいに積んである側に,桜が満開だったのが印象的でした。

 場所によっては4カ月経った今でも手付かずの場所があります。自然は流れていつものように花を咲かせますが,悲しい風景があちらこちらで見られます。

 第一回目の会場は,600人ほど避難している体育館でした。その後も,私の思いを受けとめてくださった企業さん(日通・TOTO)に応援していただきました。機材はSONYさんが無償提供してくださいました。遮光のできない所は大型テレビを置いて上映しています。

 昨日,取材で行った気仙沼では,再開できていないお寿司屋さんが,避難所を回って,お寿司をにぎって,ふるまっている場面に出会いました。しかし,気仙沼も中心部を離れた所では,まだ鉄橋の上に家が乗っかったままという情景が目に飛び込んできます。丘の上に船がある情景も珍しくありません。

 昨日は,映画の上映はしなかったのですが,先程お話しした小学生と一緒に石巻の花火大会に行きました。一緒に花火をして楽しい一時を過ごしました。これからも時間を作って「映像の力での心のケア」を続けていきたと念じています。