卓話


人工知能(AI)と未来社会

2015年11月25日(水)

アスクル(株) 代表取締役社長兼CEO
岩田彰一郎君


 私は90年代初頭より通信販売業に携わっている。カタログ通販からスタートしたビジネスだが、当時黎明期を迎えていたインターネットにも早くから注目し、その最先端の動きをつねに注視してきた。

 インターネットはまずは検索サービスの広がりにより急速に一般化し、その後のコンピュータの処理能力や通信速度の飛躍的な高速化により、いまや社会インフラとして欠かせないものとなった。そして2007年のiPhoneに代表されるスマートフォンの登場は、通信とコンピュータの融合をさらに進め、パソコンと同等の機能が手のひらの小さな携帯端末に搭載されたことでEC(Electric Commerce/ 電子商取引)の利用拡大が地球規模で加速している。

 このECの爆発的な広がりを、私は11月の北京で目の当たりとすることになった。毎年11月11日は中国のEC企業であるアリババが仕掛ける「独身の日」と呼ばれるネット通販の最大のお祭りの日である。中国全土にネットショッピングの利用を広げるために、とてつもない資本を投入し、紅白歌合戦を彷彿させる演出とともに国民的なプロモーションが展開されていた。

 1日の売上高が1兆7000億円超、前年比60%アップとなり、中国経済の減速を報じるメディアとはまったく違う光景が広がっていた。中国のECはすでに店舗小売売上高26兆円をはるかに超え56兆円※1という勢いで消費者を魅了している。日本をはじめ欧米各国がかつて歩んできた店舗小売の成長と成熟の歴史をいっきにスキップしてECの熱狂が起きているのである。スマートフォンの販売台数はすでに6.8億台※2を超えたとされる世界で、スマートフォンが巨大市場中国を呑みこんでいる。

 EC化が進むと、その購買量とともにそこで生成されるデジタル情報も増えていく。2020年までに地球上で生成されるデータ量は10倍の44兆ギガバイトになると言われている※3。このとてつもない情報の塊(かたまり)はビッグデータと呼ばれ、かつてはスパコンでしか解析出来なかったものが、簡単にスピーディに解析するシステムが次々と開発されている。ECの特徴は、いつ誰が何をどれだけ買ったかがすべてデータとして残ることである。POSシステムは物品単位の管理は出来るが、個人の購買行動まではわからない。EC企業は、ビジネスモデルとしてその高次元の流通データを循環する仕組みを持ち得ており、それはあたかも高性能の市場レーダーをもっているかのようである。次の時代を担うと話題の“モノのインターネット”「IoT(Internet of Things)」があるが、私たちの暮らしのあらゆるモノがインターネットと繋がるようになるIoTの時代には、インターネット企業がいかに重要な役割を果たすことになろうかは想像にかたくない。

 IoTとともに最近話題になるのがAI(Artificial Intelligence)である。対訳として人工知能という表現があてられる。IBMが開発した「ワトソン」という意思決定支援システムがある。人工知能と紹介されることもあるこのワトソンについて、IBMのロメッティCEOは、“スマホはイノベーションではない。AIこそイノベーションである”と語っている。世界に流通する情報量は、すでに人間の処理能力を超えている。DVDに換算すると一日当たり約2.9億枚相当※4との試算もある。

 AIは、人間にとって代わることが出来る業務領域において、コンピュータが自ら学習することで、瞬時に膨大な情報源から大量のデータを統合し分析し最適解を見つけ、例えばガン診断や警備システムなどで人間をサポートすることが出来る。このコグニティブ・コンピューティング(Cognitive Computing)は社会の成長にどう貢献出来るかにも注目したい。

 翻って生活者の立場からすれば、あらゆるものがコンピュータに繋がる世界とはなんとも気持ちわるいではないか。周囲のあらゆるものとネットワークで繋がれ、そこから自分の情報が流れ、知らない誰かに情報を蓄積され、解析され、知らないところで自分がカテゴライズされていく。肌感としての違和感である。IoT、ビッグデータ、AIなど最先端技術により人類はあらたな利便性を手にしていくが、どんな技術をもってしても、“人々の幸せのために”というビジネスの本質は変わらないことを忘れてはならない。産業革命と言われる変革の時代だからこそ、これからの企業経営には、いっそうの他者への深い洞察と共感をベースにした、より本源的な倫理が求められることになると考えている。

※1出所:アリババ資料
※2出所:総務省情報通信白書平成25年版
※3出所:デジタルユニバース第7回調査
※4出所:総務省情報流通インデックスの計量平成21年度


最新の皮膚科学と化粧品の特性を生かしたQOLへの取り組み

2015年11月25日(水)

(株)コーセー 代表取締役社長
小林一俊君


 化粧品によって美しく健やかな肌を保つことは、快適で豊かな生活のために欠かせません。今回は特にスキンケア分野での最先端の皮膚科学研究の成果と化粧品の特性を活かした、さらに踏み込んだQOL(Quality of Life)向上への取り組みについてご紹介します。

(1)化粧品による紫外線防止
 紫外線(UV)による人体への悪影響は周知の通りで、世界的にも皮膚ガンの発症リスク低減のための適切なUV対策が推奨されています。UVは波長によって、メラニンを増やし日焼け肌をつくるA波と、火傷の一種であるサンバーンを起こすB波に分けられますが、A波はシワやタルミ等の肌の老化を引き起こすことも分かってきました。化粧品のUVカット効果を示す指標には、B波を防ぐ効果を示すSPF値と、A波に対応するPA値があります。しかし製品自体の数値が高くても水や汗で簡単に落ちてしまうようでは、海水浴やスポーツ時に効果が期待できません。このように化粧品開発においては使い勝手や使用シーン等にも配慮した商品化が大切であり、効果を示す数値だけを競い合っても意味が無いのです。

(2)スキンケアによるアレルギー予防の可能性
 次に医療と化粧品の融合によるQOL向上の一例を紹介します。
 我々は長年の共同研究先である慶應義塾大学医学部に「コーセー スキンケア・アレルギー予防医学寄附講座」を開設し、天谷雅行教授を講座主任とするアレルギー予防に関する研究を支援しています。このテーマを紹介すると、従来アレルギー疾患は体内の免疫異常から発症するとされていましたが、最近では、はじめに皮膚のバリアが何らかの要因で乱れることが原因で、アレルギーの原因物質が侵入、それが全身性のアレルギー疾患をひきおこすという、今までの常識とは異なるメカニズムの可能性が分かってきました。これは逆に皮膚のバリアをスキンケアで防御できれば、様々なアレルギーの発症を未然に防げる可能性が出てきたということです。現代では3歳までの子供の4割がアレルギーを持つと言われていますが、幼少時のスキンケアによって様々なアレルギー疾患のリスクを下げることができれば、大きな社会的意義につながります。化粧品は、副作用リスクがつきものの医薬品とは異なり、誰もが安心して手軽に使えることに大きな特長があり、これを活かせば、このような予防医療的なセルフメディケーション領域における活用も期待できるのです。

(3)老化研究の最前線
 最後に老化研究の最前線を紹介します。
 京都大学の山中先生のノーベル賞で注目されたiPS細胞は、再生医療などへの活用が期待されています。当社の研究所では昨年、この京都大学iPS細胞研究所の元・特任教授の加治先生と共同で、皮膚の真皮細胞からiPS 細胞を作製し解析を行う新たな研究を開始しました。通常の細胞をiPS細胞を介して分化前の万能細胞にリセット可能ということは、老化した細胞もiPS細胞にすることで老化をリセットできるかもしれないという発想です。当社は今回、同一人物から30年以上にわたり採取し続けた皮膚細胞を用い、様々な年齢における細胞をiPS化させたところ、万能細胞へのリセットだけでなく、老化の痕跡までリセットされることを確認したのです。あくまでも細胞での実験レベルであり、皮膚細胞の若返りが可能になったわけでもありませんが、老化メカニズム解明には大きな前進と言えます。

 このように我々は化粧品を通じて、人々の生活に潤いや彩りを提供するだけでなく、その基盤技術である最新の皮膚科学の成果や化粧品の特性を活かして、より広い意味での人々のQOL向上にも取り組んでいるのです。