卓話


住宅から始める省エネ

2014年5月14日(水)

サンゴバン・アジア・パシフィック地域代表部
副代表 日本担当
フランソワ・ザビエ リエナール


 (1)エネルギー生産が抱える問題点
 私達が日頃消費している電気を作るエネルギーには、様々な生産方法があります。火力・水力・原子力といった旧来の発電方法は、化石燃料を輸入に頼っているという地政学的リスクやコストの問題、更にはCO2排出や自然破壊という環境問題、そして原子力における重大事故の際の安全性等、多くの問題を抱えています。近年脚光を浴びている太陽光や風力等の自然エネルギーは、安定性の面で問題があります。また、景観を損ねる等の観光資源への影響も指摘されており、必ずしもバラ色の未来に満ちているものではなさそうです。これらの小規模発電を効率よく行うための仕組みも様々に検討されていますが、まだまだ壁は厚い様です。

 皆様にご提案申し上げたいのは、エネルギー生産に関する新しい技術や制度設計の話ではなく、もっと根本的な部分でのエネルギー消費量を抑制するという話です。当たり前ですが、エネルギーの需要そのものを減らすことが出来れば、その生産にまつわる諸問題を少なくできます。つまり、カギとなるのはエネルギー効率を良くするために、私達が何をするべきなのかということです。

 (2)エネルギー需要の抑制がカギ
 エネルギーの消費は輸送部門、産業部門、そして建築物・住宅等の民生部門の三つの分野に分けられます。2010年時点でのそれぞれの割合を見ますと、産業部門43.9%、輸送部門22.9%、民生部門33.2%となっており、オイルショックが起きた1973年と比べてそれぞれ0.9倍、1.9倍、2.5倍となっております。産業部門では省エネの努力が進んでいますが、民生部門では消費が大きく増えていることが見て取れます。この民生部門の省エネを進めることが、日本全体のエネルギー需要抑制にとって大変重要になってきます。

 建築物のエネルギー効率改善のために最初に考えるべきことは、躯体性能の向上です。天井・屋根・床・壁・窓・ドア等の断熱性能を高めて効率の良い温熱環境にすれば、消費する冷暖房エネルギーを大きく減らすことができます。躯体の性能を高めずに高性能のエアコンや給湯器、或いは太陽光発電を設置しても、それは穴の開いたバケツに高性能な蛇口で水を注ぎ続ける様なものです。ゼロエネルギー、さらにはプラスエネルギーの建築を実現するためには、先ず躯体の省エネ性能を考えねばなりません。

 これは決して理想論ではなく、フランスでは政府が主導して、新築ならば2020年までに建築物の一次エネルギー消費量を40kWh//年に抑える、既存建物は改修によって最大80kWh//年に抑えるという政策が進んでいます。また、2011年以降は全ての建物に「エネルギー性能証明書」の取得が義務付けられ、省エネ性能が不動産取引価格に反映される仕組み作りがなされています。同時に税制優遇や住宅ローンの金利優遇といった金融的措置から、建築業者向けの研修プログラムの実施まで、省エネ建築促進に必要なあらゆる施策が行われています。

 (3)日本の社会が享受するメリット
 残念ながら今の日本では、建築物の省エネ基準は欧州に比べて大分低く、尚且つ義務ではなく努力目標に過ぎません。しかし、心ある建築関係者の努力によって、欧州のパッシブハウス同等レベルのゼロエネルギー住宅も普及し始めてきています。こうした建物に住めば、光熱費の節約は勿論、建物の耐久性と資産価値の向上、室内空気の快適性向上と健康増進といったメリットが得られます。

 また、日本全体としても、貿易赤字の削減、地政学的リスクの低減、CO2排出の削減、建築業界の雇用創出、ひいては産業界全体の競争力維持・向上といった効果まで見込めます。最も安価でクリーンなエネルギーとは、生成する必要が無いエネルギーであり、建築物のエネルギー消費を抑制することが今後の日本社会の活性化の一つのドライバーになると思います。